
建設業を営む上で欠かせないのが「建設業許可」。その中でも、最もスタンダードで取得件数が圧倒的に多いとされるのが、「知事許可 × 一般建設業」です。
本記事では、「知事許可 × 一般建設業」がどういった事業者に適しているのか、どのような条件を満たす必要があるのか、そして申請から取得までの流れを、東京都江東区および沖縄県那覇市の皆様に向けて詳しく解説します。
1.「知事許可 × 一般建設業」とは?
(1)知事許可とは?
「知事許可」とは、営業所が1つの都道府県の中だけにある場合に必要な許可です。たとえば、東京都内(江東区など)にしか営業所がない、または沖縄県内(那覇市など)にしか営業所がない場合は、「知事許可」が必要です。
営業所が他県にまたがって存在している場合は「大臣許可」となりますが、1県内に複数あっても「知事許可」のままで構いません。
(2)一般建設業とは?
「一般建設業」とは、1件あたりの下請け発注金額が4,000万円未満(建築一式工事は6,000万円未満)で行う工事を請け負う元請業者向けの許可です。
また、工事を自社の職人で直接施工する(下請けに出さない)スタイルであれば、一般建設業で十分対応可能です。
2.この類型が向いている事業者とは?
私たち行政書士が日々ご相談を受けている中で、最も多いのが「知事許可 × 一般建設業」に関する申請です。次のような事業者に特に向いています。
- 地元密着型で営業所を県内に絞っている
- 工事の大半を自社施工で行っている
- まだ設立して間もなく、実績が発展途上
- 元請けで大規模案件を扱う予定は当面ない
- 初めて建設業許可を取得しようとしている
この許可は、事業の第一歩として最適な選択肢です。取得のハードルが他の類型に比べて低く、申請の実務も比較的スムーズです。
3.許可取得のための4つの基本要件
建設業許可を取得するためには、次の4つの要件をすべて満たしている必要があります。
(1)経営業務の管理責任者がいること
- 建設業の経営業務に5年以上携わった経験がある役員などが必要です。
- 近年は要件が緩和され、補完制度(複数人の経験を合算するなど)も用意されています。
(2)専任技術者が営業所に常勤していること
- 国家資格を保有しているか、10年以上の実務経験がある職員など。
- 専任性が重要で、他の営業所や会社と兼務している場合は要件を満たしません。
(3)財産的基礎があること
- 一般建設業の場合は、純資産が500万円以上あることが基本です。
- 仮に500万円に満たない場合でも、「500万円以上の資金調達能力がある」ことを証明すればクリア可能です(例:銀行の残高証明書や融資可能証明書の提出)。
(4)誠実性・欠格要件に該当しないこと
- 過去に重大な法令違反や税金滞納がないこと。
- 反社会的勢力との関与がないことも含まれます。
4.「一般建設業」と「特定建設業」の違い
比較項目 | 一般建設業 | 特定建設業 |
下請発注額 | 4,000万円未満(建築一式は6,000万円未満) | 4,000万円以上(建築一式は6,000万円以上) |
財務要件 | 純資産500万円以上 | 自己資本4,000万円以上+資本金2,000万円以上など |
技術者要件 | 資格 or 実務経験でOK | さらに「指導監督的実務経験」などが必要 |
活動範囲 | 都道府県内(知事) or 全国(大臣) | 同様 |
「一般建設業」は、特定建設業と比べて、求められる体制・財務の基準が緩やかなため、中小企業・個人事業主に最も馴染みやすい制度です。
5.申請に必要な主な書類(例)
実際に申請する際には、次のような書類を整えて提出する必要があります。
- 登記簿謄本(法人の場合)
- 営業所の写真
- 営業所の賃貸借契約書の写し
- 経営業務管理責任者の略歴書・証明書類
- 専任技術者の資格証や実務証明書
- 決算書・残高証明書等(財産的基礎の証明)
- 誓約書、身分証明書、登記されていないことの証明書
※申請書類のフォーマットや細かい内容は、東京都や沖縄県の窓口で異なる場合がありますので、事前に確認・相談をおすすめします。
6.よくある質問と実務上の注意点
Q1:資本金が500万円以上ないとダメですか?
→ いいえ。「資本金」ではなく「純資産」が500万円以上あるかが判断基準です。資本金が少なくても、累積の利益で純資産が500万円を超えていれば問題ありません。
Q2:資格がない場合でも専任技術者になれますか?
→ はい。10年以上の実務経験があれば、国家資格がなくても専任技術者として認められます。
Q3:営業所は自宅でも大丈夫?
→ 必要な要件(固定電話、机、施行用図面の保管スペース等)を満たせば可能ですが、あまりに形式的だと実態がないと判断されるリスクがあります。
7.許可取得後の注意点
許可を取得した後も、定期的な更新や報告義務があります。
- 毎事業年度終了後「決算変更届」の提出
- 5年ごとの「更新申請」
- 変更があった際の「変更届」提出
これらの手続きが漏れると、許可の失効や取消のリスクがあるため、行政書士などの専門家と連携して運用することが望ましいです。
8.まとめ 最初の一歩は「知事許可 × 一般建設業」から
「知事許可 × 一般建設業」は、建設業許可制度の中でももっとも取得しやすく、実用性の高い類型です。
- 地域密着の小規模施工業者から、これから成長を目指す法人まで幅広く対応
- 財務や体制のハードルが比較的低く、実務に即した許可形態
- 多くの建設事業者がまずはこの類型からスタートしています
将来的に大規模案件を請け負う、営業所を複数県に展開するという成長戦略を描いている場合でも、この「知事 × 一般」からステップアップしていくのが一般的な流れです。
許可の取得・維持をスムーズに行うためには、事前の制度理解と綿密な書類準備、そして行政書士などの専門家との連携がカギになります。