
相続対策を考えるとき、最も基本でありながら誤解されやすいのが「遺言書に登場する人物たち」の役割と関係性です。遺言書は、亡くなった方の意思を形にして残す大切な法的文書ですが、それを巡って関係者の理解が不足していると、相続トラブルが発生しやすくなります。
今回は、遺言に関わる4つの重要な人物——遺言者・推定相続人・受遺者・遺言執行者について、それぞれの立場や注意点を、東京都江東区および沖縄県那覇市の皆様向けに、わかりやすく解説します。
1.遺言者とは 遺言を作成する人
「遺言者(いごんしゃ)」とは、遺言を作成する本人のことを指します。相続人や受遺者のために、自分の財産をどのように配分したいかを記した人、つまり被相続人となる方です。
遺言を作成できる条件(遺言能力)
遺言書を作るには「遺言能力」が必要です。これは民法で以下のように定められています。
- 満15歳以上であること
- 判断能力(意思能力)があること
たとえば、高齢で認知症が進行しているような場合、遺言能力がないと判断される可能性があり、その場合は遺言が無効とされるリスクがあります。
遺言能力が疑われる可能性がある場合には、医師の診断書を取得したり、公正証書遺言を選んだりすることで、遺言の有効性をより確実にすることが可能です。
2.推定相続人とは 将来相続人になる立場の人
「推定相続人」とは、現時点で遺言者が亡くなった場合に、法律上の相続人となる人のことです。実際に相続が発生する前段階であるため、「推定」という表現が使われます。
主な推定相続人の例
- 配偶者
- 子ども(養子を含む)
- 直系尊属(両親や祖父母)
- 兄弟姉妹 など
家族構成によっては、推定相続人が複数名存在し、利害が対立することもあります。そのため、遺言書の内容によっては、特定の推定相続人が遺留分侵害額請求(旧・遺留分減殺請求)をするケースもあり得ます。
遺言者が「誰に、何を、どれだけ」与えるのかを決定する際には、推定相続人の存在を正確に把握しておくことが必要です。
3.受遺者とは 相続人以外で遺贈を受ける人
「受遺者(じゅいしゃ)」とは、遺言によって財産を譲り受ける人のことを言います。大きく分けて次の2種類があります。
(1)包括受遺者
- 遺産の割合で受け取る人(例:「全財産の1/2を譲る」)
- 相続人に近い法的立場を持ちます
- 遺産の債務(借金など)も同様に包括的に承継する可能性あり
(2)特定受遺者
- 特定の財産を受け取る人(例:「江東区の不動産を譲る」)
- 債務は承継せず、指定された財産のみ取得
注意点
受遺者は、相続人以外の第三者であることも多く、その存在が推定相続人とのトラブルの火種になることもあります。たとえば、特定受遺者に多くの財産が渡る遺言内容だった場合、推定相続人の遺留分が侵害されていると判断されることがあります。
特に、内縁の配偶者や長年介護してくれた知人に対して遺産を遺したい場合は、遺言内容の正確な記載と、遺留分への配慮が必要になります。
4.遺言執行者とは 遺言を実現する人
「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」は、遺言者の死後、その遺言の内容を実際に実現していく責任者です。相続手続きの実務的な処理を行う重要な存在で、遺言書の中で指定されるか、家庭裁判所により選任されます。
遺言執行者が行う主な業務
- 遺産目録の作成
- 預貯金や不動産の名義変更・移転登記
- 相続人や受遺者への財産の引き渡し
- 相続税の申告補助(税理士と連携)
- 遺言に関するトラブル対応
遺言執行者が必要になる場面
- 相続人間での対立が予想される場合
- 未成年の相続人がいる場合
- 相続人以外に遺贈を行う場合
- 特定の使途(例:寄付、事業承継)を伴う遺言内容である場合
公正証書遺言で遺言執行者を指定しておけば、手続がスムーズに進行しやすくなります。
5.遺言執行者の資格と選任方法
資格制限
遺言執行者には以下のような制限があります。
- 未成年者や破産者は就任不可
- 相続人・受遺者・第三者いずれでも就任可能
- 法人でも可(弁護士法人、司法書士法人など)
選任の方法
- 遺言書に記載されていればその人物が就任
- 記載がない、または就任を拒否された場合は、家庭裁判所が選任
なお、遺言執行者に指名された者は、就職(引き受け)を承諾するか自由に選ぶことができます。ただし、承諾した場合は、相続手続きを誠実に履行する責任が発生します。
6.まとめ 関係者の理解が相続トラブルを防ぐ
遺言書に関わる4つの登場人物、
- 遺言者
- 推定相続人
- 受遺者
- 遺言執行者
これらは、相続という一大手続きの円滑な実施に不可欠な存在です。それぞれの立場や役割をしっかり理解することで、遺言内容が正しく実現され、相続人間の争いを最小限に抑えることができます。
特に、相続人以外の第三者に遺産を遺したい場合や、相続人間の対立が予想される場合には、遺言執行者の指定は実務上、極めて重要です。行政書士や弁護士など専門家を遺言執行者に指定することで、感情的な対立を避けながら法的に適切な手続きを行うことが可能になります。