
高齢化社会の中で、財産管理や承継の方法として
- 家族信託
- 後見制度(任意後見・法定後見)
のいずれか、あるいは両方を検討する方が増えています。
制度選びでは「柔軟性」「安心感」も重要ですが、
実務では長期的なコストが意思決定の大きな要因になります。
今回は、江東区と那覇市での実務相場をベースに、家族信託と後見制度の費用をシミュレーションし、長期的な負担の違いを具体的に見ていきます。
目次
1. 家族信託と後見制度の費用構造
家族信託の費用
- 信託契約書作成費
- 専門職(行政書士・司法書士・弁護士)への報酬
- 財産規模や設計の複雑さで変動
- 公証役場費用(任意)
- 公正証書化する場合に発生
- 登記費用(不動産信託時)
- 登録免許税・司法書士報酬
- 信託管理報酬(任意)
- 専門職が受託者の場合のみ
後見制度の費用
- 申立費用
- 印紙代・郵便切手代・診断書料など
- 後見人報酬(継続費用)
- 法定後見人や任意後見監督人への報酬
- その他経費
- 後見業務のための交通費、書類取得費用など
2. 江東区・那覇市の実務相場
家族信託(個人受託者・不動産あり想定)
- 契約書作成:30~60万円(江東区や首都圏では50万円超が多い)
- 公正証書化:3~8万円
- 登記費用:登録免許税=固定資産税評価額×0.4%
司法書士報酬:5~10万円 - 維持費:受託者が家族ならゼロ
後見制度(法定後見・専門職後見人想定)
- 申立費用:5~8万円(診断書代込み)
- 後見人報酬:
- 江東区:月3~6万円(年36~72万円)
- 那覇市:月2~4万円(年24~48万円) - 維持費:後見業務に必要な交通費等、年間数千~数万円
3. 10年間のコストシミュレーション
前提条件
- 管理財産:自宅不動産(評価額3,000万円)、預貯金1,000万円
- 家族信託は家族が受託者
- 後見制度は専門職後見人が就任
家族信託の場合(10年)
項目 | 費用 |
契約書作成 | 50万円 |
公正証書 | 5万円 |
信託登記(登録免許税・司法書士) | 約17万円 |
管理報酬 | 0円(家族受託) |
合計(10年) | 72万円 |
後見制度の場合(10年)
項目 | 費用 |
申立費用 | 7万円 |
後見人報酬(江東区相場:年48万円) | 480万円 |
合計(10年) | 487万円 |
※那覇市相場(年36万円)では367万円
差額(10年)
- 江東区相場:約415万円の差
- 那覇市相場:約295万円の差
4. 期間別コスト比較
期間 | 家族信託(家族受託) | 後見制度(江東区) | 差額 |
5年 | 約72万円 | 約247万円 | 約175万円 |
10年 | 約72万円 | 約487万円 | 約415万円 |
15年 | 約72万円 | 約727万円 | 約655万円 |
5. 実務での注意点
家族信託の落とし穴
- 設計ミスで目的を果たせない(不動産売却権限を付け忘れるなど)
- 登記・契約の不備で金融機関取扱い拒否
- 相続発生時の信託終了処理に別途費用発生
後見制度の落とし穴
- 報酬基準は裁判所判断で上がる可能性あり(財産が増えたり業務が複雑化した場合)
- 財産の使途に裁判所の許可が必要で柔軟性がない
- 長期になるほど報酬負担が大きくなる
6. 江東区と那覇市の傾向
- 江東区:後見人報酬が全国的にも高め。資産管理の厳格さや不動産売却案件で専門職選任率が高い。
- 那覇市:報酬水準はやや低めだが、裁判所の運用は比較的柔軟。親族後見人が選ばれる割合も江東区より高い。
7. まとめ
- 家族信託(家族受託)は初期費用はかかるが維持費がほぼゼロ
- 後見制度は初期費用が少なく見えても長期では高額になりやすい
- 江東区と那覇市では後見報酬の相場に大きな差がある
- 制度選びは「期間」「資産規模」「誰が管理するか」で総額が変わる
費用だけでなく柔軟性や安心感も含めて設計することが重要です。
特に10年以上の長期管理が想定される場合、家族信託のコスト優位性は非常に大きくなります。