相続・遺言で活躍する「家族信託」とは?成年後見制度との違い、メリット・デメリットを徹底解説

近年、「家族信託(民事信託)」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
これは、相続や老後の財産管理において非常に柔軟性が高く、場合によっては成年後見制度や遺言よりも効果的に使える制度です。

ただし、万能ではありません。向き・不向きがあり、税務や契約内容の設計を誤るとトラブルの原因にもなります。
今回は、沖縄県那覇市と東京都江東区で行政書士として相談を受ける中で感じるポイントを交えながら、家族信託のメリット・デメリットを整理します。

目次

1. 家族信託とは?

家族信託は、自分の財産を信頼できる家族(または親しい人)に託し、その人が契約内容に基づいて財産を管理・運用・処分する仕組みです。
法律的には「信託法」に基づく制度で、委託者(財産を持つ人)・受託者(財産を託される人)・受益者(利益を受け取る人)の三者が登場します。

たとえば、江東区在住の高齢の父が「もし自分が認知症になったら、長男に不動産を売却して施設費用にあててもらいたい」と考える場合、父(委託者)が元気なうちに長男(受託者)との間で家族信託契約を結んでおくことで、父の判断能力が低下しても長男は契約内容に沿ってスムーズに不動産を売却できます。

2. 成年後見制度との大きな違い

財産管理の制度といえば、まず思い浮かぶのが「成年後見制度」です。
成年後見制度では、判断能力が低下した本人に代わって後見人が財産管理を行いますが、次のような制約があります。

  • 不動産売却には家庭裁判所の許可が必要
  • 株式投資や不動産活用による資産運用は原則不可
  • 相続税対策としての生前贈与や資産組み換えも制限あり

つまり、「守る」ことには強い制度ですが、「積極的に活用する」ことには向いていません。

一方、家族信託は委託者が元気なうちに契約内容を自由に設計できるため、将来の判断能力低下後も契約で定めた通りに柔軟な運用が可能です。
たとえば、不動産売却、賃貸運営、相続税対策のための資産入れ替えなども契約内容に盛り込めます。

3. 家族信託のメリット

判断能力低下後も柔軟な資産活用が可能

成年後見制度では不可能だった売却・運用・相続税対策が、信託契約で事前に決めておけば実行可能です。
那覇市でも江東区でも、施設入所時に自宅を売却して入所費用に充てたいというニーズは非常に多く、信託を使えば裁判所の許可を待つことなく実行できます。

所有権が移ることで「撤回リスク」を防げる

遺言は本人の意思でいつでも書き換え可能なため、相続人間での“遺言書き換え合戦”が起きることもあります。
しかし、信託では契約時に形式上の所有権が受託者に移るため、一度設定すれば簡単には撤回されません。圧力による遺言変更リスクを減らせます。

③ 2代・3代先の承継者を指定できる

民法の遺言では、直接的には次の相続(1代限り)しか指定できません。
しかし信託では「長男が亡くなったら次は孫、その後は曾孫へ」というように、将来の承継者を複数代にわたって指定可能です。資産を長期的に守りたい場合に有効です。

信託財産は受託者の債権者から守られる

信託財産は受託者の固有財産ではないため、仮に受託者が破産しても差し押さえられません。
これは事業をしている家族を受託者にする場合にも安心材料となります。

4. 家族信託のデメリット・注意点

身上監護権はない

成年後見制度では、財産管理だけでなく介護施設との契約や介護保険サービスの利用契約など「身上監護権」が付与されます。
家族信託にはその機能がないため、介護契約や生活支援は別の方法(任意後見や親族による代理など)で補う必要があります。

監督機能は成年後見制度より弱い

信託契約では受託者の行動を監視する役割として「信託監督人」を置くことができますが、任意選任なので置かないケースもあります。
受益者が高齢や障がいで監督能力がない場合、後見制度のような家庭裁判所の強制的な監督がないため、管理の透明性が下がる恐れがあります。

税務リスクがある

信託は税務上も特殊な扱いを受けます。契約内容次第で贈与税や譲渡所得税が発生する場合があります。
特に不動産を信託する場合、登録免許税や固定資産税の取り扱いにも注意が必要です。那覇市でも江東区でも、不動産評価額が高い地域ほど税負担の影響が大きくなります。

設計ミスは致命的

不動産の売却権限を入れ忘れたり、信託終了後の財産帰属先を曖昧にしたりすると、契約が機能しなくなります。必ず専門家によるチェックが必要です。

5. 那覇市・江東区での活用事例

事例1:江東区の不動産活用型信託

  • 委託者:80代女性
  • 財産:江東区内の自宅マンションと賃貸アパート
  • 目的:認知症になってもアパートを運営し、収益で生活費と施設費用を賄う
  • 信託内容:長男を受託者に指定し、売却や建替えも可能に設定

→ 成年後見制度では不可能だった「建替えによる収益増加」を可能に

事例2:那覇市の二次相続対策信託

  • 委託者:70代夫婦
  • 財産:那覇市内の自宅、金融資産3,000万円
  • 目的:夫亡き後、妻→長男→孫へと承継
  • 信託内容:受益者を順次変更する形で3代先まで指定

→ 遺言ではできない承継指定を実現

6. 家族信託を検討するタイミング

  • 将来の認知症リスクに備えたい
  • 不動産の活用・売却をスムーズにしたい
  • 複数代にわたって資産承継を指定したい
  • 成年後見制度の制約を避けたい

特に、那覇市や江東区のように地価が高い地域では、不動産活用や相続税対策が重要になります。元気なうちから設計を始めることが大切です。

7. まとめ

家族信託は、成年後見制度や遺言では実現できなかった柔軟な財産管理・承継を可能にする制度です。
しかし、身上監護権がない、監督機能が弱い、税務リスクがあるなどのデメリットもあり、万能ではありません。

制度の特徴を正しく理解し、自分や家族の事情に合った形で設計することが何より重要です。
那覇市や江東区での実務経験からも、信託契約は専門家(行政書士・司法書士・税理士等)のチームで作ることを強くおすすめします。

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