相続・遺言の新しいルール解説、婚姻20年以上夫婦の居住用不動産特例とは

目次

1 相続・遺言制度を取り巻く法律改正の背景

相続や遺言に関するルールは「民法」に定められています。平成30年7月、この民法に大きな改正が行われました。約40年ぶりの抜本的な改正であり、社会情勢や高齢化を踏まえて、より実情に即した仕組みが導入されています。

ただし、この改正民法は一度に全て施行されたのではなく、平成31年1月から数年にわたり段階的に施行されました。
その中で注目すべきルールのひとつが 「婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与・遺贈の特例」 です。

東京都江東区や沖縄県那覇市のように、持ち家で暮らす方が多い地域では特に関係が深く、夫婦の老後や配偶者の生活基盤を守る重要な制度といえます。

2 従来のルールと問題点

(1)生前贈与とは

生前贈与とは、被相続人となる人が生きているうちに財産を譲り渡すことを指します。代表例としては、夫が妻に自宅を生前に贈与するケースがあります。

しかし、これまでは問題がありました。
配偶者に自宅を贈与しても、それは「相続財産の前渡し」とみなされ、相続時の遺産分割や遺留分算定に加算される扱いになることが多かったのです。

つまり、せっかく妻に安心して住んでもらえるようにと生前贈与しても、他の相続人(子など)との遺産分割協議で「それはすでに妻がもらっているから」と評価され、結局は揉め事につながる可能性があったのです。

3 改正後のルール(婚姻20年以上特例)

これを受けて民法は改正されました。

婚姻期間が20年以上ある夫婦の場合、居住用不動産やその敷地を配偶者に対して贈与、あるいは遺言で遺贈したときは、その不動産を遺産分割や遺留分算定の対象に含めなくてもよい、という特例が設けられました。

(1)対象となる財産

  • 居住用不動産(建物)
  • その敷地(底地)

(2)要件

  • 婚姻期間が20年以上であること
  • 贈与または遺贈の対象が居住用不動産であること

(3)効果

  • その居住用不動産は相続人間での分割協議に持ち込まれない
  • 他の相続人の遺留分を侵害しない扱いとなる

これにより、長年連れ添った配偶者が、安心して自宅に住み続けられるようになりました。

4 具体的な事例解説

事例1:江東区のケース

江東区のAさん夫婦は、結婚35年目。夫名義のマンションに暮らしています。夫は「自宅は妻に残したい」と考え、生前に妻へ名義を移す贈与契約を結びました。

改正前であれば、夫の死後に子どもたちから「自宅はもうもらったのだから、他の財産は少なくしてほしい」と言われかねませんでした。
しかし改正後は、妻が受け取ったマンションは遺産分割の計算から除外されます。そのため、妻は安心して住み続けられます。

事例2:那覇市のケース

那覇市のBさん夫婦は、築30年の一戸建てに住んでいます。Bさんは遺言で「自宅と敷地は妻に残す」と記しました。婚姻期間は40年以上。

この場合も、遺言で指定した不動産は遺産分割に含めなくてもよいため、子どもたちは自宅を分け合う必要がなく、妻の居住権が守られます。

5 契約文例(贈与契約書の一例)

実際に生前贈与を行う場合は、書面で契約を残しておくことが重要です。以下は簡易的な文例です。

居住用不動産贈与契約書(例)

贈与者〇〇〇〇(住所・氏名)は、受贈者△△△△(住所・氏名)に対し、下記不動産を無償で贈与することを約し、受贈者はこれを受諾した。

  1. 所在地:東京都江東区〇〇町〇丁目〇番〇号
  2. 家屋番号:〇〇番
  3. 種類:居宅
  4. 構造:木造瓦葺2階建

本契約締結日:令和〇年〇月〇日
贈与者:署名押印
受贈者:署名押印

実務では、司法書士に依頼して登記移転まで完了させる必要があります。

6 費用シミュレーション

贈与を行う場合、気になるのは税金や手続き費用です。

(1)登録免許税

不動産の名義変更に必要。固定資産税評価額の2%が目安。

(2)贈与税

婚姻20年以上の配偶者控除を利用可能。

  • 居住用不動産またはその取得資金の贈与については、2000万円まで非課税。
  • さらに基礎控除110万円も加わるため、最大2110万円まで非課税枠を利用できます。

(3)専門家報酬

  • 行政書士:贈与契約書作成 5万〜10万円程度
  • 司法書士:登記申請 7万〜15万円程度
  • 税理士:贈与税申告サポート 5万円前後

合計費用の目安:20万〜30万円程度

7 実務上の注意点

  • 贈与契約は必ず書面で残すこと
  • 登記をして初めて名義変更が有効になること
  • 贈与税の申告は忘れずに行うこと(翌年2月〜3月)
  • 遺言を作成する場合は、公正証書遺言にしておくと紛争防止になる

8 まとめ

改正民法によって導入された「婚姻20年以上夫婦の居住用不動産特例」は、長年連れ添った夫婦の生活基盤を守るために大変有効な制度です。

東京都江東区のマンション暮らしのご夫婦、沖縄県那覇市の一戸建てに住むご夫婦、いずれの地域でも「自宅をどう相続させるか」は重要な問題です。

この特例を正しく理解し、贈与契約や遺言を準備することで、残された配偶者が安心して暮らせる仕組みを作ることができます。専門家に相談しながら早めの対策を進めることをおすすめします。

行政書士見山事務所は生前対策や遺言作成に精通しており、また提携する司法書士と連携したスムーズな手続きが可能です。ぜひお気軽にご相談下さい。

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