
相続や遺言を考える際、避けて通れないのが「遺留分(いりゅうぶん)」という制度です。遺留分とは、被相続人(亡くなった方)の意思を尊重しつつも、一定の法定相続人に最低限保障される取り分のことを指します。
例えば、被相続人が遺言で「全財産を特定の子ども一人に相続させる」と記載したとしても、他の子どもには遺留分が保障されているため、その権利を侵害する遺言は無制限に認められるわけではありません。
ただし、この遺留分制度については、従前のルールでは相続実務において数多くの問題が発生していました。そのため、2019年(令和元年)の民法改正により、大きな見直しがなされました。今回は、その改正点と実務への影響を整理してご紹介します。
1 旧制度における遺留分の問題点
従来の遺留分制度では、遺留分を侵害された相続人は「遺留分減殺請求権」という権利を行使することで、対象となる財産の返還を求めることができました。
この際、返還の対象となる財産は「現物そのもの」でした。つまり、相続財産の中に不動産が含まれている場合、不動産の一部を返還することがあり、その結果、当該不動産の共有関係が発生してしまうことが少なくありませんでした。
しかし、不動産の共有状態が生じると、以下のような実務上の問題が起こります。
- 共有者全員の同意がなければ売却や処分ができない
- 利用方法を巡って共有者間で意見が対立する
- 揉め事が長期化し、相続問題が解決しない
このように、かえってトラブルを深刻化させるケースが相次いでいました。
2 新制度(2019年改正)で導入された「遺留分侵害額請求」
こうした問題を解消するため、2019年の改正で導入されたのが「遺留分侵害額請求権」です。
新しいルールでは、遺留分を侵害された相続人は、不動産そのものの返還を求めることはできなくなりました。その代わりに、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できるようになったのです。
つまり、返還の対象は「現物」ではなく「金銭」に限定されました。これにより、不動産の共有状態が生じるリスクを避け、相続問題の解決を円滑に進めることが可能となりました。
なお、金銭の支払いについては、直ちに一括で支払えない場合もあります。その場合、裁判所に申し立てを行い、相当の期限を付与してもらうことも可能です。これにより、支払う側の負担を調整する仕組みも整えられました。
3 生前贈与と遺留分算定の関係 10年ルールの導入
もう一つ大きな改正点が、生前贈与に関するルールです。
従前の制度では、かなり昔に行われた生前贈与であっても、遺留分算定の基礎財産に加算されることがありました。例えば、20年前に子どもに与えた財産であっても、相続時に遺留分を計算する際の基準となる場合があったのです。
これでは、過去の贈与がいつまでも蒸し返され、相続時に大きな争いを生む原因となっていました。
そこで新ルールでは、相続開始から10年以内に行われた生前贈与のみを遺留分算定の基礎財産とすることになりました。
この「10年ルール」によって、将来の予測可能性が高まり、被相続人が生前に財産をどう使うか、相続人がどのように備えるかについての見通しが立てやすくなったといえます。
4 遺言を作成する際の実務への影響
今回の改正は、遺言を作成する際にも大きな影響を与えています。
例えば、被相続人が「全財産を配偶者に残したい」と考えて遺言を作成した場合、従前のルールでは遺留分減殺請求によって不動産が共有状態になってしまうリスクがありました。
しかし、新ルールのもとでは金銭での解決が基本となるため、遺言の内容を実現しやすくなりました。その結果、遺言を活用した相続対策が、より有効に機能するようになっています。
5 東京都江東区・沖縄県那覇市で特に注意すべき点
江東区や那覇市では、不動産を相続財産として持つケースが非常に多い地域です。
- 江東区は再開発エリアを含み、不動産価値が上昇している地域もあります。遺留分を巡る金銭請求額が高額化しやすいため、早めの遺言作成や資金対策が必要です。
- 那覇市は土地が先祖代々受け継がれているケースが多く、親族間での共有トラブルが相続時に顕在化する傾向があります。新制度によって共有リスクは減少しましたが、相続発生後に金銭支払い能力が不足すると、やはりトラブルに発展しかねません。
したがって、両地域に共通するのは「遺言作成段階から遺留分に配慮した設計をしておくこと」です。
6 まとめ 遺留分制度改正への対応は事前準備が重要
今回の改正により、遺留分制度はより合理的で実務に適したものとなりました。
- 不動産の共有リスクが解消され、金銭での解決が基本となった
- 生前贈与については10年以内に限定され、予測可能性が高まった
もっとも、金銭支払い義務が生じるため、資金計画や遺言内容の工夫はこれまで以上に重要です。特に、不動産を多く保有しているご家庭や、家族関係が複雑なケースでは、事前に専門家と相談しておくことで相続トラブルを未然に防ぐことができます。
東京都江東区や沖縄県那覇市にお住まいの皆さまも、この法律改正を踏まえて、自分や家族に合った相続対策を早めに検討されることをお勧めします。
行政書士見山事務所は終活や相続手続き、遺言作成に精通しています。お気軽にご相談下さい。