特別寄与料請求の裁判例に学ぶ〜江東区・那覇市の方へ相続実務の実態を解説〜

目次

1. はじめに

2019年7月の民法改正で新設された「特別寄与料請求制度」。
相続人ではない方が被相続人の介護や療養看護、事業への協力といった特別の貢献をした場合に、相続人に対して金銭を請求できる制度です。

しかし、この制度はまだ施行から数年しか経っておらず、実務上の運用は裁判例によって少しずつ方向性が固まりつつあります。
「どのような場合に請求が認められるのか」「金額はどう算定されるのか」、こうした疑問は実際の裁判例を参照することで理解が深まります。

今回は、いくつかの裁判例をご紹介し、江東区や那覇市にお住まいの皆様にも役立つ形で解説します。

2. 特別寄与料請求の基本ルールのおさらい

  • 請求できるのは 相続人以外(例:長男の妻、長女の夫など)。
  • 内容は 金銭請求に限られる(遺産を直接分与されるわけではない)。
  • 金額は介護や労務の内容・期間・程度を総合考慮して算定。
  • 相続人と協議で合意できなければ、家庭裁判所に調停・審判を申し立てる。

この「金額の算定方法」が明確に法律に書かれていないため、裁判例の分析が非常に重要になります。

3. 裁判例① 介護を担った長男の妻の請求

【事案の概要】
被相続人である義父が長期にわたり介護を必要とする状態であり、長男の妻が10年以上にわたり自宅で介護を行いました。相続人である子どもたちは遠方に住み、介護にほとんど関わらなかったため、妻が特別寄与料を請求。

【裁判所の判断】

  • 特別寄与の事実を認め、請求を一部認容。
  • 金額算定は、介護サービスを利用した場合にかかる費用(ホームヘルパーや施設利用料)を基準に、期間と頻度を掛け合わせて計算。
  • 最終的に約300万円の特別寄与料が認められた。

【ポイント】

  • 裁判所は「介護サービスの市場価格」を参考にする傾向。
  • 家族だから当然という論理ではなく、介護負担の客観的評価が重視される。

4. 裁判例② 家業を手伝った娘婿の請求

【事案の概要】
被相続人が営む小規模商店に、娘婿が無償で長年従事していたケース。店舗運営の多くを担い、実質的に収益の維持・拡大に貢献していたが、婿は法定相続人ではなかったため特別寄与料を請求。

【裁判所の判断】

  • 特別寄与に該当すると認定。
  • 「勤務により商店が存続し、財産維持に寄与した」と評価。
  • ただし金額については、実際の収益貢献度や市場での労務対価を参考に、請求額の半分程度に縮減。

【ポイント】

  • 家業への無償労務提供も特別寄与に含まれる。
  • ただし「どの程度財産の維持に貢献したか」が細かく審査される。

5. 裁判例③ 介護に費用を負担した長女の夫の請求

【事案の概要】
長女の夫が被相続人の療養費や医療費を自己資金で長年負担。相続開始後、特別寄与料を請求。

【裁判所の判断】

  • 実際に負担した領収書や通帳記録を提出していたため、請求を認めた。
  • 金額は実際に支出した額を基準に算定。

【ポイント】

  • 金銭負担も「特別寄与」に含まれる。
  • 領収書や記録といった 証拠資料の有無が極めて重要

6. 裁判例から見える実務上の傾向

ここまでの事例から、次のような傾向が見えてきます。

  1. 介護や家業への従事は評価されやすい
     特に長期間にわたる介護は、特別寄与と認定されやすい。
  2. 市場価格を基準に算定される
     介護サービス料や労務の賃金水準を参考にするため、請求額がそのまま認められることは少ない。
  3. 証拠がカギ
     介護日誌、領収書、勤務記録など客観的資料がなければ、寄与の程度を立証できず請求が退けられることもある。
  4. 請求額は縮減される傾向
     裁判所は「公平な調整」を重視するため、全額認められるケースは少なく、相当額に修正される例が多い。

7. 江東区・那覇市の実情に照らして

江東区

マンション居住が多く、高齢の親を自宅で介護する長男夫婦や長女夫婦が多いエリアです。介護サービスを利用する費用も高額になりやすいため、特別寄与料の算定で市場価格が基準になると、数百万円単位の請求が認められる余地があります。

那覇市

親世代と子世代が同居するケースや、家業を手伝う嫁・婿が多いのが特徴です。特に商店や小規模事業に無償で従事した貢献が、特別寄与として認められる可能性があります。

8. 実務上の注意点

  • 証拠を残すこと
     介護記録や支出の領収書は必ず保管。
  • 早めの請求意思表示
     遺産分割が終わる前に請求することで紛争を複雑化させない。
  • 専門家への相談
     金額算定は難しいため、専門家に相談し、裁判所基準に沿った主張を準備することが重要。

9. まとめ

特別寄与料請求制度は、相続人以外でも被相続人への貢献を評価できる画期的な制度です。しかし、実際にいくら認められるのかはケースごとに大きく異なり、裁判例を通じて少しずつ運用が明らかになってきています。

江東区や那覇市の皆様にとっても、身近な介護や家業手伝いの場面で活用できる可能性が高い制度です。とはいえ、証拠の確保や請求の仕方を誤ると権利が十分に守られないリスクもあります。

「自分の場合は特別寄与料を請求できるのか」「どのくらいの金額が見込めるのか」といった疑問を感じた際には、早めに専門家へ相談することを強くおすすめします。

行政書士見山事務所は終活相談や相続、遺言作成のプロフェッショナルです、お気軽にご相談下さい。

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