
建設業許可申請では、営業所ごとに「経営業務の管理責任者」「専任技術者」「令3条の使用人」を常勤で配置することが義務付けられています。ここでいう「常勤」とは、単に在籍しているだけでなく、日常的にその営業所に勤務し、生計を立てている状態を意味します。
この「常勤性」を判断するにあたり、審査機関が注目するポイントの一つが給与水準です。給与の額が常勤者として妥当かどうか、社会保険や税の処理が適切かどうかが、常勤性の裏付けとしてチェックされます。
本記事では、建設業許可申請における給与水準と常勤性の関係について、東京都江東区と沖縄県那覇市における実務上の注意点を交えながら解説します。
1. なぜ給与水準が常勤性の判断材料になるのか
建設業許可における「常勤」とは、次のような要素を満たすことを意味します。
- 主たる勤務先として日常的に勤務していること
- 当該勤務で生活の基盤を維持していること
- 他に主要な収入源や勤務先がないこと
したがって、給与の支給額が極端に低い場合、「本当にこの勤務先で生計を立てているのか?」という疑問を持たれやすいのです。
例えば、専任技術者が月に数万円程度しか給与を得ていない場合、常勤で勤務しているというより、兼務や形式的な在籍に近いと判断されるリスクがあります。
2. 給与水準を確認するために提出を求められる資料
建設業許可申請では、給与の支給実態を確認するために、以下のような資料が求められることがあります。
- 健康保険・厚生年金の資格取得通知書
社会保険に加入しているかどうかは、常勤性を示す有力な証拠です。 - 標準報酬決定通知書(社会保険料の算定基準)
給与水準が社会保険上どの程度であるかを確認できます。 - 住民税特別徴収税額通知書
給与から住民税が適切に徴収されていることが確認できます。 - 給与明細や賃金台帳
継続的に一定額が支給されていることを示すために有効です。
3. 東京都江東区における実務上の傾向
東京都、とりわけ江東区のような大都市圏では、審査の際に給与水準へのチェックが厳格です。
- 給与額が低いと「兼務ではないか」と疑われやすい
- 標準報酬決定通知書を必ず確認されるケースが多い
- 形式的な役職だけでなく、実際にフルタイムで勤務していることを立証する資料が必要
特に専任技術者や令3条の使用人は「営業所に常勤していること」が許可要件ですので、パートタイム勤務や低報酬では許可が下りない可能性があります。
4. 沖縄県那覇市における実務上の傾向
那覇市をはじめ沖縄県では、東京都と比較すると給与水準自体が低めであることも多く、地域事情を踏まえた柔軟な判断がされる場合があります。
しかし、柔軟さがあるとはいえ、以下の点は注意が必要です。
- 他の勤務先からの収入があると「兼務」と見なされる
- 社会保険に未加入で、かつ給与水準が低いと不許可リスクが高まる
- 「親族だから無報酬」「役員だから手当なし」というケースでは、特に疑念を持たれやすい
那覇市の場合でも、給与支給の実態を裏付ける資料(賃金台帳や源泉徴収票など)をしっかり整えることで、常勤性を立証することが可能です。
5. 実務で発生したトラブル事例
事例1:給与が低額で不許可に
江東区の建設会社で、専任技術者の給与が月5万円程度。審査で「生活できる水準ではない」とされ、常勤性が認められず許可が下りなかった。
事例2:無報酬役員の扱い
那覇市の建設会社で、役員が専任技術者を兼務。しかし役員報酬を支給していなかったため、常勤性が疑われ追加資料を求められた。結果として報酬支払いを開始し、再申請で許可が下りた。
事例3:兼業疑惑で調査
江東区の事業者で、令3条の使用人の給与が低く、さらに他社でも勤務している疑いが生じた。調査の結果、兼業が発覚し許可要件を満たさないと判断された。
6. トラブルを防ぐための実務ポイント
- 社会保険に加入させる
健康保険・厚生年金に加入していることは、常勤性の強力な証明になります。 - 給与を適正水準に設定する
地域の賃金相場に照らして、フルタイム勤務者として妥当な額を設定しましょう。 - 無報酬や極端に低い報酬は避ける
形式的な在籍と疑われやすく、許可取得が困難になります。 - 資料を複数組み合わせて提出する
標準報酬決定通知書+給与明細+住民税通知書など、証拠を積み重ねることで信頼性が高まります。
まとめ
給与水準は、建設業許可申請における常勤性の確認に直結する重要な要素です。
- 給与が低すぎると「常勤ではない」と判断されるリスクがある
- 東京都江東区では厳格にチェックされ、沖縄県那覇市では地域事情を考慮しつつも慎重に審査される
- 社会保険加入や適正な給与額の設定、給与明細や税関連書類の整備が必須
許可申請の準備にあたっては、単に役職者を配置するだけでなく、給与や勤務実態の裏付け資料を万全に整えることが何より大切です。
行政書士見山事務所は建設業許可申請に精通しております、お気軽にご相談下さい。