
1 はじめに
相続においては、被相続人の財産をどのように分けるかが大きな関心事となります。特に、介護や家業の手伝いなどを通じて長年にわたり被相続人を支えてきた親族がいる場合、その貢献をどう評価するかが問題になります。
2019年7月の民法改正により「特別寄与料」という新しい仕組みが導入され、法定相続人ではない親族(例えば長男の妻など)であっても、相続人に対して金銭を請求できるようになりました。
もっとも、制度に頼るだけでは紛争が避けられない場合もあります。そのため、被相続人があらかじめ遺言書に「特別寄与への配慮」を盛り込むことは、家族間のトラブルを防ぎ、本人の意思を明確にする上で非常に重要です。
ここでは、遺言書に特別寄与をどう反映させるか、その工夫と注意点を解説します。
2 特別寄与料とは
まずは制度の概要を整理しておきましょう。
- 対象者:法定相続人以外の親族(配偶者の親族、子の配偶者、孫の配偶者など)
- 要件:被相続人に対して無償で療養看護その他労務の提供をし、財産の維持や増加に特別の寄与をしたこと
- 効果:相続人に対して金銭の請求ができる
- 請求期限:相続開始から6か月以内に協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に申立てを行う必要がある
つまり、被相続人と同居して介護を続けた長男の妻などが対象となりやすい制度です。
しかし「いくらが妥当か」を巡って争いになるケースは多く、相続人と特別寄与者の間で感情的な対立に発展することも少なくありません。
3 遺言書に盛り込む意義
遺言書に特別寄与への配慮を記すことで、以下のような効果が期待できます。
- 本人の意思を明確化できる
特別寄与者への感謝や評価を、遺言という形で残すことができます。 - 相続人間のトラブルを防止できる
事前に「特別寄与に報いる意思」が示されていれば、相続人と特別寄与者との間で不要な争いを避けやすくなります。 - 金銭の支払方法を指定できる
例えば「現金から○○万円を長男の妻に与える」と記載すれば、寄与の対価を巡って協議する必要がなくなります。 - 家庭裁判所での審判を回避できる
制度上の請求に頼らず、遺言で明確にすれば裁判所に持ち込む必要がなくなります。
4 具体的な記載方法の工夫
(1)遺贈として明記する
特別寄与料相当額を、遺贈の形で遺言に書くのがもっとも確実です。
例文:
「私の妻〇〇に対して、長年にわたり私の療養看護に尽力してくれたことに感謝し、現金○○万円を遺贈する。」
(2)付言事項で感謝の気持ちを記す
付言事項は法的拘束力はありませんが、家族へのメッセージとして強い意味を持ちます。
例文:
「私の介護を献身的に担ってくれた〇〇に深く感謝しています。相続人は、この貢献に配慮して遺産分割を進めてほしいと思います。」
(3)代償金の支払いを指定する
相続人に対して「特別寄与者に○○円を支払うこと」を義務付ける書き方も可能です。
例文:
「長男△△は、相続財産の取得に際し、私の世話をしてくれた妻〇〇に対し、○○円を支払うこと。」
(4)信託の活用
財産規模が大きく、長期的に寄与者への配慮を続けたい場合は、家族信託を組み合わせる方法も考えられます。例えば、不動産から得られる賃料収入を一定期間寄与者に渡すといった設計です。
5 実務上の注意点
- 遺留分への配慮
遺言で寄与者に多額を渡す場合でも、相続人の遺留分を侵害すると争いの火種になります。金額設定には専門家の助言が必要です。 - 財産の流動性を確認
不動産しかない場合に「現金○○万円を渡す」と書くと、遺産分割や換価処分で混乱が生じます。財産の内容を踏まえた書き方が必要です。 - 感情面への配慮
遺言の文言に「誰のおかげで」など強い評価を入れすぎると、他の相続人が不公平感を抱くこともあります。付言事項は丁寧な表現を心がけましょう。 - 専門家による文案チェック
遺言は法的要件が厳格です。自筆証書遺言であれば形式不備による無効リスクがあり、公正証書遺言の活用も検討すべきです。
6 江東区・那覇市での相続事情と活用例
江東区の場合
不動産価格が高く、預貯金よりも不動産が主な資産という家庭が少なくありません。この場合、介護を担った親族に不動産の一部を遺贈するよりも、現金化可能な資産からの遺贈や代償金の指定が現実的です。
那覇市の場合
大家族や親族のつながりが強い傾向があり、介護を担うのが配偶者や子の配偶者であることが多いです。そのため「親族全体で寄与を尊重する」という付言事項を加えることが効果的です。
7 まとめ
特別寄与料の制度は、介護や生活支援を担った親族の貢献を正当に評価する画期的な仕組みです。しかし、制度に頼るだけでは金額の算定をめぐって争いが避けられないことも多くあります。
そのため、被相続人が生前に遺言書を作成し、特別寄与への配慮を明記しておくことが最良の対策となります。
- 遺贈として具体的金額を記す
- 付言事項で感謝の気持ちを残す
- 相続人に代償金支払いを義務付ける
- 財産内容に応じて信託の活用を検討する
こうした工夫により、家族の努力が正当に評価され、相続人間のトラブルを防ぎ、安心して将来を迎えることができます。
行政書士見山事務所は終活相談や相続、遺言作成のプロフェッショナルです、お気軽にご相談下さい。