
遺言書は「自分の財産を、亡くなった後にどう分けるか」を決める大切な手段です。
しかし、遺言書にどのように書いてもいいわけではありません。民法では、一定の相続人に最低限保障されている「遺留分(いりゅうぶん)」という権利があり、これを侵害すると遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
本記事では、東京都江東区や沖縄県那覇市の皆様に向けて、
「遺留分とは何か?」
「どのように遺言書に反映すればよいか?」
「トラブルを避けるための具体的な書き方のポイント」
について実例を交えながらわかりやすく解説します。
1. 「遺留分」とは?誰にどれだけ認められているのか
遺留分とは、民法によって認められた、一定の法定相続人が最低限相続できる割合のことです。
どれだけ「全財産を○○に相続させる」と遺言書に書いても、他の相続人の遺留分を侵害する内容であれば、後から請求されるリスクがあります。
■遺留分が認められる相続人
遺留分を請求できるのは、以下の相続人です:
- 配偶者
- 子(または代襲相続人である孫)
- 直系尊属(親・祖父母など)※子がいない場合
※兄弟姉妹には遺留分はありません。
■遺留分の割合(全体の相続財産に対する割合)
相続人の構成 | 遺留分の割合(全体) |
配偶者と子 | 法定相続分の1/2 |
配偶者のみ | 法定相続分の1/2 |
子のみ | 法定相続分の1/2 |
親(子なし) | 法定相続分の1/3 |
兄弟姉妹 | 遺留分なし |
例えば、配偶者と子が相続人の場合、それぞれの法定相続分の半分が遺留分となります。
2. 遺留分を侵害する遺言書のリスク
「全財産を内縁の妻に相続させる」「長男には相続させない」など、特定の人に偏った遺言内容は、他の相続人の遺留分を侵害している可能性があります。
もし侵害されていると感じた相続人がいた場合、遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)をすることができます。
この請求があると、遺言内容どおりには財産を分けられず、遺産分割のやり直しや金銭の支払いが必要になるため、遺言の効力が部分的に失われることもあります。
3. トラブルを避けるために:遺留分を考慮した遺言書の書き方
遺言者の最終意思を尊重しながらも、相続人間の紛争を防ぐためには、遺留分を意識した遺言書の作成が重要です。以下のステップを参考にしてみましょう。
■ステップ1:相続人と法定相続分・遺留分を確認する
まず、相続人が誰かを整理し、それぞれの法定相続分と遺留分を計算します。
例:
- 被相続人:父
- 相続人:妻・長男・次男の3人
- 相続財産:6,000万円
→ 法定相続分は、妻1/2(3,000万円)、長男と次男が各1/4(1,500万円)
→ 遺留分はその1/2
→ 妻:1,500万円、長男・次男:各750万円
つまり、最低でもそれぞれ上記の金額分を確保しないと、遺留分侵害の可能性があるということです。
■ステップ2:贈与・特別受益の有無も確認
被相続人が生前に相続人の誰かに援助をしていた場合、特別受益として遺留分の計算に加味する必要があります。
また、第三者への多額の生前贈与(内縁の配偶者や孫など)も含めて、遺留分計算に影響する財産総額を正しく把握することが重要です。
■ステップ3:バランスに配慮した配分を考える
遺留分を侵害しないよう、次のような方法で配分を調整します。
■配分例(遺留分を尊重しながら意思を反映する)
長男に自宅不動産(評価額3,500万円)を相続させる。
妻と次男には、それぞれ金1,500万円を相続させる。
このように、法定相続分から多少の差があっても、遺留分を下回らないように注意することで、遺留分侵害請求を避けることができます。
4. 遺留分に配慮した遺言書の記載例
遺言書に遺留分を意識した内容を盛り込むことで、トラブル回避につながります。以下に、いくつかの記載例を紹介します。
◆例1:公平に配慮した配分
第1条 私の全財産は以下の通り相続させる。
・自宅不動産(東京都江東区)を長男○○に相続させる。
・預貯金(那覇市○○銀行)を妻○○に相続させる。
・投資信託及び残余財産は、次男○○に相続させる。
第2条 この配分は各相続人の遺留分に配慮して行ったものである。
◆例2:偏った配分だが遺留分に言及
全財産を妻○○に相続させる。ただし、長男○○および長女○○が遺留分侵害額請求を行う場合は、相応の金銭支払いをもって対応するものとする。
このように書いておくことで、遺留分を完全に排除はしないが、意思を尊重しつつ調整の余地を残す形になります。
5. 遺留分のトラブルを避けるその他の工夫
◆生前に遺留分対策をしておく
- 遺留分放棄の申立て(家庭裁判所の許可が必要)
- 生命保険の活用(遺留分計算に含まれにくい)
- 家族信託の導入(専門家との相談が必須)
など、遺言書以外の方法も含めて対策しておくと安心です。
6. 公正証書遺言の活用をおすすめします
遺留分を意識した遺言書は、書き方を誤ると無効や争いのもとになります。
そのため、なるべく公正証書遺言で作成し、公証人の確認を受けておくことを強く推奨します。
- 記載ミスがなくなる
- 遺言能力が認められやすい
- 家庭裁判所の検認が不要
- 争いに強い法的効力
というメリットがあります。
まとめ:遺留分に配慮した遺言は「争続」を防ぐ第一歩
遺言は、被相続人の最後の意思表示です。しかし、他の相続人の遺留分を無視してしまえば、家族間の争いの火種になりかねません。
遺留分に配慮した遺言を作成することで、
- 被相続人の意思を最大限尊重できる
- 相続人間の不満や不信感を回避できる
- トラブルの予防につながる
という大きなメリットがあります。
江東区や那覇市にお住まいの方の中には、不動産を中心とした資産をお持ちの方も多くいらっしゃると思います。
特に不動産は分けにくく、相続で揉めやすい財産です。だからこそ、遺留分への配慮をした丁寧な遺言書の作成が重要なのです。