
建設業の許可制度は、建設工事を受注・施工する上で必要不可欠な制度です。建設業者として事業を行うには、一定の規模を超える工事(500万円以上の工事など)について、原則として「建設業許可」が必要になります。
この「建設業許可」には、大きく分けて 「大臣許可」と「知事許可」 の2つの種類があります。
この記事では、東京都江東区や沖縄県那覇市で建設業を営む皆さま向けに、大臣許可と知事許可の違い、それぞれの取得基準やメリット・注意点について、できるだけ分かりやすく、実務的にご説明いたします。
1. 大臣許可と知事許可の違いとは?
建設業許可は、許可の申請先(つまり誰が許可を出すか)によって「国土交通大臣が出す許可(大臣許可)」と「都道府県知事が出す許可(知事許可)」に分かれています。
この違いは、営業所の所在する都道府県の数に応じて決まります。
【大臣許可】
2つ以上の都道府県に営業所を設けて建設業を営む場合に必要な許可。
例:
- 本社が東京都江東区、支店が埼玉県さいたま市にある場合
- 沖縄県那覇市に営業所があり、福岡県にも支店がある場合
【知事許可】
1つの都道府県のみに営業所を設けて建設業を営む場合に必要な許可。
例:
- 本社と営業拠点がすべて東京都内(江東区・渋谷区など)にある場合
- 那覇市内に本社があり、その他の拠点も沖縄県内に限られる場合
2. 「営業所」の定義に注意
「営業所」という言葉が登場しましたが、この用語が許可の種類を決める際に非常に重要です。
建設業法上の「営業所」とは、単なる連絡先や事務処理のみを行う拠点ではなく、以下のような実体的な業務を行う拠点を指します。
営業所に該当する例:
- 見積書作成、入札、契約締結などを行っている拠点
- 専任技術者が常勤している事務所
- 継続的に建設工事を受注している拠点
営業所に該当しない例:
- 一時的な現場事務所(工事が終われば撤去されるもの)
- 倉庫や資材置き場
- 単なる名義だけの拠点、または事務代行的なスペース
このように、実際に建設業務の中心的機能を果たしているかどうかが「営業所」と認定されるかどうかの判断基準になります。
3. 大臣許可と知事許可、それぞれのメリット・注意点
知事許可のメリットと留意点
【メリット】
- 審査の手続きが比較的簡素で、書類量も少なめ
- 審査期間が大臣許可に比べて短い傾向
- 自社が1都道府県内にしか営業所を持たない場合は、知事許可で十分
【注意点】
- 他県に営業展開したい場合、新たに大臣許可の取得が必要になる
- 発注者からの信頼性・対外的な信用度は、大臣許可に比べてやや劣るという見方をされるケースも
大臣許可のメリットと留意点
【メリット】
- 複数都道府県に営業所を持っていても、一括で許可が可能
- 公共工事の入札などで評価されやすく、対外的な信用度が高い
- 規模の大きな会社・全国展開を見据えた会社にとって必要不可欠
【注意点】
- 手続きが煩雑で、求められる書類の種類や量が多い
- 審査期間が長く、場合によっては申請から数ヶ月を要する
- 申請手数料も知事許可より高額(全国一律)
4. 許可の区分を変えるにはどうする?
事業の拡大に伴い、「知事許可から大臣許可に切り替える」ことも可能です。この場合は、新たに大臣許可を「新規申請」として取得する必要があります。
なお、大臣許可と知事許可を業種ごとに使い分けることはできません。
つまり、以下のような状態は認められていません。
× 建築一式工事:大臣許可
× 内装仕上工事:東京都知事許可
また、同一の業種について、知事許可と大臣許可を同時に保持することもできません。
許可の種別(一般・特定)との組み合わせも含めて、次のように許可区分は整理されます。
5. 許可の4つの基本パターン
建設業許可は、「誰が許可を出すか(大臣 or 知事)」と、「どの範囲まで下請に出すことができるか(特定 or 一般)」の組み合わせによって、次の4パターンに分類されます。
区分 | 許可者 | 下請発注の規模 |
a | 大臣許可 × 特定建設業 | 4,000万円以上の下請発注可(建築一式は6,000万円) |
b | 大臣許可 × 一般建設業 | 下請発注が上記未満、または自社施工 |
c | 知事許可 × 特定建設業 | 同上だが、営業所は1都道府県のみ |
d | 知事許可 × 一般建設業 | 一般的な中小企業に多い |
江東区・那覇市に本社があり、かつ他県に営業所を出す予定がある場合、将来的な展開を見据えて、最初から大臣許可を検討するのも選択肢の一つです。
6. よくある質問
Q. 登記上は営業所が2つあるが、実際は活動していない場合は?
登記簿に営業所として登録されていても、実際に建設業の業務を行っていない拠点(例:物販店、単なる支店など)は、「営業所」としては扱われません。実体の有無が判断基準です。
Q. 途中で営業所が増えたら、許可も変更しないといけない?
はい。たとえば、知事許可で取得していたが、他県に営業所を開設した場合には、その時点で大臣許可を新たに取得する必要があります。変更届では済まず、「新規申請」となります。
7. 東京都江東区・沖縄県那覇市における現場実務
東京都江東区は、都内の建設業者が集中している地域の一つで、周辺地域(千葉県や神奈川県)への営業展開も多く見られます。そのため、はじめは知事許可でも、早期に大臣許可への切り替えが必要になるケースが多いです。
一方、沖縄県那覇市では、県内限定で活動する中小規模の事業者が多いため、知事許可のままで完結するケースも多く見受けられます。
いずれの地域でも、自社の「将来的な営業展開」を見越して、許可の取得方法を選択することが重要です。
まとめ
建設業の「大臣許可」と「知事許可」は、営業所の所在エリアによって明確に区分され、事業規模や今後の展開によってどちらを選ぶべきかが変わってきます。
重要なのは、次の3点です。
- 「営業所」の実体の有無を正確に把握すること
- 将来的な他県進出の有無を踏まえて許可種別を決めること
- 途中での切り替えが必要な場合、早めに動き出すこと
東京都江東区や沖縄県那覇市で建設業許可を取得・変更される方は、制度の正しい理解と適切な判断が、許可の維持と発展の第一歩になります。
ご自身の会社がどの許可区分に該当するのかを整理し、必要に応じて専門家の支援を受けながら、確実に手続きを進めていきましょう。