
相続手続において、最近では被相続人が外国証券や海外ファンドなどの国際的な資産を保有していたケースも珍しくなくなりました。国際分散投資が一般化している現代において、相続財産に海外資産が含まれる場合、国内資産とは異なる法的・実務的な対応が求められます。本記事では、相続財産に外国証券や海外ファンドが含まれていた場合の対応と注意点について詳しく解説します。
1.外国証券や海外ファンドとは?
まず、外国証券や海外ファンドとは何かを明確にしておきましょう。一般的には、次のような金融商品が該当します。
- 外国株式(米国株、中国株、欧州株など)
- 海外ETF(上場投資信託)
- 外貨建て債券
- 海外ファンド(外国籍の投資信託)
- オフショア信託に組み込まれた商品
これらは日本国内の証券会社経由で購入している場合もありますが、中には現地証券会社の口座や海外銀行口座を通じて直接保有しているケースもあります。
2.国内証券会社を通じて保有している場合の手続き
被相続人が国内証券会社を通じて外国証券を保有していた場合は、比較的スムーズに手続きを進めることができます。国内法と金融庁のルールに則り、以下のような流れで手続きが進みます。
(1)必要書類の提出
- 被相続人の死亡診断書または除籍謄本
- 相続人の戸籍謄本と身分証明書
- 相続関係説明図
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
これらの書類に加えて、証券会社所定の相続手続依頼書が必要になります。
(2)外国証券の取り扱い
外国証券も日本円に換金せず、相続人がそのまま引き継ぐことも可能です。ただし、相続人がその証券の取り扱いに慣れていない場合は、換金して日本円で分配する方法が選ばれることもあります。
3.海外現地口座や外国証券会社に保管されている場合の対応
もっとも慎重な対応が必要となるのが、外国の証券会社や銀行口座で直接保有されている場合です。以下のような点に注意してください。
(1)手続きは現地の法制度に基づく
日本の民法や戸籍制度は外国には通用しません。そのため、現地の法律(英米法、シャリア法など)や相続制度(プロベート手続など)に従って遺産分割手続きを行う必要があります。例えば、米国の州によっては「プロベート(Probate)」と呼ばれる裁判所手続が必要です。
(2)現地語での書類作成と認証
現地の法律に基づくため、必要書類を現地語(英語、フランス語、ドイツ語など)に翻訳し、公証役場での認証(またはアポスティーユ認証)を受ける必要があります。翻訳ミスや認証の不備があると手続きが進まないため、注意が必要です。
(3)現地代理人の選任
多くの場合、現地での手続きを行うためには現地の弁護士や司法書士(相当する資格)を代理人として選任し、委任状を送付する必要があります。相続財産が大きい場合や現地の手続きが複雑な場合は、信頼できる専門家のサポートが不可欠です。
4.税務上の注意点
外国証券や海外ファンドが相続財産に含まれている場合、日本国内での相続税に加え、海外での課税リスクも存在します。
(1)日本での相続税の扱い
外国資産であっても、被相続人が日本に居住していた場合や相続人が日本の居住者である場合、海外資産も含めて相続税の申告が必要です(日本の全世界所得主義に基づく課税)。
(2)海外での課税(二重課税リスク)
たとえば米国株などは、配当や売却益に源泉課税が課せられるだけでなく、州によっては相続税が課される場合もあります。こうしたケースでは、日本と該当国との「租税条約」や「外国税額控除制度」に基づき、課税の調整が必要です。
5.遺産分割協議書への記載方法
海外資産を含む場合でも、国内資産と同様に遺産分割協議書に明記する必要があります。投資信託と同様に、以下の内容を盛り込むのが望ましいです。
- 証券の名称(例:Apple Inc.株式)
- 銘柄コード(ある場合)
- 保有口数または株数
- 取引口座(金融機関名・支店)
- 評価基準日(被相続人の死亡日など)
- 現地通貨と円換算額
また、協議書の末尾には、為替変動による分配額の増減や、今後の対応方針についても記載しておくことで、相続人間の誤解やトラブルを防止できます。
6.実務上のポイントと専門家の活用
外国証券や海外ファンドが絡む相続は、手続きの複雑さや言語の壁、税務リスクなどが複合的に絡むため、専門家の関与が極めて重要です。特に次のような場合には、行政書士・税理士・弁護士などの専門家に相談しましょう。
- 海外資産の評価が困難な場合
- 遺産分割で揉めそうな場合
- 外国に居住する相続人がいる場合
- 外貨建ての資産が多い場合
行政書士としても、必要に応じて現地の提携弁護士や会計士との連携を通じて、スムーズな手続きの支援が可能です。
7.まとめ グローバル時代の相続には早めの準備が鍵
外国証券や海外ファンドが相続財産に含まれている場合、手続きや税務は想像以上に煩雑です。日本の制度と異なる海外の相続・登記・課税制度を踏まえて対応する必要があるため、専門的な知識と実務経験が不可欠です。
東京都江東区・沖縄県那覇市にお住まいの方で、ご家族やご自身の相続において海外資産が関係する場合には、早い段階で相続に強い専門家へご相談いただくことを強くおすすめします。事前の備えと正確な情報収集が、円滑な相続と家族間の信頼維持につながります。