高齢の親が収益不動産を所有している場合の家族信託活用法、不動産管理と相続税対策の実務

高齢社会の進展に伴い、収益不動産を所有する高齢の親の財産管理や相続対策に関するご相談が増えています。特に、那覇市や江東区といった都市部では、マンション・アパート経営やテナント物件の保有が多く、賃貸経営をいかにスムーズに次世代へ引き継ぐかが大きな課題となります。

本記事では、従来の生前贈与や成年後見制度では対応しきれない「収益不動産を活用した相続税対策」を、家族信託という新しい仕組みを用いてどのように実現できるのかを、実務に即して解説していきます。

目次

1. 高齢オーナーが直面する不動産管理の課題

不動産の賃貸経営は、所有していれば自動的に収入が入ると思われがちですが、実際には契約更新、修繕対応、入居者トラブル、金融機関との折衝など多岐にわたる管理業務が伴います。

しかし、不動産オーナーが70代・80代となると、体力・気力の面だけでなく判断能力の低下も避けられません。例えば次のようなリスクがあります。

  • 入居者との契約更新や賃料改定に対応できなくなる
  • 修繕工事の判断や資金手配が難しくなる
  • 銀行との融資交渉が停滞する
  • 相続税対策のための不動産活用が進められない

成年後見制度を利用すれば法律行為は代行できますが、後見人は「資産の保全」が基本方針であるため、積極的な不動産活用や相続税対策は難しいのが現実です。

このような状況を回避する方法として、家族信託の活用が注目されています。

2. 家族信託による「管理」と「承継」の分離

家族信託では、高齢の親(委託者)が自らの不動産を子(受託者)に託し、管理や運用を子に任せる一方で、家賃収入は引き続き親が受け取れるように設計することが可能です。

例えば、以下のような仕組みを構築できます。

  • 信託財産:親所有の賃貸マンション
  • 委託者兼受益者:親
  • 受託者:子
  • 信託の内容:
    • 子がマンションを管理・運営する
    • 家賃収入は引き続き親に渡す
    • 将来、親が亡くなった際には子が受益権を承継

この設計により、親は安心して家賃収入を受け取りながら、管理の実務を子に移譲することができます。また、所有権は形式的に子に移転するため、相続税対策のための不動産活用を子が主導して行える点もメリットです。

3. 生前贈与との比較 ― 税務面での優位性

これまでは、不動産の承継を考えた場合、親から子への「生前贈与」が一般的な手段でした。しかし、生前贈与には次の問題があります。

  • 多額の贈与税が発生する
  • 登記費用や不動産取得税の負担が重い
  • 贈与後は収益を親が受け取れなくなる

一方で家族信託は、名義を形式的に移転しても「受益権」を親に残すことができるため、収益は引き続き親が受け取れます。そのため贈与税は原則として発生しません。さらに、信託財産の管理・運営は子に移すことができ、相続発生後の手続きもスムーズに行える点で大きな利点があります。

4. 相続税対策としての信託活用

相続税対策としての不動産活用は、土地の有効利用や建物建築など「資産の組み替え」が必要になることが多いです。しかし、親が高齢になり判断能力が衰えてからでは、大規模な資産活用を決断することは困難です。

家族信託を設定しておけば、親の代わりに子が受託者として積極的に資産活用を行うことができます。例えば、次のようなケースが想定されます。

  • 遊休地に賃貸マンションを建設して課税評価を引き下げる
  • 老朽化アパートを建替え、融資を受けて資産評価を圧縮する
  • 不動産を組み替えて流動性を確保する

このような施策は成年後見制度では困難ですが、信託契約を適切に設計すれば実行可能になります。結果として、相続税の節税効果を高めつつ、財産承継を円滑に進めることができます。

5. 実務で使われる信託契約条項の一例

以下は、収益不動産を対象とした信託契約の条項例です。

第○条(信託の目的)

本信託は、委託者が所有する不動産を受託者が管理・運用し、その収益を委託者に給付することにより、委託者の生活の安定を図ることを目的とする。

第○条(受益権)

受益権は委託者に帰属する。委託者死亡後は、受益権は長男○○に承継される。

第○条(管理・処分権限)

受託者は信託財産である不動産を賃貸、修繕、建替え、売却する権限を有する。

このような契約文例を基に、各家庭の状況に応じて細部を調整していきます。

6. 家族信託の費用シミュレーション

実際に家族信託を導入する場合、かかる費用は大まかに以下のとおりです。

  • 信託契約書作成費用(専門家報酬):30万~80万円程度
  • 公証役場での公正証書作成費用:5万~10万円程度
  • 登記費用(登録免許税・司法書士報酬):10万~30万円程度

合計で50万~120万円ほどかかるのが一般的です。ただし、相続税の節税効果や、将来的な相続トラブル回避のメリットを考慮すると、十分に費用対効果があるといえます。

7. 沖縄・江東区における地域事情と家族信託

那覇市では土地資産を保有しているご家庭が多く、相続税評価額が想定以上に高額となるケースが見受けられます。老朽化した建物を信託によって子が建替えを主導することで、評価額を圧縮しつつ収益性を向上させる事例があります。

一方、江東区ではマンション・アパート経営が盛んで、区分所有物件を複数保有している方も少なくありません。区分マンションを信託財産とすることで、賃貸管理を次世代にスムーズに移し、複数の相続人間での分配トラブルを未然に防ぐ事例もあります。

地域事情に合わせた信託設計を行うことが、実務上は非常に重要です。

まとめ

収益不動産を所有する高齢の親にとって、家族信託は「安心して収益を受け取りつつ、管理を次世代に移す」ことを可能にする強力な仕組みです。

従来の生前贈与や成年後見制度では難しかった「柔軟な不動産管理」と「相続税対策」を同時に実現できる点が最大のメリットといえます。

ただし、信託契約は一度設定すると簡単に変更できないため、契約文例や費用シミュレーションを踏まえ、専門家と慎重に検討することが欠かせません。沖縄・東京といった地域の不動産事情も考慮に入れ、最適な設計を行うことが、将来の相続を円滑に進めるための大きな鍵となります。

幣事務所は遺言・相続の専門ですので、お気軽にご相談下さい。

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