
1 遺言執行者の重要な役割
遺言執行者とは、被相続人(亡くなった方)の遺言内容を実現するために、実際の手続を進める人のことを指します。たとえば、不動産の名義変更、預貯金の払戻し、特定の人への遺贈実行、相続人間での財産分配など、遺言書に書かれた内容を実際に形にしていくのが遺言執行者の役割です。
この遺言執行者がいなければ、せっかく作成された遺言書が正しく実現されず、相続人間の争いを招くこともあります。
そのため、遺言を作成する際には、信頼できる遺言執行者を指名しておくことが極めて重要です。
しかし、実際の相続手続の現場では、遺言執行者が途中で辞任したり、相続人などの申立てにより家庭裁判所で解任されるケースもあります。ここでは、そうした場合の対応方法を詳しく見ていきます。
2 遺言執行者が辞任することはできるのか
遺言執行者は、法律上「正当な事由」がある場合には辞任することができます。
この「正当な事由」とは、次のような事情が典型例とされています。
- 病気や高齢により職務の遂行が困難になった場合
- 遠方に転居して実務を行うことが不可能になった場合
- 相続人との関係が悪化し、職務の遂行に支障が出ている場合
- 就任時に想定していたよりも膨大な手続きが必要で、合理的に処理できない状況になった場合
これらのような事情があれば、遺言執行者は自ら辞任を申し出ることが可能です。
ただし、単に「忙しい」「面倒になった」といった理由では、辞任は認められません。
3 辞任の手続きと家庭裁判所の関与
遺言執行者が辞任するには、家庭裁判所の許可が必要です。
具体的には、以下のような流れで手続きを行います。
- 辞任許可申立書の提出
遺言執行者本人が、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「辞任許可申立書」を提出します。
申立書には、辞任の理由を具体的に記載し、証拠となる書類(診断書など)を添付することが一般的です。 - 裁判所の審理
裁判所は提出された理由が「正当な事由」にあたるかを審査します。必要に応じて相続人への照会や意見聴取を行う場合もあります。 - 許可・不許可の決定
裁判所が辞任を許可すれば、その時点で遺言執行者の職務は終了します。
一方、許可されなかった場合は、引き続き遺言執行者として職務を遂行しなければなりません。
なお、辞任が許可された後、遺言に新たな遺言執行者が定められていない場合は、相続人の申立てにより、家庭裁判所が新しい遺言執行者を選任することになります。
4 遺言執行者が解任されるケース
一方で、遺言執行者が「解任」される場合もあります。
これは、相続人などが家庭裁判所に申立てを行い、裁判所が必要と認めた場合に行われます。
解任の典型的な理由には、次のようなものがあります。
- 遺言執行者が遺言の内容に反する行為をした
- 相続財産を私的に処分した、または不正行為を行った
- 職務を怠り、長期間にわたり実務を進めない
- 相続人との間で重大な対立が生じ、遺言執行が困難になった
こうした場合、相続人や利害関係人(受遺者など)は、家庭裁判所に対して「遺言執行者解任の申立て」を行うことができます。
家庭裁判所が解任を認めると、その時点で遺言執行者の権限はすべて消滅します。
5 辞任・解任後の対応と新たな遺言執行者の選任
遺言執行者が辞任または解任された場合、遺言の内容がまだ実現されていない状態であれば、家庭裁判所が新たな遺言執行者を選任します。
この申立ては、相続人や利害関係人(遺贈を受ける人など)が行うことができます。
申立書には、候補者としてふさわしい人物を記載することも可能で、たとえば次のような人が選ばれることがあります。
- 法律や相続に詳しい専門職(行政書士・弁護士・司法書士など)
- 相続人の中で公平な立場を保てる人
- 被相続人が生前に信頼を寄せていた第三者
新たな遺言執行者が選任されると、その時点から前任者の職務を引き継ぎ、遺言の実現に向けた作業を継続します。
6 遺言執行者辞任・解任の影響
遺言執行者が辞任または解任されると、遺言の実行が一時的に滞る可能性があります。特に、財産の管理や名義変更の手続きが途中で止まってしまうと、相続人や受遺者に実務上の不利益が生じることがあります。
そのため、相続人としては以下の点を意識しておくことが大切です。
- 辞任・解任が決定したら、速やかに新たな遺言執行者選任を申立てる
- 財産の管理状況を確認し、不正処分がないかをチェックする
- 書類や鍵、通帳など、引継ぎに必要な資料を整理しておく
また、遺言書を作成する段階で、あらかじめ「遺言執行者が辞任・解任された場合の後任者」を指定しておくと、手続きがよりスムーズになります。
7 専門職に依頼するメリット
遺言執行の実務には、法律・税務・登記など多岐にわたる知識が求められます。
また、相続人間の感情的な対立を避けながら、公正に手続きを進める判断力も必要です。
そのため、行政書士や弁護士などの専門職を遺言執行者として指定しておくことで、以下のようなメリットがあります。
- 法的に正確な手続きが行われる
- 相続人間の利害調整を中立的に行える
- トラブルが生じた際も迅速に対応できる
特に東京都江東区や沖縄県那覇市のように、不動産や預貯金など多様な財産をお持ちの方の場合、専門職を関与させることで、円滑な遺言執行が可能になります。
8 まとめ
遺言執行者は、被相続人の意思を実現するための重要な役割を担いますが、辞任や解任が生じることもあります。
そうした場合は、家庭裁判所の手続を通じて適切に対応し、新たな執行者を選任することが大切です。
遺言を作成する段階で信頼できる遺言執行者を慎重に選び、可能であれば後任者の指定や専門職への依頼も検討すると良いでしょう。
被相続人の想いを確実に次世代へつなぐために、遺言執行者制度の仕組みを理解し、適切な備えを行っておくことが何よりの安心につながります。
行政書士見山事務所は遺言の作成での遺言執行者の指定を多数受けております、お気軽にご相談下さい。