
遺言に基づいて財産を分けたり、名義を変更したりといった「遺言執行」は、遺言内容を実現するために欠かせない手続です。
しかし、遺言執行者の役割は単に「手続きを終えればそれで終了」というわけではありません。
実務では、執行完了後にも行うべき事務や報告義務、場合によっては法的責任を問われるケースも存在します。
今回は、遺言執行がすべて完了した後に必要となる手続きや、執行者が負う責任の範囲について、わかりやすく解説します。
1 遺言執行完了とはどのような状態か
まず、「遺言執行が完了した」とは、どの時点を指すのでしょうか。
これは、遺言書に記載された全ての内容を実現し、遺言執行者としての任務を果たした状態をいいます。
たとえば以下のような遺言内容があった場合、それぞれの実行が完了すれば「執行完了」となります。
- 「長男に江東区の自宅土地建物を相続させる」 → 不動産の名義変更登記完了
- 「長女に預貯金の一部を遺贈する」 → 銀行口座からの払戻し・振込完了
- 「公益団体に100万円を寄付する」 → 寄付手続完了・受領証の取得
このように、遺言に定められた内容をすべて実行し終えた段階で、遺言執行者の職務は原則として終了します。
2 遺言執行完了後に行うべき手続き
遺言執行が終わった後でも、いくつかの重要な事務処理を忘れてはいけません。
これらは執行者としての「職務の締めくくり」にあたります。
(1) 相続人への最終報告
遺言執行者は、民法第1017条により、職務の遂行状況について相続人に報告する義務があります。
特に執行完了時には、最終報告書を作成して提出するのが望ましいです。
報告書には次のような内容を記載します。
- 遺言の内容と実際に行った執行手続き
- 各財産の処理結果(不動産・預金・有価証券など)
- 費用や報酬の明細
- 執行完了日と残余財産の有無
報告書を相続人全員に交付することで、透明性を確保し、後のトラブルを防ぐことができます。
(2) 執行に関する帳簿・書類の整理
遺言執行者は、執行に関する帳簿や領収書、登記書類などを整理して保管します。
特に、不動産の登記識別情報・銀行の取引明細・支出記録などは、相続人からの照会に備えて一定期間保管しておくことが重要です。
(3) 財産の引渡し
遺言執行によって相続人や受遺者に帰属した財産は、最終的に引渡し手続きをもって完結します。
例えば、現金・通帳・不動産の登記識別情報・株券などの現物を、受遺者本人に引き渡すことが必要です。
引渡しの際には、「財産引渡書」や「受領書」を作成し、双方が署名押印して控えを保管します。
(4) 報酬の清算
専門職が遺言執行者を務めた場合、あらかじめ遺言書や契約書で定めた報酬を受け取ります。
報酬支払い後に残余財産がある場合は、相続人への返還や分配を行います。
3 遺言執行者の責任の範囲
遺言執行が完了した後でも、執行者には一定の法的責任が残る場合があります。
ここでは、その代表的なものを見ていきましょう。
(1) 善管注意義務
遺言執行者は「善良な管理者の注意」をもって職務を行う義務があります(民法第1018条)。
つまり、他人の財産を扱う以上、自己の財産よりも慎重に管理・処理を行わなければなりません。
例えば、
- 預貯金を不用意に引き出して現金で保管していたために紛失した
- 不動産の名義変更を怠り、第三者に登記を先に取られた
- 相続税の納付を放置し、延滞税が発生した
といった場合には、遺言執行者が損害賠償責任を問われる可能性があります。
(2) 報告義務違反の責任
相続人に対する報告を怠ったり、虚偽の報告をした場合も、後にトラブルへ発展します。
特に、相続人の一部にしか報告していない、費用処理の明細を示さないといったケースでは、民事訴訟を起こされることもあります。
そのため、執行完了後は、すべての相続人に対して書面で経過と結果を伝えることが重要です。
(3) 税務上の責任
遺言執行者が税務申告や納付を代行する場合には、申告漏れや誤りがないよう注意が必要です。
ただし、相続税の納税義務者はあくまで各相続人であるため、遺言執行者が直接税金を負担することはありません。
しかし、申告を怠ることで損害が生じた場合、民事上の責任を問われる可能性はあります。
4 遺言執行者の責任が終了するタイミング
遺言執行者の責任がいつ消滅するかについては、法律上の明確な規定はありません。
しかし、一般的には次のような時点で職務および責任が終了すると考えられています。
- 遺言内容のすべてを実現し、相続人への最終報告を終えた時点
- 相続人が報告を受け入れ、異議を述べず一定期間が経過した時点
ただし、後に執行行為に重大な瑕疵(誤り・違法行為など)が発覚した場合は、完了後であっても損害賠償請求を受けることがあります。
したがって、記録をきちんと残し、職務遂行の正当性を証明できる状態にしておくことが大切です。
5 専門職が遺言執行者を務めるメリット
遺言執行は、財産の範囲が広く手続きが複雑なほど、法律・登記・税務の知識が必要になります。
そのため、行政書士・司法書士・弁護士などの専門職が遺言執行者として指定されるケースが増えています。
専門職を選任するメリットは以下の通りです。
- 手続の正確性とスピードが確保される
- 相続人間の利害調整を中立的に行える
- 執行後の報告や記録管理が明確で、トラブルが少ない
- 費用処理・税務上の対応が適切に行われる
特に東京都江東区のように不動産や金融資産が複雑に入り組む都市部、
また沖縄県那覇市のように土地や相続人が県外に分散しているケースでは、
専門職の関与が大きな安心につながります。
6 遺言執行完了後の相続人の対応
遺言執行が完了した後、相続人の側にも確認しておくべきことがあります。
- 名義変更後の登記簿や預金通帳を確認する
- 相続税の申告・納税期限を確認(原則として相続開始後10か月以内)
- 遺言執行者からの報告書・受領書類を保管
- 残余財産がある場合、その処理方法を協議
遺言執行完了=相続手続きの全終了ではないため、税務申告や共有財産の処理など、相続人自身が行う手続きも残っています。
7 まとめ
遺言執行が完了した後も、遺言執行者には相続人への報告、書類整理、財産引渡しなどの事後手続きが求められます。
また、善管注意義務や報告義務に基づく責任もあり、いい加減な処理は後の紛争の火種となります。
東京都江東区や沖縄県那覇市で相続を控えている方は、遺言執行を「最後の一手続き」と考えず、
執行完了後の管理・報告・責任の所在までを見据えた計画を立てることが重要です。
安心して相続を終えるためには、専門職によるサポートを受けながら、
公正かつ透明な遺言執行を実現することが何よりのポイントといえるでしょう。
行政書士見山事務所は遺言の作成と併せて遺言執行者の指定も多く受けております、お気軽にご相談下さい。