特別縁故者として認められるには?家庭裁判所の判断基準と主な認定事例を紹介

相続人がいないまま亡くなった方の遺産は、最終的には国庫に帰属します。
しかし、生前に被相続人の世話をしていたり、一緒に暮らしていた人が全く財産を受け取れないのは不公平です。
このような場合に利用できるのが「特別縁故者への財産分与」という制度です。

とはいえ、「自分は特別縁故者にあたるはず」と感じても、最終的に認めるかどうかは家庭裁判所の判断によります。
この記事では、実際の認定事例をもとに、裁判所がどのような基準で判断しているのかを詳しく見ていきます。

目次

1 特別縁故者制度の目的

特別縁故者制度は、民法958条の3に定められています。
簡単に言えば、相続人が存在しない場合に、被相続人と特別な関係があった人に遺産の一部を分与できるという制度です。

この制度の目的は次の2点にあります。

  1. 被相続人の生活や介護を支えた人を一定程度保護すること
  2. 被相続人の意思や生活実態を尊重し、国庫帰属による形式的な処理を避けること

つまり、「道義的・社会的な公平」を実現するための救済制度といえます。

2 家庭裁判所の判断の視点

特別縁故者として認められるかどうかは、以下の3つの観点から総合的に判断されます。

被相続人とどのような関係にあったか(生活関係・扶養関係)
 同居の有無、生計の共有、生活費の負担などが重視されます。

被相続人への貢献の程度
 介護や看護、生活支援など、どの程度被相続人の生活に寄与したかを見ます。

関係の継続性・安定性
 短期間の関わりよりも、長期間・安定的な関係であったかどうかが重要です。

これらの要素を、申立人側が証拠(領収書・写真・陳述書など)によって立証していく必要があります。

3 特別縁故者として認められた主な事例

内縁の配偶者が特別縁故者とされた事例

【東京家庭裁判所・平成20年】
被相続人と約20年間同居し、婚姻関係に準じる生活を送っていた内縁の妻が、特別縁故者として認められました。
被相続人の介護や生活支援を一手に担っており、また被相続人の収入から生活費を共にしていた点が重視されました。
裁判所は「事実上の夫婦関係であり、被相続人の生活に密接に関与した」として、遺産の半分の分与を認めました。

ポイント
単なる同居ではなく、共同生活の実態と相互扶助の関係が明確であることが重要です。

長年介護していた友人が認められた事例

【那覇家庭裁判所・令和元年】
被相続人の近隣住民が、10年以上にわたって病気の被相続人を日常的に看護し、通院・買い物の付き添いなどを行っていました。
裁判所は「継続的な看護行為を無償で行っていたことは、社会的に高く評価される」として、被相続人の預金の一部(約200万円)の分与を認めました。

ポイント
血縁関係がなくても、長年にわたり実質的な支援をしていたことが証拠で示せれば認定される可能性があります。

被相続人と同居していた事実上の養子が認められた事例

【大阪家庭裁判所・平成28年】
幼少期から被相続人に養育され、養子縁組をしていなかったものの、被相続人を「父」として生活していた人が特別縁故者と認定されました。
裁判所は「被相続人の扶養義務を事実上果たしていた」として、遺産の大部分の分与を許可しました。

ポイント
養子縁組をしていなくても、扶養関係や生活の一体性が認められれば、特別縁故者となる可能性が高いです。

4 一方で認められなかった事例

特別縁故者の認定は決して簡単ではありません。
形式的な付き合いでは認められないことが多く、以下のようなケースでは却下されています。

短期間の同居のみで実質的関係がない事例

【東京家庭裁判所・平成29年】
被相続人と数か月間だけ同居していた人が「特別縁故者」として申立てをしましたが、裁判所は「被相続人の生活維持に寄与したとまではいえない」として却下。
生活費の負担もなく、関係が一時的であったことが理由とされました。

判断基準
単なる一時的な同居・交際では足りず、継続的な生活関係・経済的支援が必要です。

有償で介護をしていた介護士が認められなかった事例

【名古屋家庭裁判所・令和2年】
有償契約に基づいて介護を行っていたホームヘルパーが申立てを行いましたが、「業務として行っていたにすぎず、特別の縁故とはいえない」と判断されました。

判断基準
仕事として報酬を得ていた場合は、職業上の関係にとどまり、特別縁故には該当しません。

近隣住民で定期的に差し入れをしていた事例

【福岡家庭裁判所・平成30年】
被相続人に惣菜や日用品を届けていた近隣住民が申立てをしましたが、「好意的行為にとどまり、生活維持への実質的関与はない」として却下されました。

判断基準
日常的な交流や善意の行動だけでは足りず、生活の維持・看護・扶養などの実質的支援が必要です。

5 裁判所が重視する証拠の種類

特別縁故者として認定されるには、主張を裏付ける具体的な証拠が欠かせません。
裁判所が重視するのは次のような資料です。

  • 住民票・戸籍附票:被相続人と同住所に居住していたことの証明
  • 通帳の写し・送金記録:生活費や医療費の支払い記録
  • 診療記録・介護記録:看護・介護を行っていた事実
  • 写真・手紙・メール:親密な関係性を示す証拠
  • 近隣住民や親族の陳述書:関係の実態を補強する証言

これらを総合的に示すことで、家庭裁判所は被相続人との関係性を判断します。

6 認定後の財産分与の内容

特別縁故者と認められると、家庭裁判所が財産の一部または全部の分与を決定します。
ただし、被相続人との関係の深さや貢献度によって割合が異なります。
多くの場合、被相続人の財産の3分の1から半分程度が分与される傾向にあります。

また、複数の申立人がいる場合は、それぞれの関係性を比較して配分が決められます。

7 特別縁故者申立ての実務上のポイント

相続人不存在の確定が前提
戸籍調査を徹底し、相続人がいないことを確認したうえで管理人選任を申し立てる必要があります。

証拠の整理を早めに行う
介護・同居・扶養の証拠は時間が経つほど散逸しやすいため、早めの準備が重要です。

専門家のサポートを受ける
相続財産管理人との調整や書類作成は複雑なため、行政書士や弁護士の支援を受けると確実です。

8 まとめ 関係の「深さ」と「継続性」が最大の判断基準

特別縁故者として認定されるかどうかは、被相続人とどれほど深く・長く関わっていたかに尽きます。
単なる好意や短期的な関係では足りず、被相続人の生活に密接に関与していたことを証拠で示す必要があります。

東京都江東区や沖縄県那覇市でも、独居高齢者の増加に伴い、この制度を利用したいという相談が年々増えています。
もし「被相続人に相続人はいないが、自分は生前ずっと世話をしてきた」という方は、早めに専門家に相談し、証拠を整理することをおすすめします。
それが、被相続人の意思とあなたの思いを形にする第一歩となります。

終活・生前相談、遺言の作成、相続手続に精通した行政書士に見山事務所までお気軽にご相談下さい。

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