高齢化する日本社会で安心した老後と家族との関係に大きく寄与する、家族信託とは

家族信託とは、親が子に自らの財産を託し、託された子がその親の利益になるように親のために財産を管理する仕組みを指します。この仕組みを理解するためには、以下の3つの登場人物を知っておくことが重要です。

委託者(いたくしゃ):財産を託す人。

受託者(じゅたくしゃ):財産を託されて管理する人。

受益者(じゅえきしゃ):信託財産から得られる利益を享受する人。

家族信託では、委託者が親で、受託者が子であるケースが多いですが、受益者は親や他の家族も含まれることがあります。

目次

家族信託の種類

民事信託と商事信託

家族信託は、親族間や営利追求目的がない知人同士で行う信託のことを指し、法律上は「民事信託」といいます。一方、信託会社や信託銀行などの託される側が営利を目的として行う信託は「商事信託」と呼ばれます。民事信託は家族間での契約が特に多いため、「家族信託」という言葉が一般的に使われます。

家族信託の目的とメリット

家族信託は、以下のようなケースで特に有益です。

認知症対策

親が認知症になった場合、財産が凍結されることがあります。成年後見制度を利用することもできますが、手続きが煩雑で費用もかかります。家族信託を利用すれば、財産の凍結を防ぎ、資産を有効に活用することができます。不動産の売却や賃貸、預貯金の管理などがその例です。

相続対策

家族信託は、遺言の代用機能としても有効です。遺言では解決できない二次相続や三次相続の資産承継先指定、相続人間での共有不動産の有効活用など、相続問題の事前対策として非常に便利です。

障害者支援

家族信託を活用することで、障害を持つ家族のために安定した財産管理が可能となります。特に、障害者が自身で財産管理を行うことが難しい場合に有効です。

事業承継

中小企業の経営者が後継者に事業を承継する際に家族信託を活用することで、スムーズな事業承継が可能となります。これにより、事業の継続性が確保され、経営者の意向に沿った事業運営が実現します。

信託行為の種類

家族信託には、以下の3種類の信託行為があります。

信託契約(契約による信託)

信託契約とは、委託者と受託者との間の契約により信託を設定することを指します。3種類の信託行為の中で最も一般的な類型です。通常は信託契約書を作成して設定します。信託契約書は私文書でもよいのですが、公正証書にすることで契約自体の信用面や証拠面で私文書よりも強固な書面となります。

遺言による信託

遺言による信託は、信託契約とは異なり、一人で行うことができる単独行為です。委託者の死亡により効力が発生します。この信託は民法の遺贈に関する規定が適用されます。

自己信託(信託宣言)

自己信託とは、委託者と受託者を同一人が兼ねて設定する信託行為を指します。自己信託も遺言による信託と同様に委託者の単独行為となります。例えば、委託者が自分の財産を自分で管理し、その利益を他者に及ぼすことができます。自己信託は、公正証書その他の書面または電磁的記録によって意思表示を行う必要があります。

家族信託の実施に際しての注意点

家族信託は、柔軟な財産管理や相続対策として非常に有効ですが、以下の点に注意する必要があります。

法務・税務の知識

家族信託を適切に運用するためには、法務・税務の専門知識が必要です。信託契約の作成や税務上の考慮、受託者の選定など、専門家の助言を受けながら進めることが重要です。

受託者の選定

受託者は信託財産を管理する責任を負うため、信頼できる人を選ぶことが大切です。また、受託者の役割や責任を明確にするために、信託契約書をしっかりと作成することが重要です。

長期的な視点

家族信託は、長期的な視点で財産を管理・運用するための仕組みです。信託契約の内容や受託者の役割、受益者の利益を考慮しながら、将来の状況変化にも対応できる設計を行うことが求められます。

まとめ

家族信託は、高齢化社会において財産管理や相続対策として有効な手段です。柔軟な財産管理や認知症対策、相続争いの防止など、さまざまなメリットがありますが、信託契約の作成や税務上の考慮、受託者の選定などの注意点も存在します。専門家の助言を受けながら、適切な家族信託を設計し、安心できる財産管理と相続対策を実現しましょう。

家族信託を活用することで、家族全員が安心して暮らせる未来を築くことができます。信託の設計や実施についてお悩みの方は、ぜひ専門家にご相談ください。

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