遺留分侵害額請求とは?2019年民法改正を踏まえた遺言・相続トラブルの解決法

はじめに

遺言と遺留分制度

日本の相続制度では、故人(被相続人)が遺言を残していた場合、その内容に従って遺産が分割されるのが基本です。しかし、遺言によって家族が遺産を相続できない状況が発生することもあります。例えば「愛人にすべての財産を遺贈する」という内容の遺言があると、家族が財産を相続できないことになります。このような場合に備え、法律では法定相続人が最低限の財産を相続できる「遺留分(いりゅうぶん)」という制度を設け、故人の意思と相続人の権利を調整しています。

本記事では、遺留分制度の概要から、2019年の民法改正による影響、具体的な請求手続きに至るまでを詳細に解説します。

1.遺留分とは

遺留分とは、法定相続人が最低限確保できる相続財産の割合のことです。被相続人が遺言で遺産のすべてを特定の第三者に譲り渡すとした場合でも、遺留分によって一定の割合の財産を家族が請求することが可能です。これにより、家族の生活保障を図りつつ、被相続人の意思を尊重する仕組みが整備されています。

1-1.法定相続人と遺留分権利者の違い

法定相続人には、故人の配偶者、子、直系尊属(親や祖父母)、兄弟姉妹が含まれますが、遺留分が認められるのは配偶者、子、直系尊属のみです。兄弟姉妹には遺留分の権利がなく、これは生活基盤が独立していると考えられているためです。

2.遺留分侵害額請求の手続き

以前は「遺留分減殺請求」と呼ばれていたこの制度は、2019年の民法改正によって「遺留分侵害額請求」に名称が変更されました。単なる名称の変更ではなく、請求方法や手続きにも変化が生じています。

2-1.改正前の遺留分減殺請求

改正前の遺留分減殺請求では、遺留分権利者が遺留分を現物で取り戻すことが基本でした。例えば、不動産が対象であれば、その一部を返還請求することが可能でしたが、遺留分権利者と受遺者が不動産を共有することになり、権利関係が複雑になる問題がありました。

2-2.改正後の遺留分侵害額請求

2019年の改正では、現物ではなく、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを求める手続きに変更されました。これにより、共有による権利関係の複雑化が回避され、遺産分割がよりスムーズに行われるようになりました。被相続人の意思も尊重され、例えば特定の人に不動産を遺贈するという遺言があった場合でも、その意思を保つことができるのです。

3.遺留分の計算方法

遺留分の割合は、法定相続人の範囲や構成によって異なります。具体的には以下のように定められています。

  • 法定相続人が直系尊属(親や祖父母)だけの場合:遺留分は相続財産の3分の1。
  • 法定相続人に配偶者や子供がいる場合:遺留分は相続財産の2分の1。
  • 兄弟姉妹には遺留分なし:法定相続人であっても、兄弟姉妹は遺留分権利者に該当しません。

この計算方法を理解することで、どの程度の財産が保護されるのか、また請求可能な範囲が明確になります。

3-1.遺留分の具体例

例えば、相続財産が5,000万円あり、法定相続人が子供2人の場合、遺留分は全体の2分の1にあたる2,500万円です。子供がそれぞれ1,250万円までの遺留分を請求できることになります。この計算方法により、遺留分請求の際に具体的な金額を算出することが可能です。

4.遺留分侵害額請求の流れ

遺留分が侵害された場合、相続人は侵害した側に対して金銭の支払いを請求できます。この手続きは内容証明郵便による通知が一般的で、請求を行った事実を客観的に証明するための方法として有効です。

もし請求に応じてもらえない場合には、家庭裁判所での調停や訴訟へと進むこともあります。相手が弁護士を伴っている場合や、解決が困難な場合には、早期に専門家へ相談することが重要です。

5.遺留分請求には時効がある

遺留分侵害額請求には時効があります。被相続人の死亡を知った時点から1年以内、または死亡から10年以内に請求を行わなければなりません。この期間を過ぎると遺留分を請求する権利は消滅します。

6.遺留分の放棄

遺留分は放棄することも可能です。放棄は被相続人の生前にも行えますが、その場合は家庭裁判所の許可が必要です。生前に遺留分を放棄する際は、許可申請や審問期日などの手続きが発生しますので、しっかりと準備が必要です。

おわりに

相続問題の解決には専門家の支援を

相続には様々な問題が付き物です。特に遺言の内容によって遺留分が侵害されるケースでは、法的手続きを円滑に進めるためにも専門家のサポートが欠かせません。相続人が自分で請求手続きを進めることも可能ですが、調停や訴訟など複雑な手続きに直面した際には、信頼できる専門家に相談することを強くおすすめします。

このように、遺留分制度とその請求手続きについては民法改正により変化が生じました。相続人として権利を守り、円滑に相続を進めるためにも、遺留分の基礎知識とその請求方法を理解しておくことが重要です。

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