
ご家族にとって避けて通れない「相続」。その準備として「遺言書を書くかどうか」は非常に大きな分かれ道となります。
「うちは財産もそんなにないし、遺言までは必要ないだろう」
「家族仲はいいから、もめることはないと思う」
そんな声をよく耳にしますが、実は遺言書がないことで家族がトラブルになるケースは非常に多いのです。
今回は、実際の相続トラブル事例も交えながら、「遺言書がある場合」と「ない場合」で、何がどう違ってくるのかをわかりやすく解説します。江東区・那覇市にお住まいの方にとっても、身近な問題としてぜひお読みいただきたい内容です。
■ 相続とは何か?まずは基本の確認から
「相続」とは、亡くなった方(被相続人)の財産や権利義務を、相続人が受け継ぐことをいいます。相続人には、配偶者や子ども、場合によっては兄弟姉妹や親などが含まれます。
相続財産には、次のようなものがあります。
- 現金・預貯金
- 不動産(土地・建物)
- 株式・投資信託などの金融資産
- 借金などの負債(マイナスの財産)
相続が発生すると、相続人全員で「遺産の分け方」を話し合い、合意する(遺産分割協議)必要があります。
ここで問題となるのが、「遺言書」があるかないかです。
■ 遺言書が「ある」ときのメリット
● 遺言があれば、基本的にその内容が優先される
遺言書は、被相続人の「最終意思」として、法律上強い効力を持ちます。つまり、相続人同士で細かく話し合わなくても、遺言に従って財産を分けることが可能になるのです。
たとえば、
- 長男に自宅を相続させたい
- 介護してくれた娘に多めに遺産を分けたい
- 相続人ではない孫にも少し残したい
- 事業を引き継ぐ息子に会社名義の不動産を相続させたい
といった希望をかなえるには、遺言書の存在が不可欠です。
● 遺産分割協議が不要になる場合もある
遺言書に、すべての遺産の分配方法が明記されていれば、遺産分割協議自体が不要となり、相続人の同意を得る必要もなく、速やかに手続きが進みます。
これは、相続人が多い、あるいは遠方に住んでいる場合などに、大きなメリットとなります。
■ 遺言書が「ない」とどうなる?
● 相続人全員による「遺産分割協議」が必要
遺言書がない場合、相続財産は「法定相続分」に従って、相続人全員で話し合いながら分ける必要があります。
このとき、一人でも反対する人がいると協議は成立しません。
例えば:
- 「長男が全部取るなんて納得できない」
- 「土地は売却して分けるべきだ」
- 「面倒を見たのは私だから多くもらうべき」
というように、感情のもつれから争いに発展するケースが非常に多いのです。
■ 実際によくある相続トラブル事例
① 江東区のケース:親の預金を巡る兄妹の対立
80代の父が亡くなり、相続人は長男・次男・長女の3人。遺言はなし。
父の生前に同居していた長男が、父の口座から生活費や医療費として定期的に預金を引き出していたところ、それを知った次男と長女が「使い込みだ」と主張。預金残高の少なさに不信感を抱き、遺産分割協議が進まない事態に。
【ポイント】
→ 遺言があれば「預金は長男へ」「分配方法」などが明示され、争いを回避できた可能性が高い。
② 那覇市のケース:親の土地を巡って親族が疎遠に
母が亡くなり、自宅の土地と建物が遺産に。兄弟4人で話し合うも、長男が「自分が住んでいるからこの家は譲れない」と主張。他の兄弟は「なら相応の代償金を払ってほしい」と対立。感情の行き違いから親族関係に大きな亀裂が入り、協議は調停に発展。
【ポイント】
→ 遺言で「長男に自宅を相続させるが、代償金として○万円を払う」などと書いてあれば、紛争は避けられた可能性がある。
■ 遺言があっても「無効」になることもある?
残念ながら、せっかく作成した遺言が法律的に無効とされてしまうケースも存在します。
代表的な例
- 自筆証書遺言で、日付や署名がない
- 認知症で判断能力が不十分な状態で書いた
- 他人に強制されて書かされた(遺言の自由意思の欠如)
- 書いた内容があいまいで実行できない
→ このようなリスクを避けるためには、専門家によるチェックや公正証書遺言の作成が推奨されます。
■ 遺言作成に適したタイミングとは?
「まだ元気だから大丈夫」「いつか書こう」と先延ばしにしているうちに、判断能力が衰えてしまい、遺言が書けなくなる方は非常に多いです。
特に以下に当てはまる方は、早めの遺言作成が有効です:
- 配偶者以外にも財産を残したい人がいる
- 相続人が複数いて、不仲・距離がある
- 不動産など分けにくい財産を持っている
- 再婚、事実婚など、家族関係が複雑
- 子どもがいない、または法定相続人がいない
■ 遺言の種類とそれぞれの特徴
種類 | 内容・特徴 | メリット | デメリット |
自筆証書遺言 | 自分で全文手書き。保管は自己管理か法務局。 | 簡単・費用が安い | 不備があれば無効リスク |
公正証書遺言 | 公証役場で作成。証人2名が必要。 | 法的に確実。無効の心配が少ない | 作成に費用・手間がかかる |
秘密証書遺言 | 内容は秘密。封印し公証人が署名する。 | 内容を他人に知られない | 現在はほとんど使われない |
→ もっとも確実なのは、公正証書遺言です。費用はかかりますが、無効リスクが少なく安心です。
■ まとめ 「遺言書がある」ことの安心は、想像以上に大きい
- 遺言書があることで、相続手続きが円滑に進む
- 相続人間のトラブルや感情的対立を防ぐ
- 法律的にも、故人の意思を最大限に反映できる
相続は「残された家族の生活」に直結します。だからこそ、「争い」ではなく「思いやり」を遺すために、遺言書という形にしておくことが何より大切です。