完成工事高の算出ルールと注意点~工事経歴書・決算変更届の核心項目を正確に記載するために~

建設業許可の申請や、許可後の毎年の「決算変更届(事業年度終了報告)」においては、「完成工事高」という項目の記載が求められます。
この数字は、工事経歴書の金額欄だけでなく、財務諸表の「完成工事高」とも一致させる必要があり、審査の際にも極めて重要な指標の一つです。

しかし、現場での実務と会計上の処理、そして行政庁への報告との間にズレが生じやすい箇所でもあります。
今回は、完成工事高の正しい算出ルールと、その実務上の注意点について、行政手続きの視点から分かりやすく解説いたします。

目次

1. そもそも「完成工事高」とは?

完成工事高とは、ある事業年度内に「完成・引渡しが完了した工事」について、その請負金額を合計したものです。
要するに、「その年において、会社がいくら分の工事を完了させたのか?」を示すもので、売上高とほぼ同義と理解されることが多いです。

ただし、建設業における売上計上には特有の会計処理ルール(工事進行基準、工事完成基準など)があるため、企業会計と建設業許可の制度上の用語には微妙なズレがあります。

建設業許可制度上の「完成工事高」の定義

  • 原則として「工事が完成して引き渡された金額」
  • 前受金などは含めない
  • 決算日までに工事が未完了の場合は、対象外(未成工事)

2. 完成工事高の記載箇所と重要性

完成工事高は、以下の箇所に記載が求められます。

書類名完成工事高の記載欄
工事経歴書「請負金額」欄の合計
財務諸表(損益計算書)「完成工事高」欄
経営状況分析申請書(経審)Y項目「完成工事高」

この3つの書類で、完成工事高の金額が整合していないと、審査で差し戻しとなる可能性があります。
つまり、経理部門と行政手続き担当者が連携して数字を合わせておく必要があります。

3. 完成工事高の計算方法 ~基本のステップ~

決算日までに「完成・引渡し」が完了した工事を抽出

  • 物理的に完成していなくても、「注文者の検査に合格し引渡しを完了した」状態であればOK
  • 納品書や完成届、引渡書、請求書などをもとに確認

請負金額(税抜)の合計を計算

  • 元請、下請を問わず、自社が請け負った全ての工事が対象
  • 消費税は除いて集計(税抜表示)
  • 追加工事や変更契約があった場合は、最新の契約金額で評価

前受金・未成工事は除外

  • 前受金(工事未着手で入金済み)は、完成工事高には含めない
  • 完成していない工事(着工中・中断中)は未成工事として別途管理

4. 工事経歴書と損益計算書の整合性

特に注意すべきなのは、工事経歴書に記載した工事金額の合計と、損益計算書の完成工事高の金額が一致しているかという点です。

例:東京都江東区・那覇市の場合

各都道府県によって多少の解釈の違いはありますが、以下のような運用が一般的です。

書類名金額
工事経歴書(例:とび・土工)3,000万円
工事経歴書(例:内装仕上)1,500万円
工事経歴書(例:造園)500万円
合計5,000万円 ←この合計が「完成工事高」になる

損益計算書でも「完成工事高」が5,000万円で記載されていなければ、行政庁は「内容に齟齬あり」と判断し、修正や確認を求める可能性が高まります。

5. 途中で変更があった場合の扱い

追加契約や変更契約

工事途中で追加工事が発生した場合や、契約金額が増減した場合には、最終的な契約金額ベースで完成工事高を集計します。

その際、必ず契約変更の根拠書類(追加契約書や変更契約書)を保管しておきましょう。

● JV工事(共同企業体)の取り扱い

JVでの施工の場合、自社が請け負った分のみ完成工事高に含めます。
たとえば、JV全体で1億円の工事で、自社の担当分が3,000万円ならば、完成工事高は3,000万円となります。

6. よくある間違い・注意点

消費税込の金額で集計してしまう

→ 完成工事高は「税抜」で集計するのが原則です。

請求日・入金日ベースで計算する

→ あくまで「完成・引渡しの事実」に基づいて集計します。入金日ではありません。

工事経歴書に記載し忘れた工事がある

→ 管理が煩雑だと、小規模な工事を見落としがちですが、すべて記載が必要です。

工期が年度をまたいでいる工事の取扱い

→ 基準は「引渡し完了日」。たとえ着工が前年度でも、完成日が当年度なら、当年度の完成工事高として扱います。

7. 効率よく完成工事高を集計するには?

完成工事高の算出には、日々の工事台帳や契約台帳の整備が欠かせません。
次のような体制を整えておくことで、年度末の作業が格段に楽になります。

契約台帳の整備(電子化推奨)

工事名契約日完成日請負金額(税抜)完成済み
○○改修工事R6.04.01R6.07.202,800,000円

月ごとに完成工事を記録し、年度末に合算する

→ 一括して集計するより、毎月完了分を記録しておけば正確かつ迅速です。

8. まとめ 完成工事高の正確な算出が許可維持のカギ

完成工事高の記載は、ただの「金額記入」ではありません。
建設業許可の審査・経審の評点・公共工事への信頼性など、会社経営において非常に影響の大きい要素です。

記載ミスや根拠のない数字は、信用の損失や手続きの遅延につながりかねません。
工事台帳・契約書・経理資料などの整備と、社内の連携を徹底することで、毎年の申請や報告をスムーズに、正確に行う体制を整えましょう。

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