
相続が発生し、遺言書が見つかったとしても、そこに「遺言執行者の指定」がない場合、誰がどのように遺言を実現すべきかで混乱することがあります。
遺言執行者とは、被相続人の遺言の内容を現実に実現していく役割を担う者ですが、その指定がない場合でも、法律の定めにより一定の手続きを経て執行することが可能です。
本記事では、遺言執行者がいない遺言書の扱い方、選任の方法、そして実務における注意点について、東京都江東区および沖縄県那覇市で相続に関心を持たれている方々向けに、わかりやすく解説していきます。
1.遺言執行者とは?役割と意義
まず、遺言執行者の役割について確認しておきましょう。
● 遺言執行者とは
遺言の内容を具体的に実現するための人物であり、法律上は以下のように規定されています。
民法第1012条
遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
● 主な職務内容
- 相続財産目録の作成と交付
- 預金・不動産・株式等の名義変更や払戻し
- 財産の分配(遺贈・寄付など)
- 相続人の廃除・認知等の届出
- 債務の弁済、納税など
このように、遺言執行者は遺言の実現に不可欠な存在といえます。
2.遺言執行者の指定がない遺言書は無効になるのか?
結論から言えば、遺言書自体は有効です。
遺言執行者の指定がないからといって、その遺言の法的効力が失われることはありません。
ただし、その内容をどのように実現するかについて、実務上の手間や法的な壁が生じる場合があるため、慎重な対応が求められます。
● 遺言執行者が不要なケース
- 単に「全財産を長男に相続させる」といった、相続人への配分が記載されているだけの遺言
- 相続人間に争いがなく、全員が協力的に手続きを進められる場合
このようなケースでは、相続人全員が協力して手続きを進めることで、遺言の内容を実現することが可能です。
3.遺言執行者が必要となるケースとは?
次のような内容を含む遺言書では、遺言執行者が必須とされており、遺言の内容を実現するには、執行者を選任する必要があります。
(1)子の認知
遺言で婚外子などを認知する場合、遺言執行者による市区町村への届出が必要です。
相続人が手続することはできません。
(2)相続人の廃除・廃除の取消
家庭裁判所への請求権限を持つのは遺言執行者に限られます。
(3)特定遺贈・包括遺贈の実行
相続人でない第三者に財産を遺贈する場合、不動産の所有権移転登記や預金の名義変更などを執行者が行います。
(4)遺産の清算・債務弁済
遺産の一部を売却して現金化し、負債を返済するような場合、相続人の利害関係が衝突しやすいため、中立な執行者が必要です。
4.遺言執行者がいない場合の選任方法
遺言に執行者の指定がない場合、相続人または利害関係人が家庭裁判所に対して「遺言執行者の選任」を申し立てることが可能です。
● 申立てできる人
- 相続人
- 受遺者(遺贈を受ける者)
- 被相続人の債権者 など
● 申立先
- 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
(江東区なら東京家庭裁判所、那覇市なら那覇家庭裁判所)
● 必要書類
- 遺言書(原本または検認済みの写し)
- 被相続人の戸籍謄本
- 相続関係説明図
- 申立人の戸籍・住民票
- 選任を希望する遺言執行者の履歴書や同意書 など
● 審理と選任
家庭裁判所は、提出書類を確認し、必要に応じて申立人や候補者に事情を聴取した上で、適任と判断すれば遺言執行者の選任審判を出します。
5.実務上の注意点とよくある誤解
● 相続人全員の合意があれば遺言通りに進められる?
たしかに、遺言の内容が相続人間で合意されている場合、遺言執行者がいなくても実行は可能です。
しかし、合意があったとしても、「子の認知」「廃除」など法的に執行者が必要な内容については、個人の合意だけで完了することはできません。
● 遺言執行者になれる人に制限はある?
基本的には誰でも就任できますが、次のようなケースでは適格性が疑われることがあります。
- 遺言内容に強く関係する当事者(利害関係が濃い)
- 被相続人と紛争を抱えていた人
- 精神的または健康上の理由で職務が果たせない人
実務では、行政書士や弁護士、信託銀行など第三者の専門家を選任することが多く見られます。
6.江東区・那覇市での実務対応例
例えば、那覇市のケースで、遺言に「土地を長男に相続させる」と書かれているが、遺言執行者が指定されていなかったため、相続人全員が家庭裁判所に申し立てて専門家が選任された例があります。
また、江東区では、特定遺贈の実行にあたり不動産の名義変更が必要だったが、相続人の一人が協力的でなかったため、弁護士が遺言執行者として選任され、強制的に手続きを実行したケースもあります。
7.まとめ
遺言執行者の指定がない遺言であっても、その内容が無効になることはありません。
しかし、相続の内容によっては、家庭裁判所による遺言執行者の選任が不可欠になる場面も多く存在します。
相続を円滑に進めるためには、生前の段階から遺言執行者をしっかりと指定しておくことが理想ですが、そうでない場合でも、適切に制度を活用することで、トラブルを回避しながら手続きを進めることが可能です。