工事経歴書と財務諸表の完成工事高が一致しないときの対処法~建設業許可申請・決算変更届でミスを防ぐために~

建設業許可において、「工事経歴書」と「財務諸表」の整合性は非常に重要です。特に、決算変更届を提出する際に、「工事経歴書に記載された完成工事高」と「財務諸表に記載された完成工事高(損益計算書の売上高欄)」が一致しないというケースは、申請担当者や経理担当者にとって頭を悩ませるポイントのひとつです。

本記事では、この不一致が発生する原因と、その対処法を具体的に解説します。

目次

1. 工事経歴書と財務諸表、それぞれの役割とは?

工事経歴書とは

工事経歴書は、建設業者が1年間に完成させた工事の内容を、許可業種ごとに記載する資料です。記載する項目には「工事名」「工事場所」「注文者」「契約金額」「完成工事高」などがあり、都道府県や地方整備局への決算変更届や新規・更新申請時に提出します。

財務諸表における完成工事高とは

一方、財務諸表(損益計算書)における「完成工事高」は、1会計年度中に完成し、引渡しまたは検収済みとなった工事から発生した売上を意味します。建設業会計特有の「工事完成基準」または「工事進行基準」に基づいて処理されます。

2. 完成工事高の不一致が起きる主な原因とは?

原因1:経理処理と工事経歴書の作成タイミングのズレ

会計処理は締日に基づいて正確に記帳されますが、工事経歴書では実際の「完成日」をもとに記載するため、工事の完成日が月末をまたいでいる場合など、記録のタイミングがズレてしまうことがあります。

・3月31日決算の会社
・ある工事の完成日が3月30日で、経理処理は4月1日に記帳された
→工事経歴書には前年度の完成工事として記載、
→財務諸表上では当年度の売上として処理されている。

原因2:進行基準で処理している場合のギャップ

進行基準(工事進行割合に応じて売上を計上する方式)を採用している場合、工事経歴書の「完成工事高」と、損益計算書上の売上が一致しないことがよくあります。

進行基準では工事の完了前でも売上が立つため、「工事は未完成だが売上に計上済み」という状態が発生し、経歴書と財務諸表との間で不一致が出ます。

原因3:工事経歴書上の金額が税込で記載されている

工事経歴書は、実務上「税込金額」で記載することが一般的ですが、財務諸表の売上高は原則「税抜き金額」で処理されます。この税額の差により、両者の数値が一致しないことがあります。

原因4:工事経歴書に「すべての工事」が網羅されていない

工事経歴書は「許可業種」にかかわる工事のみを記載します。許可業種外の工事や、小規模な雑工事などは省略されることもあるため、財務諸表上の売上と合計金額が一致しないことがあります。

3. 不一致を解消するための実務対応

対応1:元帳・台帳による確認と突き合わせ

まず行うべきは、「工事台帳」または「工事一覧表」の確認です。
・それぞれの工事の完成日
・契約金額
・売上計上日
・支払完了日
を時系列で整理し、会計処理と工事経歴書の記載が同一になっているか突き合わせましょう。

これにより、経理処理の年度と実際の工事完了タイミングが一致しているかを確認できます。

対応2:課税・非課税の確認と調整

工事経歴書で金額を「税込」で記載している場合、損益計算書と整合性を取るには、税抜処理に直す必要があります。特に消費税率が変更された年(例:8%→10%)は、年度またぎの工事で誤差が出やすいので注意が必要です。

必要に応じて、エクセル等で集計表を作成し、「税込→税抜」に変換したうえで財務諸表との整合性をチェックします。

対応3:未成工事受入金・支出金の処理との整合性

「完成工事高」だけでなく、「未成工事受入金」や「未成工事支出金」など、工事進行中の費用や収入がどう計上されているかも確認しましょう。進行中工事が売上計上されている場合には、財務諸表に載っていても経歴書には載らないというケースもあります。

4. 申請先との事前相談でミスを防ぐ

都道府県や国交省の地方整備局では、「完成工事高」と「財務諸表」の数値が極端に乖離している場合、補正を求められることがあります。
不一致が予想される場合には、申請前に窓口で事前相談を行い、以下のような説明資料を添付することを検討してください。

  • 工事台帳や契約書の写し
  • 補足説明書(ズレの理由や整理方法を記載)
  • 金額の突合せ表

また、担当官によっては完成工事高の「割合」や「記載件数」まで細かく指導されることもあるため、手引きや要領は必ず確認するようにしましょう。

5. 誤差があるまま提出するとどうなる?

軽微な差額であれば許容されることもありますが、説明ができない金額の食い違いがあると、「虚偽申請」と判断される可能性もゼロではありません。特に公共工事に関係する業者や指名競争入札に参加する事業者にとっては、信用失墜に直結します。

6. 経理担当・行政書士・税理士の連携が鍵

完成工事高に関する整合性を保つためには、行政書士だけでなく、税理士や経理担当者と連携しておくことが不可欠です。
特に以下のような取り組みが効果的です。

  • 会計ソフトでの科目設計を工事経歴書と連動させる
  • 決算前に行政書士が仮集計を行う
  • 毎月の会議で工事進捗と会計処理の状況を確認する

まとめ 完成工事高の一致は「書類の信頼性」の証

建設業許可の新規申請・更新・決算変更届において、工事経歴書と財務諸表の「完成工事高」が一致しているかどうかは、申請書類全体の信頼性を大きく左右します。

数値のズレが出やすい領域だからこそ、正確なデータ管理と事前の準備、そして関係者間の連携が重要です。
ズレのある場合には、慌てず丁寧に資料を整理し、必ず説明できる状態にしてから提出するよう心がけましょう。

※東京都江東区・沖縄県那覇市の建設業者様で、完成工事高に関するご不明点や不一致が見られる場合は、専門家への相談をおすすめします。書類不備による申請のやり直しを未然に防ぐことができます。ご自身で処理を進める前に、ぜひ一度ご確認ください。

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