参政党が参院選で急伸した理由とは?安倍支持層と氷河期世代が動かした新たな保守層の実態

2025年の参議院選挙において、ほとんどのマスメディアが無視していた「参政党」が、突如として台風の目となり、選挙区と比例代表を併せて14議席の獲得という成果を上げました。これは決して一過性のブームではありません。本記事では、参政党がなぜこのタイミングで躍進したのか、その要因を自民党安倍支持層との親和性や、氷河期世代との関係性を中心に分析します。

目次

1. 参政党とは何か、既存政党との違い

参政党は、2020年に設立された新興政党です。党の理念は「教育・食と健康・防災・地方創生」などを掲げ、保守的な価値観を基盤に置きつつも、従来の保守政党とは一線を画する「草の根型」運動体として出発しました。

最大の特徴は、「政党を一から作る」というコンセプトのもと、YouTubeやSNSを活用し、党員自らが情報発信と資金集めを行ってきたことです。伝統的な業界団体や労組からの支持を基盤とする旧来の政党とは異なり、徹底して「国民発の政治運動」としての姿勢を貫いてきました。

2. 躍進の背景① 自民党保守派の「受け皿」になった

参政党の躍進を語るうえで避けて通れないのが、「安倍支持層」の動きです。

2022年7月の参議院選挙直前、安倍晋三元首相が凶弾に倒れました。この事件は、保守層を中心に大きなショックと共感を呼び起こし、「安倍路線を継承する勢力はどこか?」という問いが急速に浮上しました。

自民党内では岸田文雄首相が主導する穏健保守・中道路線への移行が進んでおり、憲法改正、安全保障、教育改革といった安倍元首相の保守的アジェンダは後退しつつあるという不満が、特に右派層から強まっていました。参政党は、こうした保守層の「疎外感」と「政治不信」を背景に、思想的なシンパシーを得ていったのです。

参政党は明確に「保守」の言葉を用いつつも、「党内派閥も利権もない」「しがらみのない政治を実現する」と訴えました。このメッセージは、安倍元首相に強い共感を持っていたが、現在の自民党に不信感を抱く層にとって、強い吸引力を持ったのです。

3. 躍進の背景② 氷河期世代の怒りと絶望の受け皿に

参政党の支持者層の中で、特に注目すべきは「1970年代後半~80年代前半生まれ」、すなわちロスジェネ(氷河期)世代の存在です。

この世代は、1990年代のバブル崩壊後の不況の中で社会に出たため、正規雇用の機会に恵まれず、非正規・派遣労働が多数を占めています。住宅、結婚、子育て、老後の備えなど、人生のあらゆるステージで制度的な不利を被り続けてきました。

自民党は長年にわたりこの世代への救済策を後回しにしてきたという批判が根強く、また、野党も明確な「救済ビジョン」を示せなかったことから、政治に対する絶望がこの世代に蔓延していました。

参政党は、「教育の再生」や「家庭の復権」といったスローガンを通じて、この世代が感じてきた制度的不平等や、未来への不安を正面から取り上げました。また、「国民が政治に参加する仕組みを再構築する」という姿勢も、自分たちの声が届かないという諦念を抱えてきた層に刺さったのです。

参政党のYouTube動画や街頭演説は、彼らが抱える「怒り」を代弁する内容が多く、「この国のために声を上げたい」という潜在的なモチベーションに火を付けました。

4. 躍進の背景③ 情報環境の変化とSNS世論

参政党の躍進を後押ししたもう一つの要因が、インターネットとSNSの力です。

既存メディアの報道ではほとんど取り上げられなかったにもかかわらず、YouTubeでの講演、街頭演説のライブ配信、切り抜き動画、党首クラスのSNS発信などが強烈に機能しました。特に、保守的な価値観や陰謀論的言説に親和性を持つ層に対して、情報が共鳴しやすい仕組みが整っていたのです。

これは、旧来の新聞・テレビを通じて形成されてきた世論とは別に、「独自の情報空間」が生まれていることを意味します。テレビの報道では知ることができなかった「政治のリアル」を、SNS経由で自ら見て感じるという情報消費のスタイルが、特に30~50代を中心に拡大しています。

そして、この「新しい世論空間」での熱量が、参政党の支持を支えました。

5. 参政党の支持者層と自民党の今後

参政党の躍進は、単なる一時的な「泡沫政党の台頭」と片付けるべきではありません。そこには、次のような構造的な要因があるからです。

  • 自民党右派への不満:安倍路線の後継不在に不安を抱く保守層
  • 中道リベラル政党への失望:野党が氷河期世代の不安や生活に対して明確な提案をしきれなかったこと
  • 草の根参加の欲求:トップダウンではなく「ボトムアップ」での政治参加への希望

とくに自民党にとっては、長年の安定政権にあぐらをかき、「右からの突き上げ」に鈍感になっていたことが、参政党の台頭を許した背景にあります。今後、もし自民党がこの「右の空白」を埋められなければ、参政党に流れた保守票は恒常化する可能性があります。

また、氷河期世代の「諦め」が「怒り」に転じたとき、それを受け止められる政治勢力が新たな時代を形づくる起爆剤となるでしょう。

6. 政治の「地殻変動」は始まっている

2025年の参院選は、保守系新党の躍進という点で、平成以降の選挙史の中でも特異な意味を持つ出来事となりました。これまで「選択肢がない」とされてきた保守層や、政治に無関心だった層が、参政党という「選択肢」によって再び政治にアクセスし始めたのです。

この動きは、一種の「地殻変動」と言っても過言ではありません。

問題は、参政党が今後、政権与党に代わる現実的な政策形成能力と統治能力を身につけられるかです。現時点ではまだ「運動体」の域を出ていないとも言えますが、同時に、参政党が呼び起こしたエネルギーの源泉は、今後の日本政治の構造変化に大きなインパクトを与える可能性を秘めています。

まとめ 参政党の躍進は何を意味するのか?

参政党の躍進は、単なる新党ブームではありません。長期的に抑圧されてきた層──とりわけ氷河期世代と保守層の一部の「怒り」「失望」「諦め」が、形を変えて噴出した結果です。そしてその背景には、安倍晋三という存在が象徴していた「国家観」や「保守の理念」への共鳴と、「しがらみのない政治」への渇望が交錯しています。

日本の政治が今後大きく変化していくためには、このような草の根の動きを軽視せず、真摯に耳を傾ける必要があります。参政党の躍進は、今まさにその「転換点」に私たちが立たされていることを告げているのかもしれません。

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