工事進行基準と完成基準の違い~建設業における売上計上の考え方を理解する~

建設業において、売上をどのタイミングで計上するのかという会計処理は非常に重要です。これは単なる数字上の問題にとどまらず、税務上の処理、経営判断、さらには建設業許可や経営事項審査(経審)における財務評価にも影響を与えるためです。

本記事では、東京都江東区および沖縄県那覇市で建設業を営む皆さま向けに、「工事進行基準」と「完成基準」という2つの会計基準の違いと、それぞれの採用にあたっての注意点について、実務的な観点からわかりやすく解説いたします。

目次

1. 建設業における売上計上の特殊性とは?

建設業は、一般の小売業やサービス業とは異なり、工事の受注から完成までに長期間を要することが多く、その間にも資材費や外注費、人件費などが発生します。このため、年度をまたいで工事が継続するケースも多く、どのタイミングで売上を認識するかは重要な会計判断になります。

この「売上の認識時期」に関して、日本の会計制度では次の2つの基準が認められています。

  • 工事進行基準(Percentage of Completion Method)
  • 工事完成基準(Completed Contract Method)

2. 工事完成基準とは?

2-1. 基本的な考え方

工事完成基準とは、工事が完成し、引き渡しが完了した時点で初めて売上を計上する方法です。工事期間中は売上として計上せず、完成・引き渡し時に一括で計上することになります。

2-2. メリット

  • 計上のタイミングが明確でわかりやすい。
  • 会計処理が比較的簡単で、事務処理の負担が少ない。
  • 小規模業者や、1年以内で終わる小規模工事の場合に適している。

2-3. デメリット

  • 工事期間が長期にわたる場合、完成するまで売上が計上されないため、決算書上の業績が実態よりも悪く見える可能性がある。
  • 複数年にわたる大型工事を受注した場合、年度ごとの収益のバランスが取りにくくなる。

3. 工事進行基準とは?

3-1. 基本的な考え方

工事進行基準では、工事の進捗に応じて売上を計上していきます。たとえば、全体の工事のうち50%が完了したと認められる場合、受注金額の50%を当期の売上に計上します。

3-2. 進捗の算定方法

以下のいずれかで工事の進捗度を算定します。

  • 原価比例法(原価累計額 ÷ 見積総原価)
  • 工事出来高法(完成工事高ベース)

実務上は「原価比例法」が広く使われており、最も客観的な進捗率の算定方法とされています。

3-3. メリット

  • 工事の実態に即した売上計上が可能となり、収益の平準化が図れる。
  • 経営分析や銀行融資の場面で、売上や利益の安定性が評価されやすい。
  • 経営事項審査(経審)において評価が高くなる場合がある。

3-4. デメリット

  • 会計処理が複雑で、原価管理をきちんと行っていないと適切な進捗率が算定できない。
  • 工事ごとの原価管理台帳や記録の整備が必要となる。
  • 税務調査でのチェックポイントになることが多い。

4. 建設業法との関係と許可取得上の注意点

建設業許可の取得や更新において、工事進行基準・完成基準の選択そのものが直接の許可要件になることはありません。

しかし、以下の点で間接的に重要な影響を与えることがあります。

4-1. 決算変更届(事業年度終了報告)の工事経歴書や完成工事高

決算変更届では、完成工事高を基に記載を行いますが、会計上進行基準を採用している場合でも、あくまで「完成ベース」で記載する必要があります。

この点を誤解して進行基準で記載すると、都道府県の窓口で差し戻される可能性があります。

4-2. 経営事項審査(経審)における影響

経審においては、「完成工事高」や「営業利益」、「自己資本」などの指標が点数化され、評価されます。進行基準を採用している場合、これらの数値が平準化されるため、点数が安定しやすいという利点があります。

5. 東京都・沖縄県での実務上の運用

東京都江東区や沖縄県那覇市においても、税務署・都道府県・地方整備局により若干の指導・運用の違いがある可能性があります。

たとえば、進行基準の適用にあたっては、会計処理の整合性が取れているか、証憑書類がそろっているか、原価の見積や管理台帳の整備が行き届いているか、などが確認される場合があります。

申請や報告にあたっては、会計処理と建設業法上の処理のズレがないよう、事前に顧問税理士や行政書士とよく相談し、準備を進めておくことが大切です。

6. まとめ どちらを選ぶべきか?

基準適している事業者処理の難易度経審への影響
完成基準小規模事業者、短期工事中心低い安定性に欠ける可能性あり
進行基準中・大規模事業者、長期工事中心高い高評価につながる傾向あり

売上計上基準は、税務や経審、建設業許可手続きと密接に関係しています。どちらの基準を採用するかは、単に会計処理の方法というだけではなく、経営戦略や将来的な許可制度との整合性を考慮した判断が求められます。

特に、複数年にわたる工事や、公共工事の入札を視野に入れている場合は、早い段階から進行基準による会計処理の導入を検討することをおすすめします。

目次