
「遺言は書いた方がいい」とはよく聞くものの、いざ遺言書を作成しようと思うと、どの形式で書けばよいのか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
日本の民法では、遺言の方式として主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つがあります。
それぞれにメリット・デメリットがあり、相続人構成や財産内容、健康状態、家族関係などに応じて最適な方法を選ぶことが重要です。
今回は、東京都江東区や沖縄県那覇市で遺言を検討している皆さまに向けて、「自筆証書遺言と公正証書遺言の違い」と「どちらを選ぶべきか」について、実務経験を踏まえながらわかりやすく解説いたします。
1.そもそも遺言書とは?どんな形式がある?
日本の民法では、いくつかの「方式遺言」が認められていますが、一般的な日常生活の中で利用されるのは、以下の2つです。
- 自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)
- 公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)
その他に「秘密証書遺言」もありますが、現実にはほとんど利用されていません。
本記事では、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つを中心に解説します。
2.自筆証書遺言とは?特徴と要件
2-1.自筆証書遺言の基本
自筆証書遺言は、本人が全文を自筆で書いて作成する遺言書です。
費用がかからず、自宅でも気軽に作成できるのが特徴です。
2-2.主な要件(※2020年改正対応)
- 全文を自書すること(財産目録はパソコン等でも作成可)
- 日付・氏名・押印の記載
- 署名と押印が本人のもの
ただし、方式を満たしていなければ無効になるリスクが非常に高いため、注意が必要です。
2-3.保管方法と検認手続き
自筆証書遺言は、自宅や金庫などに保管することが多く、相続人が発見できない可能性もあります。
また、相続開始後には家庭裁判所での検認手続きが必要です(法的効力確認のための形式手続)。
2-4.2020年からの法改正と「法務局保管制度」
令和2年7月10日より、法務局での自筆証書遺言の保管制度がスタートしました。
この制度を使えば、家庭裁判所の検認が不要となり、安全に遺言を保管できます。
3.公正証書遺言とは?特徴と作成方法
3-1.公正証書遺言の基本
公正証書遺言は、公証役場で、公証人に内容を伝えて作成してもらう遺言書です。
作成には、公証人と証人2名の立ち会いが必要です。
3-2.作成の流れ
- 遺言内容の相談・準備(行政書士などの専門家がサポートする場合も多い)
- 公証人との事前打合せ
- 公証役場または出張訪問で作成・署名
- 原本は公証役場で保管、正本・謄本を遺言者が保管
3-3.主な特徴
- 公証人が法的にチェックしてくれるため、無効リスクが極めて低い
- 検認手続きが不要
- 原本が公証役場に保管されるため、紛失・改ざんの心配がない
- 病気や高齢で筆記できなくても、口述で作成可能
4.自筆証書遺言と公正証書遺言の比較一覧
比較項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
作成方法 | 自分で手書き | 公証人が作成(口述可) |
費用 | 原則無料 | 有料(数万円~十数万円) |
検認の要否 | 必要(※保管制度利用時は不要) | 不要 |
無効リスク | 高い(形式不備の危険あり) | 極めて低い |
紛失・改ざん | 紛失や改ざんの恐れあり | 原本が公証役場に保管 |
証人の要否 | 不要 | 2名必要 |
手間・手続き | 比較的簡単 | 公証人や証人の調整が必要 |
5.どちらを選ぶべきか?ケース別の選び方
5-1.自筆証書遺言が向いている方
- 財産がシンプルで少額(預貯金中心など)
- 自分の字がはっきり書ける
- まだ元気で何度でも書き直せる余裕がある
- 予算をかけたくない
→ただし、法務局の保管制度を利用することが強く推奨されます。
5-2.公正証書遺言が向いている方
- 財産の内容が複雑(不動産・有価証券・海外資産等)
- 相続人同士の関係性が悪い、争いが懸念される
- 高齢や認知症リスクがある(筆記が困難)
- 内縁の配偶者や第三者に遺贈したい
- 相続手続を確実かつスムーズにしたい
→費用はかかりますが、安全性と信頼性を重視するなら公正証書遺言が最適です。
6.実際の相続現場で多いトラブル事例
ケース1:自筆証書遺言が発見されず家庭裁判所でもめる
亡くなった父の書斎から遺言書が見つかったものの、日付が不明確だったため、家庭裁判所で無効と判断され、結局遺産分割協議になってしまった事例。
→遺言書は「見つけやすい場所に保管」し、「正しい形式」で書くことが重要です。
ケース2:内縁の妻が相続できず家を出ることに
30年間連れ添った内縁の妻がいたが、遺言を作成しておらず、相続人である兄弟により家を処分され、住む場所を失った。
→内縁配偶者には遺言による遺贈が必須です。
7.まとめ 遺言は「意思」を「実現」するための道具
遺言書は、単に相続のための手続きではなく、「自分の意思を明確に伝える」ための最も大切な方法です。
その内容がどれほど正しくても、形式や保管方法が誤っていれば意味をなさないこともあります。
- 「形式不備の心配なく、確実に実現したい」→ 公正証書遺言
- 「シンプルに費用を抑えたい」→ 自筆証書遺言(+保管制度)
状況に応じて、最適な形式を選び、大切な家族や想いを守る準備を進めましょう。