遺言でも奪えない「遺留分権」とは?その仕組みと実務上の注意点

相続をめぐる争いの多くは、遺言と法定相続の考え方の違いから発生します。
とくに「遺言によって相続分がゼロになった」といったケースでは、遺留分(いりゅうぶん)という制度が非常に重要になります。

この記事では、東京都江東区および沖縄県那覇市にお住まいの方に向けて、「遺留分とは何か」「誰が権利を持つのか」「どうやって権利を主張するのか」「遺言とどう関係するのか」といった観点から、実務的に役立つ情報をわかりやすくご説明します。

目次

1.遺留分とは?制度の基本的な考え方

1-1.遺言による財産処分の自由とその限界

民法では、亡くなった方(被相続人)が、遺言により財産の行き先を自由に指定することができると定められています。たとえば、「長男にすべての財産を相続させる」「お世話になった第三者に全額遺贈する」といったことも可能です。

しかし、これが完全に自由だと、他の相続人の生活が脅かされる危険性が出てきます。
そこで法律は、一定の相続人に対して「最低限の取り分(=遺留分)を保障する制度」を設けました。

1-2.遺留分は誰を守るための制度?

遺留分制度は、次のような相続人を保護するために設けられています。

  • 長年被相続人の生活を支えてきた配偶者
  • 経済的に自立していない未成年の子ども
  • 高齢で扶養を必要とする親

被相続人の処分の自由(遺言)と、相続人の生活の保障をバランスよく両立させることが、この制度の目的です。

2.遺留分を持つ相続人と持たない相続人

2-1.遺留分を持つ人(遺留分権利者)

遺留分を持つ相続人は以下の通りです。

相続人の種類遺留分があるか
配偶者  あり
子(直系卑属)あり
親(直系尊属)あり(子がいない場合)
兄弟姉妹 なし

たとえば、配偶者と子がいる場合、どちらも遺留分権利者になります。
一方、兄弟姉妹には遺留分は認められていません。

2-2.代襲相続がある場合の取扱い

たとえば、子が先に亡くなっていた場合、その子の子(孫)が代襲相続人になります。
このような場合も、代襲相続人には遺留分権が認められます。

2-3.遺留分を失うケース

次のような場合には、遺留分を持っていたとしても、その権利を失います。

  • 相続放棄をした場合
  • 相続人としての地位を失った(相続欠格・廃除)

これらは法的に「相続人でなくなる」ため、当然に遺留分もなくなります。

3.遺留分の具体的な割合

遺留分の割合は、相続人の構成によって変動します。

3-1.遺留分の計算方法

まず、「遺留分の基礎財産(遺贈+生前贈与+相続財産)」を基に、次の割合で遺留分が計算されます。

相続人の構成遺留分の割合
配偶者+子     法定相続分の1/2
子のみ        法定相続分の1/2
配偶者のみ      法定相続分の1/2
親のみ(子がいない場合)法定相続分の1/3

※ 兄弟姉妹のみが相続人である場合は、遺留分はゼロです。

3-2.計算例(配偶者と子ども1人の場合)

たとえば、総財産が6,000万円で、すべてを長男に相続させる遺言があるケース。

  • 配偶者と子がいるため、遺留分割合は法定相続分の1/2
  • 法定相続分:配偶者3,000万円、子3,000万円
  • 遺留分:配偶者1,500万円、子1,500万円

→ 長男に6,000万円全額を相続させる遺言があったとしても、配偶者や他の子どもは各1,500万円を請求可能です。

4.遺留分侵害額請求とは?手続と期限

4-1.侵害された場合の対処法

もし遺言などによって遺留分が侵害されていた場合、遺留分侵害額請求権を行使することができます。これは、具体的には次のような請求です。

  • 遺言によってすべての財産を他の相続人に相続させた場合
  • 特定の人に大きな贈与をした結果、他の相続人の遺留分を侵害している場合

このようなとき、侵害された相続人は金銭の支払いを請求する権利を持ちます。

4-2.請求の方法

  • 内容証明郵便で請求書を送付するのが一般的です。
  • 金額の交渉がまとまらなければ、調停や訴訟を起こすことになります。

※現在の制度では、かつてのような「物そのもの(不動産や株など)」の返還請求はできず、金銭での請求のみとなっています。

4-3.請求の期限(時効)

  • 遺留分を侵害されたことを知った日から1年
  • 相続開始から10年が経過した場合は請求できなくなります。

時効が短いため、侵害を受けていると感じたら早めに専門家に相談することが重要です。

5.実務での注意点とよくある誤解

5-1.「遺言があれば全て遺留分は関係ない」は誤り

「遺言書があればすべて思い通りになる」と考える方は少なくありませんが、遺留分を侵害する内容の遺言は一方的に無効になる可能性があります。

専門家による事前の確認と、遺留分に配慮した設計が必要です。

5-2.遺留分放棄は事前に家庭裁判所の許可が必要

生前に遺留分の放棄を希望する場合には、家庭裁判所の許可が必要です。遺留分の放棄契約を当事者間だけで行っても、法的には無効となります。

5-3.相続人間の感情的な対立に発展することも

遺留分侵害額請求は、金銭請求とはいえ、「もらいすぎだ」「取りすぎだ」という対立を生む可能性があります。
請求された側は「遺言を守ってほしい」、請求する側は「当然の権利だ」と主張し、親族関係に大きなヒビが入ることもあります。

6.まとめ 遺留分に配慮した遺言が円満相続の第一歩

「遺言で相続をしっかり決めておきたい」「お世話になった人に多くの財産を残したい」
そう考えるのは自然なことですが、法律が定めた「遺留分」という壁は無視できません。

円満な相続を実現するためには、

  • 遺留分の理解
  • 相続人構成の整理
  • 財産の配分とバランスの検討

が不可欠です。とくに相続人が複雑な場合や、特定の相続人と疎遠な場合は、遺言書の作成段階から遺留分に配慮することが肝要です。

幣事務所では、江東区・那覇市を中心に、遺言書の作成支援や遺留分をめぐるトラブルの事前予防のご相談を承っております。
トラブルのない「相続の設計」を一緒に考えていきましょう。

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