法務局の自筆証書遺言保管制度とは?利用方法と6つのメリットを解説

「遺言書を書いたはいいけど、保管場所に困る……」
「誰にも見られたくないけれど、死後に確実に見つけてもらいたい……」

そんな悩みを解決してくれるのが、自筆証書遺言書保管制度(以下「保管制度」)です。
令和2年(2020年)7月からスタートしたこの制度は、自筆証書遺言の法的リスクを軽減し、安全性・確実性を高める画期的な仕組みです。

本記事では、東京都江東区および沖縄県那覇市の方々を対象に、「保管制度の基本・手続方法・利用の注意点・具体的なメリット」について、実務の観点から詳しく解説します。

目次

1.法務局の自筆証書遺言保管制度とは?

1-1.制度の概要

この制度は、自筆証書遺言を法務局で安全に保管してくれる仕組みです。
法務局(正確には法務省の出先機関である「遺言書保管所」)に申し出ることで、遺言書の内容を秘密にしつつ、安全に管理してもらえます。

かつては、自筆証書遺言は家庭の金庫やタンスにしまっておくのが一般的でしたが、
・発見されない
・紛失する
・改ざんされる
といったトラブルが頻発していました。

このような問題に対応するために、法務省が導入したのがこの保管制度です。

2.保管制度の利用方法(手続きの流れ)

2-1.準備するもの

  • 自筆で書いた遺言書(A4サイズ、ホチキス止めや封筒不要)
  • 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
  • 手数料(1通につき3,900円)
  • 予約(オンラインまたは電話で必要)

※遺言書は封筒に入れず、そのまま提出します。

2-2.申請方法と保管の流れ

保管先の法務局を選ぶ
 遺言者の「住所地・本籍地・所有不動産の所在地」のいずれかを管轄する法務局で申請が可能です。
 東京都江東区にお住まいの方は「東京法務局本局」または墨田出張所、沖縄県那覇市の方は「那覇地方法務局」などが対応します。

予約をして法務局に出向く
 必ず事前に予約が必要です。オンライン(法務省の「遺言書保管所予約システム」)または電話で予約を取ります。

当日、本人が出向き遺言書を提出
 本人確認後、遺言書の形式的チェック(自筆かどうか、日付や署名の有無など)を受けて、保管されます。

保管証の交付
 手続が完了すると「遺言書保管証」が交付されます。これは大切に保管しましょう。

3.制度利用の6つのメリット

3-1.【メリット1】検認手続きが不要になる

通常、自筆証書遺言は、相続開始後に家庭裁判所の検認手続きが必要です。
この手続には数週間~数カ月かかり、相続手続の大きなハードルになります。

しかし保管制度を利用すれば、検認が不要になり、遺言の執行がスムーズに進みます。

3-2.【メリット2】改ざん・破棄・紛失のリスクがゼロ

従来は自宅保管が主流でしたが、第三者に見つかって勝手に処分されてしまうリスクがありました。
保管制度では、法務局の厳格な管理のもと保管されるため、改ざんや破棄、紛失の心配がありません

3-3.【メリット3】本人確認によって偽造の疑いを回避

遺言書提出時に本人確認が行われるため、本人の意思による作成であることが記録として残ります
このため、相続人間で「偽造だ」「本人が書いたものではない」といった紛争が起きにくくなります。

3-4.【メリット4】遺言の有無を相続人が簡単に調べられる

相続人等は、相続開始後に法務局で「遺言書情報証明書の交付請求」が可能です。
どの法務局に保管されているかわからなくても、全国のどの遺言書保管所でも請求できます。

また、相続人が故人の遺言書があることに気付かないリスクも防げます。

3-5.【メリット5】遺言の内容は生前は非公開

遺言者が生きている間は、本人以外は遺言の存在も内容も確認できません
誰かに勝手に開封されてしまうリスクもなく、プライバシーが完全に守られます

3-6.【メリット6】変更・撤回も柔軟にできる

遺言者が再度法務局を訪れれば、保管中の遺言書の閲覧・撤回・新たな遺言の保管が可能です。
「遺言内容を変更したい」と思ったときも、新たに書き直して保管するだけで対応可能です。

4.保管制度利用時の注意点と落とし穴

4-1.あくまで「形式チェック」のみで内容の法的有効性は確認されない

法務局では形式の不備(自筆か否か、日付や署名の有無など)のみをチェックします。
内容の妥当性や法的な有効性までは審査されません。

たとえば、法定相続人の遺留分を侵害する内容や、文意が不明確な内容であっても、そのまま保管されてしまいます。

→可能な限り、行政書士など専門家によるアドバイスを受けて遺言書を作成しましょう。

4-2.財産目録の添付や具体性が求められる

不動産や預金、株式などの財産については、「どの財産を誰に渡すのか」が明確でなければ、実際の相続手続きでトラブルになります。

財産目録を添付する場合には、目録はパソコンでの作成もOKですが、各ページに署名押印が必要です。

5.こんな方におすすめです

  • 「費用をかけずに、でも安全に遺言を残したい」
  • 「子ども同士で相続トラブルにならないようにしたい」
  • 「不動産や預金を特定の人に確実に渡したい」
  • 「家族に検認手続などの負担をかけたくない」
  • 「自宅に遺言書を置いておくのは不安」

こういったお悩みを持つ方にとって、保管制度は最もバランスの取れた選択肢です。

6.まとめ 費用も手間もかけず、確実な相続準備を

かつては自筆証書遺言には「紛失・偽造・無効化リスク」があり、専門家の間でも敬遠されがちでした。
しかし法務局の保管制度の登場により、「安全・確実・安価」な遺言手段として評価が一変しています。

「いつか遺言を…」と思っていた方は、今日がその「いつか」かもしれません。
少しの手間と数千円の費用で、残されるご家族の未来を守ることができます。

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