
「遺言書さえ書いておけば相続争いは起きない」、そう思っていませんか?
実は、遺言書があるにもかかわらず、家族間で激しい争いが生じるケースは少なくありません。特に、遺留分(いりゅうぶん)をめぐるトラブルは、現代の相続実務において最も深刻な「争族」の原因のひとつです。
今回は、遺留分が原因で家族が争うことにならないようにするための実践的な対策を5つ、東京都江東区および沖縄県那覇市の皆さまに向けてわかりやすく解説いたします。
1. そもそも遺留分とは何か?
まず、基本を押さえておきましょう。
遺留分とは、一定の相続人に法律で保障された最低限の取り分のことです。たとえ遺言書で「すべての財産を長男に相続させる」と書かれていても、配偶者や他の子には「遺留分侵害額請求権」があり、法定割合に満たない相続を補てんするよう求めることができます。
遺留分を持つ相続人
- 配偶者
- 子(または代襲相続人)
- 直系尊属(親など)
※兄弟姉妹には遺留分はありません。
この制度があることで、遺族の生活が保護される一方で、「どうしてあの人にだけ多く相続させたのか」といった感情的な対立が生じやすくなっています。
2. よくある遺留分トラブルの実例
遺留分をめぐる争いは、さまざまな形で起きます。以下は代表的なトラブルの例です。
- 「父が遺言で長男にすべての財産を残していた。納得できない」と次男が遺留分を請求
- 「生前贈与された分も含めるべきだ」と相続人の一人が不満を訴える
- 遺留分侵害額請求があったことにより、遺言で指定された相続人が預金を返還することになり、感情的な対立が悪化
このような事態に陥ると、家族関係に深刻なひびが入るばかりでなく、手続きも長期化し、精神的・経済的コストが非常に大きくなります。
では、そうした争いをどう回避すべきなのでしょうか?
3. 争族を防ぐ!5つの実践策
実践策① 遺留分に配慮した遺言書の作成
最も基本的で効果的な方法が、遺留分を侵害しない範囲で遺言書を作成することです。
特定の相続人に多くの財産を渡したい場合でも、他の相続人の遺留分をきちんと計算し、その分は侵害しないように遺言内容を設計すれば、後々のトラブルを避けやすくなります。
また、やむを得ず遺留分を侵害する場合でも、その理由を遺言書の「付言事項」として明記しておくことで、相続人の納得を得やすくなります。
例:「長男には私の介護や事業の後継ぎとして多大な尽力をしてもらったため、相応の財産を遺したいと考えました。」
※なお、遺留分を完全に排除するには、相続人廃除など特別な法的手続きが必要であり、家庭裁判所の審判を要します。
実践策② 相続人に対する事前説明(家族会議)
被相続人が生前に遺言書の内容やその意図を家族に説明しておくことも、大きな効果があります。
「なぜこのような遺産分割にしたのか」「この相続にどういう想いがあるのか」を事前に家族に伝えておくことで、相続人が内容に納得しやすくなり、遺留分侵害額請求が避けられることもあります。
家族会議という形で、専門家(行政書士・司法書士・弁護士など)に同席してもらいながら説明する場を設けることも、誤解や対立を防ぐために非常に有効です。
実践策③ 生前贈与の活用と注意点
遺留分の問題を回避するために「生前贈与」を検討する方も多いですが、実はここにも落とし穴があります。
というのも、死亡前10年以内の贈与財産は遺留分の計算に持ち戻されるため、「生前に渡したから大丈夫」とは言い切れません。
ただし、贈与する相手が法定相続人でなければ、遺留分への影響を軽減できるケースもあります。また、「相続時精算課税制度」などの制度を上手く活用すれば、税務上も有利に贈与できる場合があります。
専門家の助言を受けつつ、どのタイミングで・誰に・いくら贈与するかを慎重に検討しましょう。
実践策④ 代償分割や保険の活用
たとえば「事業用の不動産を長男に相続させたいが、次男の遺留分も保障したい」といったケースでは、代償分割や生命保険の活用が有効です。
- 長男に不動産を相続させ、次男には現金を支払って調整
- 長男を受取人とする生命保険契約を利用し、不動産は次男に
こうした方法を使えば、相続財産の分割を現実的に進めつつ、遺留分への配慮も可能になります。
生命保険金は原則として「受取人固有の財産」となり、相続財産には含まれませんが、あまりにも高額だと特別受益として遺留分に影響を及ぼすこともありますので注意が必要です。
実践策⑤ 遺留分対策を前提とした遺言執行者の指定
遺言書を作成する際は、遺言執行者の指定も忘れてはいけません。
遺留分請求がなされる可能性がある場合、相続手続は複雑になります。そのようなときに中立的かつ専門的に対応できる遺言執行者がいれば、相続人同士の対立を最小限に抑えることが可能です。
また、最近では、遺言執行者が特定財産の相続登記を行えるように法律が改正されており、実務上の役割も非常に大きくなっています。
まとめ 遺留分対策は「相続の平和」を守るための鍵
相続は単なる「財産の引継ぎ」ではなく、家族関係の整理でもあります。特定の相続人への想いが強い場合でも、他の相続人に対する最低限の配慮(=遺留分)を怠ると、結果的に家族の関係が壊れてしまうこともあります。
相続の争いを避けたいのであれば、遺留分の知識を持ち、具体的な対策を講じることが必要不可欠です。
東京都江東区・沖縄県那覇市で相続・遺言をめぐる不安やお悩みがある方は、どうぞ専門家にご相談ください。状況に合わせた「争族を避けるための生前対策」を一緒に考えていきましょう。