
1 遺留分侵害額請求とは何か
相続において、被相続人が遺言で特定の相続人に大半の財産を集中させたり、生前贈与でほとんどの財産を移転してしまうと、一部の相続人に「何も残らない」という事態が生じます。
このような不公平を調整するために設けられているのが「遺留分制度」です。
遺留分侵害が発生した場合、権利を有する相続人(遺留分権利者)は、他の相続人や受贈者に対して「遺留分侵害額請求」を行うことができます。
これは以前の「減殺請求権」とは異なり、金銭請求権として権利行使できるようになった点が大きな特徴です。
2 遺留分侵害額請求の流れ
実際に請求が行われる場合、基本的には以下の流れをたどります。
- 遺産内容の確認
遺産分割協議や遺言内容を確認し、相続財産の範囲と評価額を明らかにします。 - 遺留分の計算
相続人の構成に応じて、法定相続分を基準に遺留分を算定します。
例:配偶者と子2人 → 子の遺留分は法定相続分(1/2)のさらに1/2 = 1/4。 - 侵害額の算定
遺言や贈与によって遺留分が侵害されている場合、具体的な侵害額を計算します。 - 請求通知(内容証明郵便など)
遺留分を侵害された相続人は、受遺者や受贈者に対し請求の意思表示を行います。
多くは内容証明郵便が用いられ、ここから交渉が始まります。 - 協議による解決
当事者間で話し合い、金銭の支払い時期・方法を調整します。分割払い・不動産売却を伴うケースもあります。 - 調停・裁判
協議で解決できない場合は、家庭裁判所で調停申立てを行い、最終的には訴訟に発展することもあります。
3 請求する側の対応策
遺留分侵害額請求を行う立場では、次の点が重要です。
- 早めに意思表示をする
遺留分侵害額請求権は、相続の開始と侵害を知ったときから「1年以内」に行使しなければなりません。時効消滅に注意が必要です。 - 内容証明郵便で請求する
口頭や手紙では証拠が残らないため、必ず内容証明郵便で通知することが推奨されます。 - 財産評価を正確に行う
遺産の評価額を巡って争いになることが多いので、不動産鑑定や専門家の意見を活用することも有効です。 - 分割払い・担保提供の検討
相手に資金余力がない場合、一括払いが困難なこともあります。分割払いの合意や担保設定により実効性を確保できます。
4 請求を受けた側の対応策
一方で遺留分侵害額請求を受けた場合、次のような対応が必要です。
- 請求の有効性を確認
遺留分の計算に誤りがないか、対象財産に含まれる範囲が正しいかをまず確認します。 - 協議での柔軟な解決を目指す
裁判になると時間・費用の負担が大きいため、可能な限り協議で解決することが望ましいです。 - 支払能力を考慮した提案
一括払いが難しい場合には、分割払いや不動産の共有解消を提案することもあります。 - 感情的対立の調整
遺留分請求は「不公平感」が根底にあるため、感情的対立が激化しやすい分野です。弁護士や専門家を交えた冷静な交渉が必要となります。
5 協議・調停での注意点
協議や調停の場では、次の点が実務上の大きなポイントです。
- 遺産評価の基準時
原則として相続開始時の価額で評価しますが、現実には価格変動があるため争いになりやすい部分です。 - 生前贈与の扱い
相続開始前10年以内の贈与は原則として対象になります。親族間で「過去の贈与」をどう扱うかがよく問題となります。 - 代償金の支払方法
まとまった現金がない場合、不動産を売却して代償金を捻出するケースが少なくありません。地域によっては不動産市場の流動性が異なるため、江東区と那覇市では事情が変わります。
6 江東区・那覇市での実務的特徴
- 江東区の場合
不動産価格が高く、相続財産の中心が「自宅不動産」であるケースが多いです。そのため、売却や共有解消をめぐる調停が頻発しています。 - 那覇市の場合
土地は先祖代々のものという意識が強く、処分に強い抵抗感を示す親族もいます。そのため、分割払いで代償金を解決する事例が比較的多く見られます。
7 実務的な費用シミュレーション
- 内容証明郵便作成:行政書士や弁護士に依頼する場合 2~5万円程度
- 家庭裁判所調停申立て費用:印紙代数千円+郵便切手代数千円
- 弁護士費用:着手金30~50万円、成功報酬は取得額の10~20%程度が目安
※地域や事務所により差があります。
8 遺留分侵害額請求通知の文例(簡易版)
遺留分侵害額請求通知書
〇〇殿
私は、令和〇年〇月〇日死亡した被相続人△△の相続人として遺留分を有しております。
しかしながら、遺言内容及び生前贈与により、私の遺留分が侵害されております。
つきましては、民法第1046条に基づき、遺留分侵害額として金〇〇円の支払いを請求いたします。
令和〇年〇月〇日
住所
氏名
9 まとめ
遺留分侵害額請求は、相続における最も紛争化しやすい局面のひとつです。
請求する側は時効や証拠に注意し、請求を受ける側は協議での柔軟な対応を心がける必要があります。
江東区のように不動産評価が高額な地域、那覇市のように土地に特別な思い入れがある地域、それぞれの事情を踏まえた解決が不可欠です。
相続は法律問題であると同時に、家族の人間関係に深く関わる問題です。紛争を長引かせないためには、専門家の力を早期に借りることが最善の対策となります。
行政書士見山事務所は終活や相続手続き、遺言作成に精通しています。お気軽にご相談下さい。