
1 はじめに
相続において、自宅不動産をどう扱うかは常に大きな問題です。特に、被相続人(亡くなった方)の配偶者がその家に住んでいた場合、遺産分割の結果として自宅を失う可能性があり、残された生活基盤が不安定になるという深刻な課題がありました。
2020年4月1日に施行された民法改正により「配偶者居住権」という新しい権利が導入され、この問題に一定の解決策が与えられました。本記事では、その仕組みや注意点を、東京都江東区や沖縄県那覇市にお住まいの皆様に向けてわかりやすく解説します。
2 従来の問題点
これまでの相続制度では、配偶者が相続できるのは「所有権」のみでした。
典型的なトラブル例
- 不動産を相続した場合
自宅を相続すれば住み続けることはできますが、その分預貯金やその他の財産をほとんど取得できず、生活費に困るケースがありました。 - 不動産を相続しなかった場合
預貯金を相続したものの、自宅は他の相続人が取得したため退去を求められ、住む場所を失うこともありました。
江東区のように不動産価格が高く、財産の大半が自宅不動産というケースや、那覇市のように土地を複数人で共有して暮らすことが多い地域では、こうした問題が頻発していました。
3 新しくできた「配偶者居住権」とは
(1)権利の内容
「配偶者居住権」とは、被相続人の配偶者が相続開始時に住んでいた自宅に、終身または一定期間、無償で住み続けることができる権利です。
(2)所有権との切り離し
不動産を「配偶者居住権」と「負担付き所有権」に分けて評価します。
- 配偶者:居住権を取得
- 子など他の相続人:制限のある所有権を取得
こうすることで、配偶者は住む権利を確保しつつ、他の相続人も資産の一部を公平に分けられる仕組みになりました。
4 「配偶者短期居住権」との違い
新制度では「配偶者短期居住権」も創設されました。
- 配偶者居住権:遺産分割や遺言により取得。終身または期間を定めて居住可能。
- 配偶者短期居住権:相続発生後、自宅を相続しなかった配偶者が、遺産分割協議が終わるまで(最低6か月間)は無償で居住できる権利。
つまり、短期居住権は「とりあえず退去を迫られないようにするための最低限の保障」、長期の居住を保障するのは「配偶者居住権」と整理できます。
5 配偶者居住権のメリットと注意点
メリット
- 生活基盤の安定
配偶者は自宅に住み続けられるため、高齢期の生活の不安が軽減されます。 - 他の財産の取得も可能
不動産の評価額が「居住権」と「負担付き所有権」に分かれるため、配偶者は預貯金など他の財産を同時に取得しやすくなります。 - 遺言による指定が可能
被相続人が遺言書に「配偶者居住権を与える」と記せば、確実に適用されます。
注意点
- 売却や賃貸はできない
配偶者居住権は居住専用であり、第三者に貸したり売却したりすることはできません。 - 評価の難しさ
居住権の評価額は配偶者の年齢や平均余命などを基に計算されます。評価を巡って相続人間で揉めることがあります。 - 維持費の負担
固定資産税や修繕費など、建物維持に関する費用は原則として居住権者(配偶者)が負担する必要があります。
6 遺言書と配偶者居住権
配偶者居住権を有効に活用するためには、遺言書を活用することが非常に重要です。
遺言書に盛り込む方法
- 公正証書遺言で「妻〇〇に配偶者居住権を与える」と明記する
- 付言事項で「残された配偶者の生活を守りたい」という意思を示す
こうした記載により、他の相続人とのトラブルを防ぎやすくなります。
7 江東区・那覇市の事例に学ぶ
江東区の場合
不動産評価額が非常に高く、遺産の大半を不動産が占めるケースが典型です。
- 自宅をそのまま配偶者が所有すると、他の相続人の取り分が著しく減る
- 居住権を設定し、子が「負担付き所有権」を取得することでバランスがとれる
那覇市の場合
親族が近くに住み、多世帯が同居することも多いため、配偶者が自宅に住み続けられるかどうかは大きな問題です。
- 配偶者居住権を活用することで、同居家族の生活を安定させることが可能
- 農地や複数の不動産が絡む場合は、居住権と併せて家族信託を検討することも有効
8 実務の流れ
- 遺言書の作成
配偶者居住権を与える旨を記す。できれば公正証書遺言にする。 - 遺産分割協議
遺言がない場合は協議で居住権を設定できる。 - 登記手続き
居住権は登記して初めて第三者に対抗できるため、法務局での登記が必要。 - 税務面の確認
配偶者居住権の評価は相続税計算にも影響します。税理士との連携が不可欠です。
9 まとめ
配偶者居住権は、残された配偶者の生活を守るために創設された新しい権利です。
- 自宅に住み続けられる安心感を確保できる
- 預貯金など他の財産も相続しやすくなる
- 遺言書で指定すればトラブルを未然に防げる
江東区のように不動産価値が高い地域でも、那覇市のように家族の結びつきが強い地域でも、配偶者居住権を正しく活用することは大切な相続対策です。
遺言書の作成や具体的な制度利用については、早めに専門家に相談し、家族にとって最適な方法を選ぶことが重要です。
行政書士見山事務所は終活相談、相続手続き、遺言作成などのプロフェッショナルです。お気軽にご相談下さい。