
目次
はじめに
遺言は、残された家族や大切な人への最後のメッセージであり、財産や意思を正しく伝えるための大切な法的手段です。
しかし、遺言にはいくつかの「方式」があり、それぞれにメリット・デメリットや使い分けのポイントがあります。
本記事では、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」という代表的な3つの方式について、違いと活用の仕方をわかりやすく解説します。
1.自筆証書遺言
(じひつしょうしょいごん)
特徴:
- 全文を自筆で書く遺言
- もっとも簡便で費用がかからない方式
- 2020年からは一部「パソコン等作成の財産目録」添付も可能
メリット:
- 費用がほとんどかからない(紙とペンがあればOK)
- 思い立ったときにすぐに作成可能
- 内容を他人に知られずに済む
デメリット:
- 家庭裁判所の検認手続きが必要
- 法的要件を満たさないと無効となる危険がある
- 紛失・改ざん・発見されないリスク
向いている方:
- 費用をかけたくない
- 内容を秘密にしておきたい
- 法的な形式に自信がある、または専門家の確認を受けた上で保管できる人
2.公正証書遺言
(こうせいしょうしょいごん)
特徴:
- 公証人が本人の意思に基づいて内容を記録し、公証役場で作成される遺言
- 原本が公証役場に保管される
メリット:
- 検認手続きが不要
- 法的に確実で、無効リスクが極めて低い
- 紛失や改ざんの心配がない
- 高齢者や目の不自由な方でも作成可能(代読対応)
デメリット:
- 費用がかかる(公証人の手数料、証人費用など)
- 公証人や証人に内容が知られる
- 手続きに多少の準備時間が必要
向いている方:
- 確実に遺言を残したい
- 財産が多く、相続に関する争いを避けたい
- 家族や第三者への法的トラブルを避けたい
3.秘密証書遺言
(ひみつしょうしょいごん)
特徴:
- 遺言の内容は秘密にしたまま、公証人に提出し、存在だけを証明する方式
- 遺言書を封印し、公証人と証人の前で提出して作成する
メリット:
- 内容を他人に知られずに済む
- 遺言の「存在」だけは公証された状態で証明できる
デメリット:
- 検認手続きが必要
- 本文に不備があると無効になるリスクがある(内容は公証人が確認しない)
- 現在では利用例が少なく、実務上も取り扱いにくいケースがある
向いている方:
- 内容は秘密にしたいが、公的な証明も欲しい
- 法的形式について専門家のサポートを受けられる人
4.遺言方式の比較表
項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 |
作成方法 | 自分で書く | 公証人が作成 | 本人作成+公証人に提出 |
費用 | ほぼ不要 | 公証人手数料等が必要 | 公証人手数料が必要 |
秘密性 | 高い | 低い | 高い |
検認 | 必要 | 不要 | 必要 |
法的安全性 | 要件不備のリスクあり | 最も安全 | 要件不備のリスクあり |
紛失・改ざん | 可能性あり | 原本保管あり | 紛失の可能性あり |
5.方式ごとの使い分けポイント
- 初めての遺言でシンプルに始めたい方:
→自筆証書遺言(法的要件を要チェック) - 将来の相続トラブルを防ぎたい、財産の種類が多い方:
→公正証書遺言(専門家と一緒に作成) - 遺言の存在は証明したいが内容は秘匿したい方:
→秘密証書遺言(要専門家のチェック)
また、令和元年からは法務局による自筆証書遺言の保管制度も開始され、自筆証書遺言の利便性が高まっています。
保管制度を利用すれば、検認手続きも不要となるため、近年注目されています。
まとめ
遺言の方式は、それぞれに特徴があり、自分の状況や遺したい思いに合わせて選ぶことが大切です。
- 自筆で気軽に始める「自筆証書遺言」
- 法的に最も確実な「公正証書遺言」
- 秘密性と存在証明を両立させる「秘密証書遺言」
どの方式を選んでも、大切なのは遺言の内容が明確で、誰に・何を・どのように残したいかがはっきりしていることです。可能であれば、行政書士や司法書士などの専門家と相談しながら作成することをおすすめします。