
公共工事に参加する建設業者にとって避けて通れないのが「経営事項審査(経審)」です。前回の記事では、経審の最初のステップである「経営状況分析」について詳しく解説しました。今回はその続編として、経審の本体部分である「経審本審査」について、実務の流れや必要書類、注意点などを詳しくご紹介します。
■ 経審本審査とは?
経営事項審査は、単なる財務分析だけでなく、建設業者としての規模、技術力、社会性なども総合的に評価する制度です。
経審本審査では、以下の項目について審査・点数化が行われ、最終的に「総合評定値(P点)」が算出されます。
評価項目 | 内容 |
経営状況(Y点) | 登録分析機関による財務健全性の評価 |
経営規模(X点) | 売上高・完成工事高・技術者数などの規模 |
技術力(Z点) | 専任技術者の保有資格や施工実績 |
社会性等(W点) | 労働保険加入、法令遵守、建退共などの要素 |
この本審査の結果として得られる「P点」が、公共工事の入札における業者ランクや選定基準に大きく影響します。
■ 審査を受けるにはどこに申請する?
経審本審査は、建設業許可の管轄と同じく、次のように申請先が異なります。
- 都道府県知事許可業者 → 各都道府県の担当部局(例:東京都都市整備局、沖縄県土木建築部など)
- 国土交通大臣許可業者 → 地方整備局(関東地方整備局、九州地方整備局、沖縄総合事務局など)
たとえば、江東区の建設業者で都知事許可を受けている場合は東京都庁へ、那覇市の業者で国交大臣許可なら沖縄総合事務局が窓口です。
■ 経審本審査の流れ
ここからは、実際の審査のステップを詳しくご紹介します。
① 必要書類の準備
経審本審査で求められる主な書類は以下の通りです。事前に揃えておきましょう。
主な提出書類:
- 経営事項審査申請書(様式第一号)
- 工事経歴書(直前1年分)
- 完成工事高計算書
- 技術職員名簿
- 使用人数一覧表
- 労働保険(雇用保険・労災保険)の加入証明
- 建設業退職金共済制度加入証明(建退共)
- 登記簿謄本・定款(法人の場合)
- 印鑑証明書(代表者のもの)
- 税務署の法人税申告書控え
- 決算報告書(財務諸表一式)
- 経営状況分析結果通知書(Y点が記載されたもの)
これらの書類は、建設業許可の決算変更届を済ませた直後に準備を進めるとスムーズです。
② 技術職員の資格確認
Z点(技術力点)を高めるには、国家資格保有者の専任技術者が在籍していることが重要です。対象となる資格には以下のようなものがあります。
- 1級・2級建築施工管理技士
- 電気工事施工管理技士
- 管工事施工管理技士
- 土木施工管理技士
- 技術士、建築士 など
該当する技術職員がいる場合、資格証の写しと実務経験証明を添付する必要があります。
③ 工事経歴の記載
「工事経歴書」には、直前1年分の主要な工事実績を10件程度まで記載できます。ここで注意が必要なのは、工事内容や金額、発注者との関係がはっきりしないと、点数加算の対象にならないということです。
公共工事であれば、請負契約書や検査済証などのエビデンスを添えると信頼性が増します。
④ 申請書類の提出と受付
書類が揃ったら、各管轄の行政窓口へ申請します。提出後、職員による書類確認が行われ、不備がなければ受理されます。
現在はオンライン申請が推奨されており、東京都や沖縄県でも電子申請ポータルを活用すれば、紙のやり取りを減らせます。
⑤ 審査・評点の通知
書類受理からおおむね1か月〜1か月半程度で審査が完了し、「経営事項審査結果通知書」が発行されます。この通知書には、以下の点数が記載されます。
- 総合評定値(P点)
- 経営規模評価(X点)
- 技術力評価(Z点)
- 社会性評価(W点)
このP点をもとに、発注機関ごとのランク(A〜Eなど)が定まるため、業者にとっては非常に重要な評価書類となります。
■ 経審の有効期間と注意点
経審の有効期間は、原則1年間です。そのため、公共工事を継続して請け負うには、毎年更新する必要があります。
注意点として、以下のような点にご留意ください。
- 経審は決算期後にしか申請できない
- 経営状況分析を済ませていないと、経審の申請ができない
- 技術者の離職・資格失効によりZ点が下がる可能性あり
- 決算内容や申請内容に誤りがあると、再申請が必要となり期間が延びる
■ 江東区・那覇市の実務上のポイント
東京都江東区の事業者様へ
東京都では、入札参加資格審査(建設工事部門)が隔年で実施されており、経審の結果を反映させるためには、事前に経審を済ませておく必要があります。登録更新のタイミングを逃さないよう、スケジュール管理が非常に重要です。
沖縄県那覇市の事業者様へ
那覇市および沖縄県では、地元業者の育成枠や地域要件を満たすことで加点される制度もあります。地域内での施工実績がある場合は、きちんと申請書に反映させると有利に働きます。
■ まとめ 経審本審査を乗り越えて、公共工事への道を開く
経営事項審査の本審査は、公共工事に参加するための最も重要なハードルの一つです。自社の財務状態、施工実績、技術者の資格状況を正確に把握し、書類を整えて提出することで、評価点を高めることができます。
江東区・那覇市で公共工事を目指す建設業者の皆さまには、毎年のスケジュール管理と丁寧な書類準備が何より大切です。不安がある場合は、行政書士など専門家のサポートを受けることで、時間や労力を節約しつつ、より確実な申請が可能になります。