
相続の際、遺言書に基づいて相続人以外の人や団体に財産を与える「遺贈(いぞう)」という制度があります。これは、故人(被相続人)の最終意思を反映する非常に重要な制度であり、円滑な相続手続の実現に大きく貢献します。
しかし、遺贈された側(受遺者)がそれを放棄することも可能であり、また、遺言者自身が生前に遺贈を撤回することもあります。これらの行為には一定のルールや注意点があり、それぞれに影響が生じるため、しっかりと理解しておくことが大切です。
この記事では、東京都江東区や沖縄県那覇市にお住まいの皆さま向けに、「遺贈の放棄・撤回とその影響」について、わかりやすく解説いたします。
1. 遺贈とは何か?〜まずは基本の確認から〜
遺贈とは、遺言によって相続人以外の第三者(または団体)に財産を無償で譲り渡す行為です。遺言に記載されていなければ効力はなく、あくまで遺言書に基づいて発生します。
遺贈の種類
種類 | 内容 |
特定遺贈 | 特定の財産を特定の人に与える(例:○○不動産をAに遺贈する) |
包括遺贈 | 遺産全体または一定割合を与える(例:全財産の3分の1をBに遺贈する) |
このように、遺贈は遺言者の強い意思表示に基づいて発生しますが、受け取る側にはそれを拒否する「放棄」の権利が、そして遺言者には生前に内容を変える「撤回」の権利が認められています。
2. 遺贈の放棄とは?〜受遺者の意思で拒否できる〜
放棄の基本
受遺者は、遺贈を受け取るかどうかを選ぶ自由があります。これは、たとえば以下のようなケースを想定しています。
- 遺贈された不動産が老朽化していて管理費がかかる
- 相続税や固定資産税の支払いが困難
- 他の相続人との関係性を悪化させたくない
- 単に受け取る意志がない
放棄の手続き
遺贈の放棄は、家庭裁判所の許可は不要です。ただし、口頭での放棄では証拠が残らず、トラブルの原因になりやすいため、以下の手続きを推奨します。
遺贈放棄のステップ
- 遺言執行者に書面で放棄の意思を通知(なければ相続人代表へ)
- 書面には「遺贈を放棄する旨」「氏名」「日付」などを記載
- 内容証明郵便で送ると安心
※不動産が絡む場合は、法務局での登記手続きで「放棄証明書」の提出が必要になることもあります。
放棄の期限は?
遺贈の放棄に明確な法的期限はありませんが、受け取る意思を示す前に放棄する必要があります。一度受け取ってしまうと、後から「やっぱり放棄します」は認められません。
3. 遺贈の撤回とは?〜遺言者が生前に変える権利〜
遺贈は遺言書に記載されて初めて法的効力を持ちますが、それは遺言者の死亡時点での最終意思に基づきます。したがって、遺言者が生前に「やっぱりあの人に遺すのはやめよう」と思った場合、自由に撤回が可能です。
撤回の方法
- 新しい遺言書を作成して、以前の内容を無効にする
- 遺贈の対象財産を売却または贈与する(事実上の撤回)
- 遺言書を破棄する(ただし証拠保全の問題あり)
注意点
- 公正証書遺言は破棄できないため、新しい公正証書遺言の作成が必須
- 古い遺言書との整合性をとるため、撤回したい旨を明記することが望ましい
- 複数の遺言書がある場合、日付が一番新しいものが有効
4. 遺贈の放棄・撤回が他の相続人に与える影響
遺贈の放棄や撤回が起きた場合、それは他の相続人や受遺者に影響を及ぼすことがあります。
遺贈の放棄があった場合
- その財産は、原則として相続人全体の遺産に戻る
- 特定遺贈であっても、遺言書に「放棄があった場合は○○に帰属する」と記載されていなければ、相続人全体に共有で帰属
遺贈の撤回があった場合
- 撤回された部分は相続人間で分割対象となる
- もし新たに他の受遺者を指定した場合は、その指示に従って財産が移動する
このように、遺贈の放棄や撤回は、遺産全体の分配構成を変えてしまう可能性があります。
5. 遺贈に関する税務上の注意点
遺贈を受けた場合の税金
- 相続人以外が遺贈を受けた場合:相続税が2割加算
- 相続人が受けた場合でも、遺産額に応じて相続税が発生する可能性
遺贈の放棄と税務
- 放棄しても、一度取得したとみなされるケースがあり、要注意
- 特に包括遺贈では、放棄時点で相続税の申告義務が発生することも
税理士との連携が重要
放棄・撤回の判断をする際は、相続税の申告・納付期限(死亡から10ヶ月以内)を踏まえ、税理士とよく相談しましょう。
6. 実務でよくあるトラブルと対策
トラブル①:受遺者が認知症や高齢で意思表示が困難
→ 家庭裁判所に「成年後見制度」を申立て、代理人による対応が必要
トラブル②:放棄を口頭で伝えただけで済ませてしまった
→ 書面での放棄がなければ、他の相続人が困る/登記できないなどの問題が発生
トラブル③:遺贈の撤回内容が不明確で、複数の遺言書が存在
→ 最新の遺言書の日付を明記し、「過去の遺言はすべて撤回する」旨を明記することでトラブル防止
7. まとめ 遺贈は「意思」だけでなく「手続き」も大切
遺贈は、被相続人の想いを具体的に形にする制度です。しかし、その効力が発生するのは「死後」であり、その内容を後から確認・訂正することはできません。
また、受遺者側でも「放棄」という選択肢がある一方で、それに伴う法的・税務的な影響は小さくありません。撤回についても、「遺言は自由に変更できる」とはいえ、その方法を誤れば、相続トラブルの火種となってしまう可能性があります。
遺贈を検討されている方、または受遺者としての立場にある方は、相続に詳しい行政書士等の専門家と連携し、正確かつスムーズな手続きを行いましょう。