
建設業許可の取得・維持において非常に重要な要素のひとつが、「専任技術者」の存在です。専任技術者は、単なる名義上の人物ではなく、法的に定められた明確な要件を満たした技術的責任者であり、事業所ごとに常勤で配置することが求められます。
本記事では、専任技術者の選任基準・資格要件・実務経験の具体例・配置にあたっての注意点などを、東京都江東区および沖縄県那覇市の建設業者の皆様向けに分かりやすく解説します。
1. 専任技術者とは何か?
「専任技術者」とは、建設業者が建設業許可を取得する際に、各営業所ごとに専属で配置しなければならない技術者のことです。この人物が建設工事に関する技術的責任を担い、営業所に常勤して工事の見積り・施工体制の整備・技術的指導などを行います。
配置義務のある場面
- 許可取得時(業種ごとに1名以上)
- 許可を維持している期間中
- 複数営業所を有する場合は、それぞれの営業所に1名ずつ
2. 専任技術者の選任基準|3つの主要パターン
専任技術者として認められるためには、以下のいずれかの基準を満たしている必要があります。
(1)国家資格を保有している者
一定の国家資格を有していれば、専任技術者として即時に認められます。以下は代表的な資格です。
- 1級・2級建築施工管理技士
- 1級・2級土木施工管理技士
- 建築士(1級・2級)
- 電気工事施工管理技士
- 管工事施工管理技士
- 電気主任技術者
- 技術士(建設部門・上下水道部門など)
※許可を取得しようとする建設業の種類に合った資格であることが必要です。
(2)大学や専門学校で指定学科を卒業し、一定年数の実務経験がある者
学歴に応じて、必要な実務経験年数が決まっています。
最終学歴 | 必要な実務経験年数 |
大学(指定学科)卒業 | 3年以上 |
短大・高専(指定学科)卒業 | 5年以上 |
高校(指定学科)卒業 | 5年以上 |
指定学科とは、土木工学、建築学、機械工学、電気工学など、建設業に関連する工学系の学科を指します。
(3)実務経験のみで基準を満たす者
資格や学歴がない場合でも、10年以上の実務経験があれば専任技術者として認められます。
ただし、ここで言う「実務経験」は、単なる現場作業ではなく、建設工事の施工管理、設計、積算、工程管理など技術的業務を指します。工事内容・役割を具体的に証明する必要があります。
3. 実務経験の証明方法
資格を持たず、実務経験によって専任技術者を申請する場合、経験の証明が最大のポイントとなります。
主な証明書類
- 工事経歴書
- 請負契約書または注文書・請書
- 工事完了届・検査済証
- 実務経験証明書(所定様式)
- 勤務先企業の在籍証明書
- 工事写真やパンフレットなど
これらの書類により、「いつ」「どこで」「どのような工事に」「どんな役割で」携わったのかを明らかにする必要があります。証明できない期間があると、その部分は実務年数にカウントされません。
4. 専任技術者と「専任性」の要件
「専任技術者」は、文字通り常勤でその営業所に専任している必要があります。つまり、次のような働き方は認められません。
- 他の営業所と兼務
- 他社との掛け持ち勤務
- 外部委託(業務委託契約など)
- 自宅勤務(在宅)など、常勤性が不明な形態
加えて、次のような点にも注意が必要です。
- 雇用契約が必要(取締役の場合は、常勤の登記+給与支給の実態が必要)
- 社会保険や雇用保険への加入状況が確認されることもある
要するに、「実態として勤務している」ことを、第三者が見ても分かる形で示す必要があります。
5. 専任技術者と建設業許可業種の関係
建設業許可には29種類の業種がありますが、それぞれの業種ごとに専任技術者の配置が必要です。
たとえば、「建築工事業」と「電気工事業」の2業種の許可を取得する場合、両方に対応できる専任技術者が1人いれば足ります。しかし、片方にしか対応できない場合は、もう1名必要になります。
複数業種に対応できる専任技術者とは?
- 1級施工管理技士の一部(建築・土木など)は複数業種に対応可能
- 実務経験でも複数業種にわたる経験があることを証明できればOK
6. 配置変更時の注意点
専任技術者が退職・異動・長期休業する場合は、速やかに変更届を提出しなければなりません。さらに、代替の専任技術者が確保できないと、許可の要件を満たさない状態となり、最悪の場合、許可の取消や業務停止の処分につながることもあります。
配置変更時のポイント
- 変更から2週間以内に届出が必要
- 後任者の要件確認と証明資料の準備を早めに
- 空白期間をできる限り設けないことが理想
7. 東京都江東区・沖縄県那覇市での傾向と相談事例
東京都江東区のケース
江東区は多業種の中小建設業者が多く、都市型工事や民間工事を手がける会社が主です。実務経験による専任技術者の申請が比較的多く、事務手続きの精度が求められます。また、業種追加を希望する会社も多く、複数業種に対応可能な技術者の確保がカギになります。
沖縄県那覇市のケース
那覇市では、家族経営の建設業者が多く、専任技術者が経営者本人というケースが目立ちます。資格取得が難しいため、実務経験での申請が主流となりますが、証明資料の整備に苦労されることも。行政庁によっては、証拠書類の精度に厳しい目を向ける傾向があるため、慎重な準備が必要です。
8. よくある誤解とリスク
「名義貸し」での選任
他社の技術者や外部の協力業者などを名義だけ借りて専任技術者とする行為は、違法です。
違反が発覚すると、次のような処分を受ける可能性があります。
- 許可の取消
- 2年間の再申請制限
- 公共工事の指名停止
信頼回復には長い時間とコストがかかるため、最初から正しい形で配置しましょう。
まとめ
専任技術者は、建設業許可における根幹ともいえる存在です。人材の選定を誤ったり、配置要件を満たさないまま事業を続けたりすると、許可取消という深刻な事態につながりかねません。
以下のポイントを押さえておきましょう。
- 専任技術者には明確な資格または実務経験が必要
- 配置場所ごとに常勤・専任が原則
- 証明資料の整備が非常に重要
- 退職・異動時は迅速な届出と後任者の確保が必要
- 名義貸しや兼務は厳禁
専任技術者の配置は、単なる形式的な要件ではなく、現場の品質や安全管理、顧客からの信頼を守るための要となる制度です。人材育成と適正な体制整備に、ぜひ力を入れていただければと思います。