
建設業を営むうえで避けて通れない「建設業許可」。この許可制度には、「営業所の数と所在地」に応じて「知事許可」と「大臣許可」の二種類があることは、すでに多くの事業者の方がご存じかと思います。
本記事では、営業所を新たに設置したときに、建設業許可はどうなるのか、知事許可から大臣許可へ切り替える必要があるのか、そしてその手続きの具体的な流れについて、東京都江東区および沖縄県那覇市で建設業を営む事業者の方々向けに分かりやすく解説します。
1. 「営業所を増やす」と許可はどう変わる?
まず大前提として、建設業許可の「知事許可」と「大臣許可」は、営業所の設置状況によって次のように分かれます。
- 知事許可:1つの都道府県内にのみ営業所を有する場合
- 大臣許可:2つ以上の都道府県に営業所を有する場合
つまり、新たに他県に営業所を設置した場合には、「大臣許可」が必要になります。
例1:東京都江東区に本社があり、埼玉県川口市に支店を設置した場合
→ 知事許可から大臣許可への切り替えが必要です。
例2:那覇市に本社があり、沖縄県内(浦添市など)に支店を新設した場合
→ 同一都道府県内なので、知事許可のままで問題ありません。
ここで重要になるのは「営業所」と見なされる拠点かどうかという点です。次の章で詳しく確認しましょう。
2. 「営業所」とは何を指すのか?
建設業許可における「営業所」とは、単なる連絡拠点や倉庫とは異なり、以下のような機能を有する事務所を意味します。
営業所と認められるための主な条件
- 建設工事に関する見積り、請負契約、入札などを常時行っている
- 専任技術者を配置している
- 常勤の職員がいる
- 継続的に事業活動が行われている
営業所と認められないケース
- 単なる資材置き場や倉庫
- 現場ごとの一時的な仮設事務所
- 本社との連絡だけを行う連絡所
- 登記上の所在地だが建設工事の業務を実施していない店舗など
この「営業所」要件を満たしているかどうかは、実態をもとに判断されます。看板を掲げただけでは営業所とは認められません。
3. 営業所新設にともなう許可切り替えの流れ
他県に新たに営業所を設けると、それだけで知事許可では適法に営業を続けることができなくなります。この場合は、「新規で大臣許可を取得」する必要があります。切り替えという言い方をしますが、実際には「大臣許可を新たに取得」し、「知事許可を廃止」する、という手続きになります。
手続きの主な流れ
- 新設営業所の準備
- 物理的な設置
- 専任技術者の配置
- 業務体制の整備
- 大臣許可の新規申請
- 申請書一式の作成
- 必要書類の収集(会社関係書類・財務資料・技術者証明など)
- 国土交通大臣宛に申請(受付は都道府県経由)
- 知事許可の廃止届出(大臣許可取得後)
- 知事許可の効力を終了させるための届出を提出
- 営業開始
- 大臣許可証の交付後、複数都道府県での営業が正式に可能となる
このように、単なる「変更届」ではなく、「新規申請+旧許可の廃止」という扱いになる点に注意が必要です。
4. 申請に必要な主な書類
大臣許可の取得には、以下のような書類が求められます。
- 建設業許可申請書(様式第一号)
- 会社登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
- 定款の写し(法人の場合)
- 財務諸表(直前3期分)
- 専任技術者の資格証・実務経験証明書
- 営業所ごとの使用権限証明書(賃貸契約書等)
- 営業所地図および写真
- 役員の略歴書、誓約書、住民票 など
※ 上記は一部抜粋です。会社の状況により必要書類は増減します。
5. 審査期間とスケジュール感
大臣許可の申請から許可が下りるまでの目安は、おおよそ1.5か月から3か月程度です(地域によって異なります)。東京都や沖縄県経由で提出された書類は、国土交通省によって審査されます。
その間、元の知事許可は有効ですが、大臣許可が下りるまでは新しい営業所での業務は正式には行えません。事業計画上、早めの準備と申請が求められます。
6. 専任技術者の配置に注意
大臣許可では、各営業所に1名以上の「専任技術者」を配置することが求められます。
つまり、営業所を2つ設置して大臣許可を取得する場合、それぞれの拠点に常勤の技術者を1名ずつ置く必要があります。
専任技術者の要件は、以下のいずれかを満たすことが必要です。
- 国家資格(例:1級・2級建築施工管理技士など)
- 実務経験(一定年数以上)
- 学歴+実務経験の組み合わせ
営業所を増やす前に、この専任技術者の人員確保ができているか確認することが重要です。
7. よくある間違いと注意点
「とりあえず支店を出してから考える」は危険
新しい拠点を設けて営業を開始してから申請を検討するケースがありますが、これは法令違反となる可能性があります。営業開始前に許可の切り替えを完了しておくことが原則です。
営業所の判断基準を軽く見てしまう
単なる支店や事務所であっても、一定の業務を行っていると営業所と見なされることがあります。国土交通省や都道府県の判断基準に照らして判断する必要があります。
知事許可の「更新」と勘違いする
許可の有効期間は5年ですが、大臣許可への切り替えは単なる「更新」ではなく、新規申請+旧許可の廃止です。申請の準備にかかる時間や手数料も異なります。
8. 江東区・那覇市の事業者にとっての実務的なポイント
東京都江東区では、周辺の千葉県や神奈川県にも進出する建設業者が多く見られます。たとえば、江東区に本社があり、千葉市や船橋市に新たな営業拠点を設ける場合、大臣許可への切り替えが求められます。
また、沖縄県那覇市でも、沖縄本島以外の地域や九州方面へ業務展開を計画する事業者が増加しています。この場合も、大臣許可の取得は避けて通れないステップとなります。
将来的なエリア拡大を見据えて、早めに営業所の要件や許可切り替えの可能性を把握しておくことが、スムーズな経営のポイントになります。
まとめ
営業所の新設により、建設業許可の種類を変更しなければならないケースは少なくありません。特に他県への拠点展開を検討している企業にとっては、知事許可から大臣許可への「切り替え」のタイミングと準備が重要です。
以下の点を押さえておきましょう。
- 他県に営業所を新設する場合は「大臣許可」が必要
- 新規申請で取得し、旧許可は廃止する流れ
- 各営業所に専任技術者の配置が必須
- 許可が下りるまでには1.5〜3か月の期間が必要
- 営業開始前に手続きを済ませるのが原則
事業拡大にともなう許可の見直しは、法令上の義務であると同時に、企業の信用力・信頼性にも直結する大切な手続きです。必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら、確実に進めていきましょう。