
近年、沖縄県に実家や収益物件を持ちながら、東京都や首都圏で生活している方が増えています。あるいは、逆に東京で築いた財産とともに、沖縄にUターン後の住まいを持つという方も珍しくありません。
このように、地方と首都圏の双方に不動産を持つケースでは、相続時に「二地域にまたがる相続(以下、二地域相続)」が発生します。
この二地域相続、実は相続手続きの煩雑さや、相続人間の争いにつながりやすいという落とし穴があります。この記事では、二地域相続に潜むリスクと、その対策について詳しく解説します。
■ 二地域相続とは?
二地域相続とは、亡くなった方の財産において、不動産が複数の地域(例:沖縄県と東京都など)に分散して存在しているケースを指します。
例えば、
- 沖縄県那覇市に実家がある
- 東京都江東区に自宅や賃貸マンションがある
このようなケースでは、それぞれの不動産に対して相続登記の手続きが必要であり、管轄する法務局も異なるため、通常よりも手間や書類が増える傾向にあります。
■ 二地域相続で発生しやすいトラブル
1. 相続登記が煩雑になる
不動産の相続登記は、各不動産の所在地を管轄する法務局に対して個別に申請する必要があります。つまり、東京と沖縄の両方に不動産がある場合、それぞれ別の法務局に対して手続きを行わなければならないのです。
提出書類の準備も、登記簿謄本や固定資産評価証明書、遺産分割協議書など、地域ごとに取得が必要なものがあります。
2. 不動産の評価と分割方法で揉める
東京の不動産は価格が高く、沖縄の不動産は相対的に低めという場合、不動産を相続する相続人同士で「公平性」が争点になることがあります。
例:
- 長男が東京のマンションを相続
- 次男が沖縄の実家を相続
評価額に大きな差があると、次男から「不公平だ」と不満が出る可能性も。
3. 管理・売却が難航する
不動産が遠方にあると、相続後の維持管理や売却、賃貸運用が難しいという問題があります。
「親の家が沖縄にあるが、自分は東京に住んでいる」 「空き家になったが、飛行機に乗らないと現地に行けない」
こうした状況が、空き家問題の発生原因にもつながります。
■ 二地域相続の対策ポイント
1. 遺言書の作成
最も効果的なのが、公正証書遺言の作成です。遺言書で「どの財産を誰に相続させるか」を明確にしておけば、相続人同士でのトラブルを回避できます。
特に二地域にまたがる不動産がある場合、
- 地域ごとの不動産の評価額
- 相続人の居住地や意向
- 売却・管理の見込み
などを考慮したうえで、バランスの取れた分け方を事前に定めておくことが重要です。
2. 生前贈与・共有化の見直し
「今のうちに名義を変えておきたい」と考える方もいますが、生前贈与は税負担や不公平感を生むリスクもあります。また、複数人で不動産を共有してしまうと、将来の売却や管理に合意が必要になり、かえって面倒な状況になることも。
共有ではなく、単独相続や売却して現金化する方法も検討しましょう。
3. 財産目録の作成と整理
生前のうちに、不動産や預貯金、有価証券などを一覧化した「財産目録」を作っておくと、相続人の負担が大きく減ります。
特に二地域にまたがる場合、
- それぞれの地域の不動産の所在地、種類、登記内容
- 固定資産税の納付先
- 不動産の管理状況(貸しているか、空き家か)
などをまとめておくことが肝心です。
■ 実際にあった事例紹介
事例1:東京のマンションと沖縄の実家を兄弟で相続
東京で働く長男と、沖縄に住む次男がいました。父親が亡くなり、東京の区分マンション(評価額5,000万円)と、沖縄の実家(評価額1,500万円)を兄弟で分けることに。
結果:
- 長男が東京のマンションを相続
- 次男が沖縄の実家+預貯金2,000万円を相続
評価額で差が出ないように調整され、スムーズに遺産分割協議が完了しました。事前に公正証書遺言が作成されていたことが、円満相続の決め手に。
■ 地元と都市の距離を超えて“つなぐ”準備を
二地域相続は、手続きの面でも感情の面でも、ややこしさがつきものです。しかし、きちんと準備をしておけば、親族間のトラブルや手続きの煩雑さは大幅に減らせます。
- 二地域にまたがる不動産の評価と活用方法を早めに考える
- 遺言書で分割方針を明確にする
- 管理や売却について、相続人と事前に話し合う
「相続は、亡くなった人の問題」ではなく、「残された家族のこれからの暮らし」に直結するテーマです。今できる準備を一つずつ、確実に進めていきましょう。