
近年、国際分散投資や海外勤務を背景に、日本に居住する方でも海外に資産を保有するケースが増えています。相続が発生した際、これら「外国資産」も相続財産として正しく評価・申告する必要がありますが、その評価には特有の注意点や落とし穴が存在します。
今回は、外国資産の種類ごとの評価方法と、相続手続や相続税申告において気をつけるべきポイントについて、実務的な視点から解説します。
1.外国資産とは?評価対象となる財産の例
まず、相続財産に含まれる「外国資産」とは、物理的に国外に存在する資産や、外国法に基づいて管理される資産を指します。以下のようなものが該当します。
- 外国株式・ETF・外国籍ファンド
- 外貨建て債券(ユーロ債、米ドル建て債など)
- 海外不動産
- 外国銀行の預金口座
- 外国の年金・信託財産
- 海外に設立された法人の持分や株式
- 海外の保険契約
これらは被相続人が日本に居住していた場合、相続税の対象財産として課税対象になります。
2.外国資産の評価方法(資産の種類別)
(1)外国株式・ファンド
外国株式やETFは、被相続人の死亡日における最終取引価格(終値)を基準に評価します。以下のような手順で進めるのが一般的です。
- 死亡日を基準日とする
- 現地証券取引所の終値(USD、EURなどの現地通貨)で評価
- その日のTTS(電信売相場)などで円換算
例:Apple株式を100株保有していた場合
死亡日の終値が180.00ドルで、TTSが1ドル=145円なら、
180ドル × 100株 × 145円 = 2,610,000円(評価額)
注意点
- 日本国内証券会社を経由していても、外国籍ファンドの場合は同様の計算が必要
- 現地で市場価格がついていない場合は、証券会社の発行する取引報告書を基に評価
(2)外貨建て預金
外貨建て預金は、以下のように評価します。
- 死亡日時点の外貨残高を確認
- 同日のTTSレートで円換算
- 外貨の種類(米ドル、ユーロ、豪ドルなど)を明確に記載
落とし穴
- レートの違い(TTS、TTM、TTB)に注意
- 金融機関によって適用レートの基準が異なるため、資料添付が重要
(3)海外不動産
不動産は評価が非常に難しく、以下の方法が用いられます。
- 現地の公的評価額(公課証明書に相当する資料)
- 不動産鑑定士による評価
- 実勢価格(売買事例等)による時価評価
注意点
- 日本の固定資産評価方式は海外では通用しない
- 各国の評価制度(課税対象評価額、登記評価額など)を踏まえる必要あり
- 評価額の過少申告は重加算税の対象になる可能性
3.評価時点の為替レートに要注意
外国資産を評価するうえで極めて重要なのが、「為替レートの選択」です。日本の相続税評価では、死亡日を基準日とし、財産評価基本通達によって「TTS(電信売相場)」を用いるのが一般的です。
しかし、以下のような誤解やミスが起こりやすいため注意が必要です。
よくある間違い
- TTM(仲値)で換算してしまう
- 月末のレートを使用してしまう
- 銀行サイトの参考レートをそのまま使用する
- 複数日の平均値で評価してしまう
対応策
- 日本銀行や主要都市銀行の発表するTTSを死亡日で確認。
- 為替レートの証明資料を印刷またはPDF保存して申告書に添付する。
4.評価方法の選択による課税額の差
外国資産の評価額は、相続税の課税対象額に直結します。例えば、同じ100,000ドルでも、為替レートによって評価額に数十万円の差が出ることもあり、税額にも影響します。
また、不動産評価では、「鑑定評価」と「実勢売買価格」に差がある場合、どちらを基準にするかでも課税リスクが変動します。評価方法を誤ると、税務署からの指摘や追徴課税につながるリスクがあるため、慎重な判断が求められます。
5.外国税との関係と二重課税の回避
外国資産にかかる税金は日本だけではありません。たとえば、米国では一定額以上の米国資産に対し、相続税(Estate Tax)が課税されます。こうした二重課税を防ぐには、次の制度の活用が有効です。
外国税額控除制度
外国で支払った相続税や類似税がある場合、日本での相続税から一定額を控除することができます。ただし、控除の上限や対象税目などがあるため、専門的な確認が必要です。
租税条約の活用
日本はアメリカ・フランス・スイスなどと租税条約を結んでおり、これにより課税調整が図られます。具体的な手続きについては税理士等のサポートが必要になります。
6.実務で注意すべき落とし穴
落とし穴1:証券会社が提出する残高証明書の評価時点の違い
証券会社が発行する残高証明書は、死亡日より前後する日付で作成されることがあります。そのまま使うと評価時点がズレて誤評価となる恐れがあるため、必ず「死亡日」を基準とした評価を別途計算し直す必要があります。
落とし穴2:日本の制度との整合性が取れないケース
外国資産の中には、そもそも「財産」とみなされるかどうかがあいまいなもの(例:海外信託、タックスヘイブンにあるペーパーカンパニーの持分など)もあります。これらについては、国内の専門家と現地専門家の連携が不可欠です。
7.まとめ 正確な評価と専門家の関与がトラブル回避のカギ
相続財産に外国資産が含まれていた場合、その評価は一筋縄ではいきません。為替、評価基準日、国ごとの制度の違い、税務調整といった多くの要素が絡み合います。
江東区や那覇市で相続手続を行う皆さまも、海外資産に関する相続が発生した際には、必ず税理士や行政書士、弁護士などの専門家にご相談ください。特に、海外の証券や不動産など評価に専門性が必要な資産については、早めの対応が円滑な相続と相続税申告を実現します。