
目次
1.信託と後見を組み合わせる必要性
家族信託と後見制度は、いずれも財産管理や本人の生活を支えるための仕組みですが、その役割や得意分野は異なります。
- 家族信託は、財産の承継や運用に柔軟性を持たせることができる。
- 後見制度は、本人の生活・療養看護、日常の法律行為に関わる部分を網羅的にカバーできる。
そのため、例えば「不動産や預金を子に承継させたいので信託を使うが、本人の日常生活や医療契約に関わる部分は後見人に任せる」といった複合利用が実務上多く見られます。
2.複合コストのシミュレーション
実際に組み合わせて利用する場合の費用イメージを試算してみましょう。ここでは、那覇市や江東区の実務感覚を踏まえて、概算値を提示します。
1. 家族信託の設定費用
- 信託契約書作成:30~60万円(専門家報酬)
- 公証人手数料:3~10万円程度(契約書の公正証書化をする場合)
- 登記費用(不動産を信託財産にする場合):登録免許税 不動産評価額の0.3%
例:自宅(土地建物評価額3,000万円)を信託に入れる場合
- 登録免許税:9万円
- 合計:40~80万円程度
2. 任意後見契約の費用
- 契約書作成支援(専門家報酬):10~20万円
- 公証人手数料:約3~5万円
- 登録免許税(任意後見登記):1通につき2,600円
合計:約15~25万円
3. 成年後見開始後のランニング費用
- 家庭裁判所への報酬付与審判に基づく後見人報酬:月2~6万円程度
(那覇市では平均月2.5万円前後、江東区では財産規模により月4~5万円になることも)
複合利用の総額試算(例)
70代男性、那覇市在住。自宅不動産(評価額3,000万円)と預貯金2,000万円を有する。
- 家族信託を設定し、長男を受託者に。信託財産は自宅不動産。
- 任意後見契約を結び、判断能力低下後に長女を後見人に予定。
【初期費用】
- 信託設定:60万円
- 登記費用:9万円
- 任意後見契約:20万円
合計:約90万円
【ランニング費用】
- 後見人報酬:月3万円 × 10年=360万円
- 信託管理の費用:受託者が家族の場合、通常は無償だが、実務では「受託者報酬あり」とする場合もあり、年5~10万円程度
→ 10年間の総費用試算:約450万円前後
3.実際の契約文例(要点)
以下は、家族信託と任意後見を併用する場合の条項例です。あくまで一例であり、実務では事案ごとに調整が必要です。
家族信託契約書(抜粋)
第1条(信託の目的)
委託者甲は、自らの居住用不動産を、受託者乙に信託し、甲の生活・療養看護に必要な資金を捻出することを目的とする。
第5条(受益権の帰属)
甲の死亡後、受益権は長男丙に帰属させる。
第10条(受託者の権限)
乙は、不動産の賃貸、管理、処分を行い、その収益をもって甲の生活費、医療費に充当することができる。
任意後見契約書(抜粋)
第1条(任意後見人の指定)
本人甲は、長女丁を任意後見人と指定する。
第2条(任意後見人の権限)
丁は、甲の日常生活に関する契約、医療契約、介護契約等を代理する権限を有する。
ただし、信託財産に関する管理・処分権限は有しない。
4.実務上の注意点
- 信託と後見の「権限の重複」を避ける
信託財産については受託者が管理するため、後見人の権限に含めないよう契約で明確に分けることが重要です。 - ランニングコストを考慮する
特に東京では後見人報酬が高額になりやすいため、将来の生活資金を圧迫しないか事前に試算が必要です。 - 家族間の役割分担
長男を受託者、長女を後見人にするなど、役割を分けることで相互監視の効果が期待できます。
以上のように、信託と後見を組み合わせることで「財産承継の柔軟性」と「生活支援の網羅性」を両立できますが、その分コストや契約の複雑性が増すため、事前の設計が極めて重要です。