相続手続・遺言で家族信託を活用する方法、判断能力のない相続人がいる場合のリスク回避策

目次

1 相続と「判断能力の欠如」という問題

相続は、被相続人が亡くなったときに必ず発生する法律上の手続です。
一般的には、遺産分割協議を行い、相続人全員で遺産の分け方を合意しなければなりません。

しかし、相続人の中に認知症や知的障がいなどで判断能力がない方が含まれる場合、協議は一切進めることができなくなります。なぜなら、民法上、法律行為には意思能力が必要であり、これを欠く人は契約や合意をすることができないからです。

そのような場合には、家庭裁判所を通じて成年後見人を選任する必要が生じます。後見人が選任されるまでに数か月かかることもあり、相続手続が大きく遅延するばかりか、家庭内での対立が表面化することも少なくありません。

沖縄県那覇市や東京都江東区でも、高齢化や単身世帯の増加に伴い、この「判断能力を欠く相続人」がいるケースは増えており、従来の遺言や生前贈与では解決しきれない場面も多く見られるようになっています。

2 従来の対策と限界

従来、この問題を回避するために用いられてきた方法には、以下のようなものがあります。

  1. 遺言書の作成
    被相続人が公正証書遺言を作成しておけば、相続人間の協議を経ずに遺産を分けることができます。
    ただし、遺留分(最低限の取り分)が残るため、判断能力を欠く相続人が遺留分を有している場合、その権利を守るために結局後見人が必要となる可能性があります。
  2. 生前贈与
    生前に財産を子や孫に贈与する方法もあります。
    しかし贈与税の負担や、贈与後に本人が生活費を確保できなくなるリスクがあり、実務上はあまり選ばれにくいのが現状です。

これらの手法には一長一短があり、万能ではありませんでした。そこで近年注目されているのが「家族信託」です。

3 家族信託を利用した解決方法

家族信託とは、自分の財産を信頼できる家族に託し(受託者)、その財産をどのように管理・承継していくかをあらかじめ契約で決めておく仕組みです。

例えば、本人(委託者)が「自分の財産を子に託す」という信託契約を結ぶと、その子は受託者として財産を管理します。この時点で形式上の所有権は受託者に移りますので、本人が亡くなっても「遺産分割協議の対象」から外れることになります。

これにより、判断能力を欠く相続人がいても、相続財産の分割がストップしてしまうというリスクを避けることが可能です。

実例シナリオ

本人が亡くなり、配偶者が認知症で判断能力を欠いているケースを考えましょう。
本人は生前に、子を受託者として財産を信託しておけば、次のような流れになります。

  • 本人が生きている間は、本人自身がその財産からの利益(配当金や家賃収入など)を受け取る(=委託者兼受益者)。
  • 本人の死亡後は、受益者を「認知症の配偶者」と定めておくことにより、配偶者が生活のための収益を確保できる。
  • 配偶者が亡くなった後は、次の受益者として子どもたちに利益を承継させる設計も可能。

このように「一次受益者」「二次受益者」と受益権を順次移転させることができる点が、家族信託の大きな特徴です。

4 那覇市・江東区での実務上のニーズ

沖縄県那覇市では、親世代が高齢化しつつも土地資産を持つ家庭が多く、相続時に判断能力を欠く配偶者や兄弟がいると、土地の分割や売却が進まなくなる事例が増えています。
一方、東京都江東区では高層マンションや収益不動産を所有する方が多く、相続時に後見制度に頼ると、管理・売却に裁判所の許可が必要となり、資産の機動的な活用が難しくなるリスクがあります。

このような地域特性を考えても、家族信託の仕組みを事前に導入しておくことは、相続トラブルの予防策として有効です。

5 信託契約の設計ポイント

家族信託を実際に設計する際には、次の点に注意が必要です。

  • 受託者の選定
    信頼でき、かつ財産管理能力のある人物を選ぶことが不可欠です。子どもが複数いる場合には、公平性を意識することが求められます。
  • 受益者の設定
    委託者自身を一次受益者、その配偶者を二次受益者とする方法が実務上よく用いられます。さらに三次として子どもたちを設定することも可能です。
  • 信託監督人の設置
    受託者による不正やミスを防ぐため、第三者(専門職や親族)を信託監督人として置く方法もあります。
  • 遺留分への配慮
    相続人の権利を不当に侵害しないように、遺留分を考慮した設計が必要です。

6 遺言との組み合わせ

家族信託と遺言は対立するものではなく、むしろ補完的に活用されます。
例えば、家族信託で管理・承継する財産を限定し、それ以外の財産については公正証書遺言で指定するという組み合わせが一般的です。

7 まとめ

相続人の中に判断能力を欠く人がいる場合、そのままでは相続手続が進まなくなり、後見制度に頼らざるを得なくなります。
しかし、家族信託を導入しておけば、遺産分割協議の停滞を防ぎ、本人・配偶者・子どもたちの生活を守る仕組みを設計することが可能です。

那覇市や江東区といった都市部では特に、土地や不動産を巡る相続トラブルが深刻化しやすいため、早めに専門家に相談し、自分の家庭に合った家族信託の設計を検討しておくことが重要です。

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