農地転用と所有権移転の関係、農地法の許可を正しく理解するために

農地を宅地や駐車場、資材置き場などへ転用したいと考えたとき、その農地が「自分の所有か」「他人の所有か」によって、必要となる手続きや申請の流れが大きく異なってきます。特に、他人の農地を使う場合には、売買や贈与などで所有権を移転する必要があり、農地法に基づく厳格な許可が求められます。

今回は、農地転用許可申請の中でも、「所有権の移転を伴う転用」の場合に焦点を当てて、農地法の基本的な考え方と、申請・契約・登記までの流れを詳しく解説します。

目次

1.農地を転用するには「許可」が必要

まず大前提として、農地を農地以外の用途(住宅地や店舗用地、駐車場など)に転用するには、「農地法に基づく許可」または「届出」が必要です。

農地法には、以下のような条文があります。

  • 第4条許可:自分の農地を自己で転用する場合
  • 第5条許可:農地の所有権を移転し、他人が転用する場合

つまり、「自分の農地を転用する」のか「他人の農地を買って転用する」のかによって、適用される条文が異なるのです。

2.売買による所有権移転と農地法の関係

他人の農地を転用する場合、通常は売買契約によって所有権を取得することになります。しかし、農地は通常の不動産と異なり、ただ売買契約を結んだだけでは所有権の移転は認められません。

農地を対象とした売買契約には、農地法第5条の許可が必要です。この許可を得ない限り、たとえ売買契約を交わしても、法務局での所有権移転登記はできませんし、そもそも契約自体が効力を持たないとされます。

民法と農地法の関係

民法第555条では「売買は当事者の合意によって成立する」と定められています。つまり、売主と買主が合意すれば、それだけで契約は成立するという考えです。

しかし農地法はこれを制限します。農地という社会的資源の転用は、国や自治体の厳しい管理下にあるため、売買の合意だけで進めてはならないという趣旨です。したがって、売買と所有権移転は、必ず農地法に基づく許可を経て行う必要があります。

3.農地売買の一般的な流れ

農地の所有権移転と転用を伴う手続きの一般的な流れは、以下のとおりです。

  1. 売買契約の締結(仮契約)
    • この段階では「手付金」の支払いのみ行い、残金の支払いと登記は農地法の許可が下りるまで保留されるケースが一般的です。
    • 契約書には「農地法第5条の許可取得を停止条件とする」などの特約を付けることが推奨されます。
  2. 農地転用許可申請の提出
    • 申請先は、農地の所在地を管轄する都道府県または市町村(沖縄県では各市町村、東京都では23区役所など)です。
    • 申請内容は、誰がどのような目的で農地を使用するかを明記します。
    • この際、申請者は「転用後の使用者」であり、申請時点では所有者でなくても構いません。
  3. 許可の審査と取得
    • 審査には通常1〜2ヶ月程度かかります。
    • 許可が下りた後、許可書が交付されます。
  4. 残代金の支払いと所有権移転登記
    • 許可書の交付後、売買契約の残金を支払います。
    • その後、法務局で所有権移転登記を行い、名義が正式に移ります。

このように、農地法の許可は売買契約と登記の間に挟まる重要な手続きであり、契約成立から完了まで数ヶ月の期間が必要となるのが通常です。

4.市街化区域の場合:許可ではなく「届出」でOK

東京都江東区や沖縄県那覇市のような都市部では、農地が市街化区域内にあることがあります。この場合、農地転用には「許可」ではなく「届出」で足ります。これを5条の届出と呼びます。

届出の場合、必要書類を提出すれば受理され、「受理証明書」が発行されます。その後、以下のような流れとなります。

  • 受理証明書をもって、残代金の支払いと所有権移転登記を行う
  • 転用の実施(建物建築など)へ進む

市街化区域では、行政の都市計画に沿って転用が促されているため、届出制となっており、許可よりも手続きが簡素です。

5.売買以外の所有権移転:贈与や相続も対象

農地の所有権移転は売買だけに限りません。たとえば、次のようなケースでも農地法の許可が必要です。

  • 贈与による移転
  • 交換による移転
  • 会社への現物出資
  • 法人間での譲渡

これらはいずれも「対価の有無」にかかわらず、農地の所有権が移る以上、農地法の手続きが必要です。

特に贈与の場合、「家族間だから簡単にできるだろう」と思われがちですが、法的には売買と同様に厳しい審査が行われます。

6.農地転用と所有権移転が常にセットになるわけではない

よくある誤解として、「農地を転用するには所有権移転が必須だ」と考えている方が多くいらっしゃいます。これは市街化区域での売買が主流であることが、誤解の原因と考えられます。

特に、実務では不動産業者が介在するケースが多く、不動産業者としては「所有権を移転し、すぐ転用できる農地」でなければ取り扱いが難しいため、結果として「農地転用 = 売買」だという誤解が広まりやすくなっているのです。

しかし実際には、次のようなケースも存在します。

  • 自分名義の農地を転用する(4条許可)
  • 親族の農地を借りて転用する(5条許可だが所有権移転なし)
  • 法人名義の農地を会社自らが転用する(4条許可)

所有権移転の有無にかかわらず、「農地を誰が使うか」「どのように使うか」によって、申請の形や要件が変わることを理解しておくことが大切です。

まとめ

農地を転用する際には、「その土地が誰のものであるか」とともに、「転用のために所有権の移転が伴うかどうか」を確認することが第一歩です。

特に、所有権の移転を伴う場合には、農地法第5条に基づく許可が必要となり、売買契約、許可申請、残金清算、所有権登記という一連の流れを慎重に進める必要があります。

また、市街化区域内であれば届出で済む場合もあり、地域や土地の分類によって必要な手続きが変わります。東京都江東区や沖縄県那覇市のような地域では、都市化が進んでいるため市街化区域に該当する農地も多く、許可か届出かを早めに確認することが大切です。

誤解のないよう、法的な枠組みと地域の実情を踏まえた正確な手続きを心がけましょう。

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