
遺言書を作成する目的のひとつに「相続人間のトラブルを防ぎたい」という想いがあります。しかし、どれほど慎重に遺言を書いても、それが原因でかえって紛争を招いてしまうケースも存在します。その典型例が、「遺留分を侵害してしまった遺言」です。
今回は、東京都江東区および沖縄県那覇市の皆様に向けて、遺言による円満な相続を実現するために知っておきたい『遺留分対策』について、具体的な方法と実務上の注意点を交えて解説します。
1. 遺留分とは?~相続人に保証された最低限の取り分
まずは「遺留分」の基本的な考え方を確認しましょう。
民法では、被相続人(亡くなった方)が自由に財産の行き先を決められるようにする一方で、相続人に一定の取り分(遺留分)を保障する仕組みも定められています。
遺留分の対象者
遺留分を持つことができる相続人(=遺留分権利者)は、以下のとおりです。
- 配偶者
- 子(または代襲相続人)
- 父母などの直系尊属(子がいない場合のみ)
※兄弟姉妹には遺留分が認められていません。
遺留分の割合(民法1042条)
- 直系尊属のみが相続人:法定相続分の1/3
- その他の場合:法定相続分の1/2
たとえば、配偶者と子1人が相続人である場合、子に対する遺留分は法定相続分(1/2)のさらに1/2、つまり全体の1/4ということになります。
2. 遺留分侵害が起きるとどうなるか?
たとえば、ある遺言で「すべての財産を内縁の妻に遺贈する」とした場合、子や配偶者などの法定相続人が遺留分を侵害されてしまうことがあります。
その結果、「遺留分侵害額請求」が行われると、財産をもらった人は一部の財産を金銭で返還しなければならなくなることがあります。これによって当初の遺言の意図が実現できなくなってしまうこともあります。
3. 遺言を活かし、かつ遺留分トラブルを防ぐための「対策」
それでは、遺言を作成する際に遺留分侵害によるトラブルを防ぐための具体的な対策について、主な方法を6つご紹介します。
方法1:遺留分を侵害しない内容の遺言にする
もっとも確実なのは、遺留分を侵害しない範囲内で財産の配分を決めることです。
遺留分を正しく計算したうえで、法定相続人それぞれに遺留分を下回らないように財産を割り振れば、侵害額請求が起きる可能性は基本的にありません。
ただし、財産の評価(特に不動産や株式などの流動性が低い資産)には注意が必要です。誤って時価よりも大幅に低く見積もってしまうと、実際には侵害していたということも起こりえます。
方法2:遺留分の「放棄」をしてもらう(生前の家庭裁判所手続)
生前に家庭裁判所を通じて遺留分を放棄してもらうという方法があります。
これは、被相続人が生きている間に相続人から「遺留分を主張しません」という意思を表明してもらう制度で、家庭裁判所の許可が必要です(民法1049条)。
遺留分放棄の許可を得るには、以下の条件を満たす必要があります。
- 被相続人と遺留分権利者双方の合意
- 相続人にとって不利益でないこと(見返りの提供などがある)
注意点としては、遺留分の放棄は非常に限定的で慎重な運用がされているということ。単に「もめたくないから」では認められない可能性もあるため、申立書作成の際には専門家への相談が不可欠です。
方法3:遺留分の請求が来ることを前提に「金銭を確保」しておく
どうしても遺留分を侵害する遺言内容にしたい場合は、遺留分侵害額請求が来た際に、金銭で解決できるよう準備しておくという考え方もあります。
たとえば、
- 預金を確保しておく
- 死亡保険金で受遺者に金銭を渡す仕組みを作る
- 相続財産の中に流動性の高い財産を含めておく
などが考えられます。
特に不動産しか遺産がないケースでは、遺留分請求によって売却を迫られたり、相続人間で換価分割の話がこじれることもあるため、換金性の高い資産の準備が重要です。
方法4:持戻し免除の意思表示をしておく
生前に相続人へ財産を贈与する際、**「この贈与は持戻しの対象としない」**という意思表示をしておけば、その分が遺留分算定の基礎に含まれなくなります(民法903条3項)。
これにより、後日「不公平だ」として生前贈与が問題になることを回避できる場合があります。
ただし、書面による明示が推奨されており、贈与契約書に明記しておくことが望ましいです。
方法5:相続人以外への遺贈を抑える
配偶者や子がいるのに、遺言によってすべての財産を第三者(内縁の配偶者や特定の法人など)に遺贈すると、ほぼ確実に遺留分侵害額請求の対象になります。
そのため、相続人以外への遺贈は慎重に計画する必要があり、少なくとも遺留分を確保した上で配分するなど、配慮のある設計が重要です。
方法6:遺言書に「遺留分に配慮した理由」を明記しておく
どうしても相続人のうち一部の人への相続分を少なくしたい場合などは、その理由や経緯を遺言書に記載しておくと、紛争を未然に防ぎやすくなります。
たとえば、
- 「長男はこれまで十分な援助をしてきたため、次男に重点的に相続させる」
- 「配偶者の今後の生活保障を優先するために、配偶者に重点的に遺贈する」
など、配慮のある文言は相続人に対する説明となり、感情的な対立を抑える効果が期待できます。
4. まとめ 遺留分対策は専門家と一緒に練るのが安心
遺言書をせっかく作成しても、遺留分を侵害していたことが原因で紛争に発展するのでは本末転倒です。被相続人の意思を最大限尊重しつつ、法的なリスクを抑えるためにも、「遺留分」という制度への理解と具体的な対策が不可欠です。
特に以下のような方は、遺留分対策を十分に検討することをおすすめします。
- 子どもが複数いて、誰かに重点的に相続させたい方
- 相続人以外(内縁関係者、友人、法人等)に財産を渡したい方
- 生前に一部の子や相続人に財産を贈与している方
東京都江東区や沖縄県那覇市で相続・遺言を検討されている方は、ぜひ経験豊富な行政書士や司法書士、弁護士などに相談し、適切な遺留分対策を講じましょう。