
土地を所有する方にとって、「自分の土地だから自由に使える」と思ってしまうのは、ごく自然な感覚かもしれません。特に、宅地や雑種地などであれば、用途の変更に対する法的制限はさほど厳しくありません。しかし、農地だけは例外です。
農地は、食料の安定供給と農業の持続的発展のために、法律で厳格に管理されている「特別な土地」です。そのため、たとえ自分の所有地であっても、農地を農地以外の用途に使う場合には、農地法に基づく「転用許可」または「転用届出」が必要です。これを怠ると、重大な法令違反に該当します。
今回は、東京都や沖縄県においても少なくない「自覚のない無断転用」について、実例を交えながら、どこに注意すべきか、どのように対応すべきかをわかりやすく解説します。
1.農地の転用には必ず「許可」や「届出」が必要
農地の転用とは、農地を宅地、駐車場、資材置場など、農業以外の用途に使用することを指します。これには、以下のような場合が該当します:
- 農地を整地して駐車場にした
- 畑の一部を資材置場として使っている
- ビニールハウスを撤去して空き地にした後、建物を建てた
このような用途変更はすべて「転用」に当たり、農地法第4条(自分で使う場合)または第5条(他人に売ったり貸したりして使わせる場合)の許可を受けなければなりません。
また、市街化区域内の農地については、許可ではなく「届出」になることもありますが、それでも事前手続きが必須である点に変わりはありません。
2.無断転用の自覚がないまま違法状態に
無断転用が厄介なのは、多くの場合、悪意がないことです。典型的なケースを紹介しましょう。
実家の農地を相続したが、自分は都市部に住んでいて使い道がない。ある日、親戚から「その土地を駐車場として借りたい」という申し出があり、特に疑問も持たずに了承した。
このような状況は珍しくありません。しかし、たとえ金銭のやりとりがなくても、農地を駐車場として使用させている時点で「転用」に該当し、農地法の許可を得ていなければ違法です。
本人に悪気がなかったとしても、「知らなかった」「相談する暇がなかった」では済まされないのが農地法です。
3.農地法違反に対する厳しい罰則
農地法第64条では、無断転用や虚偽の申請に対して以下のような罰則が規定されています。
「3年以下の懲役、または300万円以下の罰金」
これは個人に対するものですが、法人が違反した場合には、法人に対しても300万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、違法状態が発覚した場合、是正命令や原状回復命令が出されることもあります。放置していると行政指導が入り、余計な手間やコストがかかるばかりか、信頼の低下にもつながります。
4.無断転用に気づいたら、どうすればよいか
もし、過去に農地を無断で転用してしまっていたことに気づいた場合、次の二つの対応方法があります:
(1)原状回復
農地に戻す、つまり舗装を剥がし、土を入れて耕作可能な状態に復旧する方法です。ただし、現実には「戻す」と言っても難易度が高いケースもあります。
- 建物が建っている
- 駐車場舗装が長期間に渡って使用されている
- 土壌が固まっており農地として再利用できない
このような状況での原状回復は困難を伴います。
(2)事後的に許可を取る
原状復旧が現実的でない場合には、現在の使用状況を前提に、農地法上の「転用許可」を後から取得する方法です。これは「事後的許可」と呼ばれるものですが、必ず許可されるわけではありません。
- 他法令(都市計画法、建築基準法など)との整合性
- 周辺環境への影響
- 既存の違反状態の是正可能性
などが審査の対象になります。
5.最初の相談が肝心です
原状回復にしても、事後的な許可にしても、最初にやるべきことは「農業委員会などの窓口に相談すること」です。
ご自身で判断せず、行政の担当者に正直に経緯を話すことで、今後の対応がスムーズになります。
- いつからどのように使っているのか
- どのような事情で許可申請をしていなかったのか
- 現在の使用者や構造物の有無
といった情報を整理したうえで、丁寧に相談すれば、行政側も「改善の意思がある」と受け止めて、柔軟に対応してくれることがあります。
6.無断転用を放置すると将来に禍根を残す
無断転用の状態を放置していると、将来的に思わぬ支障が出ることがあります。実際にあった相談事例をご紹介します。
以前、駐車場として親戚に貸していた農地に家を建てたが、いざ子どもがその隣の農地を転用して住宅を建てようとしたところ、「まずは過去の無断転用状態を是正しなければならない」と指摘された。既に家が建っており、人に貸しているため、すぐには取り壊せない。最終的に住宅計画そのものが立ち行かなくなった。
こうした事態は、農地の転用履歴が行政にきちんと記録されており、「いつ誰がどのように使ったか」が後から問題になることを物語っています。
また、相続や売却の際に、無断転用の土地がネックとなり、取引が進まなくなることもあります。いざという時に困らないよう、早めの対応が重要です。
まとめ
農地は「自由に使える土地」ではなく、厳格な法制度の下で管理されている資源です。特に都市部に住む相続人や、不動産取引に慣れていない方にとって、農地法の制約は理解しづらい部分も多いですが、「知らなかった」では済まされないのが実情です。
東京都や沖縄県においても、農地をめぐるトラブルや違法転用の相談は少なくありません。農地を相続したり貸したりする前に、必ず農業委員会や行政書士などの専門家にご相談いただき、正しい手続きを踏むことが、将来の安心につながります。
違法状態を放置せず、早めに「今の状況をどう改善できるか」を考えることが、最善の解決策への第一歩です。