相続における「贈与の持ち戻し」とは?生前贈与が相続に与える影響について

相続手続きを進める中で、「生前に財産をもらっていたから、相続は遠慮します」といった話を耳にすることがあります。また、他の相続人が「〇〇は生前に多額の贈与を受けていたはずだ、不公平だ」と主張する場面も少なくありません。
このようなケースに関わってくるのが、「贈与の持ち戻し」という制度です。

本記事では、東京都江東区および沖縄県那覇市にお住まいの皆様に向けて、相続手続・遺言における「贈与の持ち戻し」制度について、制度の背景や適用される場面、除外されるケースまで、わかりやすく解説いたします。


目次

1. 「贈与の持ち戻し」とは何か?

「贈与の持ち戻し」とは、相続が開始されたときに、被相続人(亡くなった方)が生前に特定の相続人に与えた財産(特別受益)を、相続財産の一部として再計算する仕組みです。

これは、生前に多くの財産を受け取った相続人と、何も受け取っていない相続人との間で不公平が生じないようにするための制度です。

特別受益とは?

民法では、被相続人が生前に特定の相続人へ以下のような財産を与えていた場合、「特別受益」と定義されます。

  • 結婚資金や住宅取得のための援助
  • 開業資金、留学費用など特別な支援
  • 生前の不動産贈与
  • 多額の現金贈与

つまり、被相続人が「特別な利益」を特定の相続人に与えたときに、「特別受益」とみなされるのです。


2. 具体的にどういう影響があるのか?

被相続人の相続財産を分ける際、単純に遺産の現存額で分けるのではなく、特別受益を受けた相続人がいた場合には、その贈与分を「みなし相続財産」として加算し、そこから各相続人の取り分を算出します。

【計算イメージ】

仮に相続財産が2,000万円、生前に長男へ1,000万円の住宅資金援助があったとします。相続人は長男と次男の2人。

  1. 相続財産 2,000万円 + 生前贈与 1,000万円 = みなし相続財産 3,000万円
  2. 法定相続分は1/2ずつ → 各人の相続分は1,500万円
  3. 長男はすでに1,000万円もらっているため、相続財産から受け取れるのは 500万円
  4. 次男は生前贈与がないため、 1,500万円 受け取れる

このように、生前贈与を受けた分が考慮されて、相続時の取り分が調整されるのです。


3. 持ち戻しの対象となるのは誰か?

この「持ち戻し」の対象になるのは、原則として、被相続人の法定相続人のうち、特別受益を受けた者です。例えば、以下のような場合が該当します。

  • 長男にだけ住宅購入費として多額の援助をした
  • 長女の結婚資金として現金を贈与した
  • 長男にだけ自宅を生前贈与した

逆に、法定相続人でない第三者(たとえば孫や友人など)への贈与は持ち戻しの対象とはなりません。


4. 「持ち戻し免除」の特例とは?

民法では一定の場合に限り、持ち戻しをしなくてもよいとされる特例が設けられています。

婚姻期間が20年以上の配偶者への自宅贈与は除外

婚姻期間が20年以上ある夫婦の間で、居住用不動産(またはその取得資金)が贈与または遺贈された場合、その財産については原則として持ち戻しの対象になりません。

これは、長年の夫婦生活を支えた配偶者に対し、手厚く保護する趣旨です。

【適用条件】

  • 被相続人と受贈者が婚姻期間20年以上
  • 贈与の対象が居住用不動産、もしくはその取得資金
  • 贈与や遺贈によって無償で譲渡されたこと
  • 贈与者の意思で持ち戻し免除が明確な場合(贈与契約書等に記載があるとベスト)

この特例が適用されると、他の相続人から「不公平だ」と言われても、贈与を差し引いて計算する必要がなくなります。


5. 持ち戻しに関するトラブルを防ぐには?

「持ち戻し」に関するトラブルは、しばしば相続争いの原因になります。特別受益があるかどうか、金額が適正かどうか、贈与時期や目的が相続財産に影響するか等、判断が分かれることも多くあります。

解決のカギは「生前の準備」と「記録の保存」

相続人間での争いを避けるためには、以下のような対応が有効です。

  • 生前贈与をした際は、贈与契約書を作成しておく
  • 贈与の目的や金額を記録として残しておく
  • 遺言書に、特別受益の有無と内容を明記する
  • 「持ち戻しを免除する」意思がある場合は、遺言や贈与契約に記載しておく

特に、法的に有効な公正証書遺言を作成しておくことで、相続人間の認識の違いを最小限に抑えることができます。


6. 江東区・那覇市での対応について

東京都江東区や沖縄県那覇市といった都市部では、複数の不動産や資産が関係する相続が多く、「住宅資金援助」「自宅の生前贈与」などの事例が複雑に絡むケースも少なくありません。

そのため、地元の不動産価値や生活実態を把握したうえで、的確な贈与の評価と、法的な主張が求められる場合があります。

行政書士や弁護士などの専門家のサポートを受けながら、早めに生前贈与の記録整理や遺言書の作成を行うことをおすすめします。


まとめ

「贈与の持ち戻し」は、相続人の公平を図るための大切な制度ですが、反面、相続人間の感情的な争いの原因にもなりがちです。
特別受益がどのような形で相続に影響するかを正しく理解し、必要な備えをしておくことが、スムーズな相続手続きの第一歩です。

東京都江東区や沖縄県那覇市で相続に不安を感じている方は、地域事情に精通した行政書士や法律専門家に相談しながら、円満な相続を目指しましょう。

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