
借金に関する相続問題の中でも、見落とされがちでトラブルになりやすいのが「保証人が亡くなった場合」の処理です。自分の借金ではなく、他人の債務の保証人になっていた場合でも、その保証債務は原則として相続の対象になります。この記事では、保証人が亡くなったときに発生する法的な影響、相続人の対応、遺産分割協議書における記載方法まで、東京都江東区および沖縄県那覇市の皆様に向けて詳しく解説します。
1.保証人の死亡と相続人の責任
(1)保証債務も「相続財産」の一部に含まれる
被相続人(亡くなった方)が他人の借金の保証人になっていた場合、その「保証債務」は、他の財産や借金と同様に、原則として相続の対象となります。たとえ本人が借金をしていなかったとしても、「保証契約を結んでいた」というだけで、将来支払義務が発生する可能性のある債務が、相続人に引き継がれるのです。
(2)主債務者がまだ返済中の場合
保証人の責任は、主債務者(お金を借りた人)が返済をしなくなったときに発生します。つまり、主債務者が返済を続けている限りは、保証人(被相続人)に返済請求が来ることはありません。ただし、相続が発生したことで、金融機関が主債務者への債務履行に不安を感じ、保証人の相続人に保証債務履行を求めてくることもあります。
2.相続放棄・限定承認による対応
(1)保証債務も含めて相続放棄できる
保証債務があることが明らかで、支払い能力がない、もしくは負担したくないという場合は、相続放棄をすることで債務の承継を回避できます。相続放棄をすることで、プラスの財産もマイナスの財産(債務)も全て相続しないことになります。
ただし、相続放棄は「自己のために相続があったことを知った日から3ヶ月以内」に家庭裁判所へ申述する必要があるため、早めの判断が必要です。
(2)限定承認という選択肢も
相続財産の全体像がつかめないが、マイナスの遺産が多すぎるかもしれないという場合には、「限定承認」という制度も利用できます。これは、「相続によって得た財産の範囲内でのみ債務を引き受ける」という制度で、最悪のケースを防ぐための方法です。ただし、限定承認は相続人全員で行う必要があるため、実務上は調整が難しいこともあります。
3.遺産分割協議における保証債務の取扱い
(1)保証債務は遺産分割の対象ではない?
裁判所の判例によれば、借金や保証債務などの「消極財産」は遺産分割協議の対象にはならないとされています。つまり、相続人同士で「この保証債務は誰が引き継ぐか」を協議して決めたとしても、その内容は第三者(たとえば金融機関)には主張できません。
しかし、相続人間で保証債務の負担について合意しておくことには意味があります。後日、実際に支払い義務が発生した場合、負担割合に従って「求償(分担請求)」を行う根拠となるからです。
4.遺産分割協議書への具体的な記載方法
保証債務の存在が明らかであり、特定の相続人がこれを引き継ぐ合意がある場合、遺産分割協議書には以下のような文言を入れることが実務的です。
(記載例)
第◯条(保証債務の承継)
被相続人○○○○が保証人となっていた、○○銀行△△支店に対する○○株式会社の債務(平成○年○月○日保証契約締結、当初債務額○○万円)については、相続人○○○○がすべてを承継する。
相続人○○○○は、上記保証債務に関して、他の相続人に対して何らの求償を行わないものとする。
このように、「保証債務の内容」「承継する人」「求償しない旨」を明記することが、将来的なトラブル回避につながります。
5.金融機関などとの対応 免責的債務引受契約
遺産分割協議書にどれほど明記しても、銀行など債権者には法的拘束力がありません。保証債務を事実上一人の相続人に引き継がせるためには、債権者との間で「免責的債務引受契約」を締結する必要があります。
これは、相続人Aが債権者(銀行)と契約を交わして、「今後の債務は自分だけが負う。他の相続人は責任を負わない」という内容を第三者にも認めてもらうための手続きです。
※この契約を締結するかどうかは債権者の判断に委ねられますので、必ず応じてもらえるわけではありません。
6.相続人が保証人であることを知らなかった場合の救済
実際には、「親が誰かの保証人になっていたなんて知らなかった!」というケースも少なくありません。このような場合でも、保証契約が存在していれば、原則として相続されてしまいます。
ただし、以下のような場合には、債務の無効や相続放棄の再検討が可能になるケースもあります。
- 保証契約書の形式に不備がある
- 債権者が相続人に通知を怠っていた
- 相続開始後に新たな情報が判明した場合(例:通帳に突然「差押通知」など)
こうしたケースでは、早急に弁護士・行政書士等の専門家に相談することが重要です。
7.まとめ
保証人が亡くなった場合、その保証債務も相続財産に含まれるため、相続人に責任が及びます。相続放棄や限定承認によって対応可能な一方で、適切な内容の遺産分割協議書の作成や、債権者との免責的債務引受契約の締結が、トラブルを未然に防ぐ鍵となります。
東京都江東区や沖縄県那覇市にお住まいで、相続に関する不安や疑問を抱えている方は、ぜひお近くの専門家に早めにご相談ください。保証債務のような見えにくい負債こそ、しっかりとした知識と備えが大切です。