
~「適正な経営体制」を満たすための実務対応~
建設業許可の取得において、「適正な経営体制の確保」は最も重要かつ難解な要件の一つです。特に、2020年の建設業法改正により、経営業務の管理責任者制度が廃止され、新たな体制要件として(1)~(5)の基準が導入されて以降、多くの事業者にとってこのハードルは一段と高くなりました。
第3回までで、(1)~(5)の内容やその判断基準について解説しましたが、本記事では特に「④または⑤にしか該当しない」あるいは「④・⑤にも該当しない」場合の実務対応について掘り下げていきます。
1. 「適正な経営体制」が成立する2つのルート
まず再確認ですが、現行制度において建設業許可に必要な「適正な経営体制」は、次のいずれかの形で確保されていなければなりません。
- Aルート:(1)~(3)に該当する方が常勤役員等として在籍している場合
- Bルート:(4)または(5)に該当する方が常勤役員等であり、かつ、その方を補佐する「財務・労務・業務運営」の実務経験者がいる体制
つまり、④・⑤にしか該当しない場合には「補佐者の存在」が不可欠であり、それすらも確保できない場合は許可取得が非常に困難になります。
2. ④・⑤に該当しても単独では不十分
④や⑤の基準を満たすことで、「常勤役員等」としての資格はあるものの、それだけでは「適正な経営体制」とは評価されません。もう一段の条件として、補佐体制が整っている必要があります。
2-1. 補佐者の要件
補佐者は、次のいずれかの業務について5年以上の実務経験を有する必要があります。
- 財務管理
- 労務管理
- 業務運営
このうち、いずれか一つではなく、すべてを網羅する必要があります。補佐者は必ずしも1人である必要はなく、以下のような構成も認められています。
業務区分 | 補佐者 | 経験年数 |
財務管理 | 経理責任者A | 5年以上 |
労務管理 | 総務担当者B | 5年以上 |
業務運営 | 工事部長C | 5年以上 |
もちろん、1人の人物がすべての業務について5年以上の経験を有している場合には、その1人のみで補佐体制を構成することも可能です。
3. 補佐者を確保できない場合の選択肢
さて、本題です。「④・⑤にしか該当しないが補佐者がいない」または「④・⑤にも該当しない」場合には、どのような選択肢があるのでしょうか?以下、代表的な方法を紹介します。
3-1. 外部人材の招聘
もっとも現実的かつ効果的な方法は、(1)~(3)に該当する人物を新たに役員として迎えることです。これにより、補佐体制を整えることなく、Aルートで「適正な経営体制」が成立します。
たとえば、
- 他社で5年以上取締役として建設業経営に関与していた人物を顧問や役員に迎える。
- 執行役員としての経験を有する人材をスカウトする。
ただし、常勤役員等である必要があるため、形式的な役員登記だけでなく、実際に営業所に常勤している実態が必要です。
3-2. 社内体制の整備と補佐者の認定
補佐者がいないように思えても、実は社内に要件を満たす人材がいる場合も少なくありません。特に、財務や労務に携わってきた古参の従業員、工事現場の現場管理者などを対象に次のような調査を行うことが有効です。
- 過去の職務内容と期間を文書で整理
- 在職証明書や業務経歴書を作成
- 会社として実務経験を裏付ける証拠資料(給与台帳・職務分掌など)を用意
補佐者として認定されるためには、単なる在籍年数だけでなく、具体的にどのような業務に従事していたかを明確に示す必要があります。
3-3. 経営体制の再構築(経営陣の変更)
時には、事業全体の再構築が必要になる場合もあります。たとえば、以下のような抜本的な体制変更です。
- 経営経験者と共同で新会社を設立する
- 現在の経営体制では許可要件を満たせないため、許可取得を見越した役員構成に変更する
許可取得を優先する場合、このような経営判断を行うケースも現場では実際に見られます。
4. 審査実務のポイントと注意点
補佐体制の要件を満たすか否かは、最終的には都道府県の建設業許可担当窓口の判断に委ねられます。東京都(江東区)や沖縄県(那覇市)においても、担当者によって審査の厳しさや求められる資料のレベルに若干の差があります。
以下のような対応が必要です。
- 補佐者の職務内容と経験を示す詳細な経歴書を提出
- 勤務実態を示す資料(勤務表、給与明細、業務指示書など)の提出
- 必要に応じてヒアリングや書面による確認に応じる
また、補佐体制が形式的であるとみなされた場合は、申請が却下される可能性もあります。そのため、表面的な書類作成ではなく、実態に即した体制構築と丁寧な説明が不可欠です。
5. 結論 実務における柔軟な対応と事前準備の重要性
「適正な経営体制」の要件は、建設業許可制度の中でも特に実務的な判断が求められる部分です。特に④・⑤しか該当しない、あるいはそのどちらにも該当しない場合は、補佐体制の構築や経営体制の見直しといった戦略的なアプローチが必要となります。
東京都江東区や沖縄県那覇市で建設業を営まれている方の中には、許可取得を断念しようか悩まれているケースもあるかもしれません。しかし、適切な対応をとることで、要件をクリアする道は十分に残されています。
まずは自社の状況を正確に把握し、必要に応じて専門家のサポートを受けながら、最適な対応策を検討していきましょう。