相続人が借金を隠していた場合の対応策~相続トラブルを防ぐために知っておきたいこと~

目次

1. はじめに

相続に関するトラブルの中でも、相続人の一人が「被相続人の借金を隠していた」ケースは、深刻な対立を生むことが多く、家庭裁判所における遺産分割調停や訴訟にまで発展することもあります。

借金(債務)は相続財産の一部であり、プラスの財産と同じく法定相続分に応じて分割されるものです。これを故意に隠して遺産分割協議を行えば、他の相続人の権利を侵害することになります。

この記事では、東京都江東区および沖縄県那覇市にお住まいの方々向けに、借金を隠していた相続人がいた場合の具体的な対応策について、法的根拠と実務上の注意点を交えて解説します。

2. 借金を隠していたとはどういうことか?

相続人の一人が、以下のような行動をとることが「借金を隠していた」ケースに該当します。

  • 被相続人に借入金やローンがあることを知りながら他の相続人に知らせない
  • 遺産分割協議書に借金の記載をしないよう意図的に誘導する
  • 自分が相続した財産にだけ債務の返済義務を負わせないようにする

たとえば、被相続人が金融機関に多額の借入れをしていたにもかかわらず、その存在を他の相続人に知らせず、財産(預金や不動産など)だけを対象に遺産分割協議を行い、そのまま署名・押印をさせるといったケースです。

3. 借金も相続財産です~法的な位置づけ

民法上、借金もれっきとした相続財産です。民法896条には、相続人は「被相続人の権利義務を承継する」とされており、これはプラスの財産(不動産、預貯金、株式など)だけでなく、マイナスの財産(借金や保証債務など)も含まれます。

ただし、借金は遺産分割の対象ではないという考え方が判例で確立されています。つまり、財産のように「相続人の間で協議して分ける」ものではなく、相続開始と同時に当然に法定相続分で負担すべき義務とされているのです。

したがって、借金を故意に隠す行為は「法定相続分に従って相続されるべき義務の履行」を妨げる、極めて重大な行為です。

4. 借金を隠していたことが発覚した場合の対応策

(1)遺産分割協議のやり直しを求める

もし、借金があることを知らされずに遺産分割協議書に署名押印してしまった場合でも、やり直しが可能です。これは、次のような法的主張が認められるためです。

  • 錯誤(民法95条)
    内容を誤解していたことによる意思表示の無効を主張する。
  • 詐欺(民法96条)
    相手の故意による不実の告知によって意思表示をした場合、その遺産分割協議を取り消すことができる。

どちらの主張であっても、早めに弁護士や行政書士などの専門家に相談し、証拠(通帳・借用証書・借入先の資料など)を整理してから、他の相続人と交渉を進める必要があります。

(2)求償権の行使

たとえ遺産分割協議に借金の記載がなくても、債権者からの請求は法定相続分に応じて行われます。つまり、借金の存在を知らされなかった相続人に対しても、債権者は請求することができます。

このような場合、実際に債権者に返済を行った相続人は、借金の存在を隠していた相続人に対して「求償権」を行使できます(民法442条)。

求償権を行使することで、本来負担すべき額以上を支払った分について、その相手から回収することが可能です。

5. 故意に借金を隠した相続人の法的責任

借金の存在を故意に隠していた場合、次のような責任が問われる可能性があります。

(1)不法行為責任(民法709条)

相続人同士は「共同相続人」として互いに誠実に協議を行う義務があります。これに反して、他人の損害を故意または過失により生じさせた場合には、不法行為が成立する可能性があります。

この場合、損害賠償請求の対象になります。

(2)遺産分割協議の無効・取消

前述の通り、錯誤や詐欺によって成立した遺産分割協議は、無効または取り消しが可能です。

6. 借金の有無を事前に確認するには?

借金を隠されるリスクを最小限にするためには、相続開始後、すぐに以下のような情報収集を行うことが大切です。

  • 信用情報の開示請求(JICC、CICなど)
    被相続人が借金していた可能性のあるクレジット会社や消費者金融の情報を確認できます。
  • 取引履歴の確認
    銀行通帳やカード明細を確認し、毎月の返済履歴や引き落としの有無をチェックしましょう。
  • 戸籍と住民票の附票による住所歴の調査
    引っ越し歴から不自然な住所(消費者金融が集まるエリア等)を推定することもできます。

7. 相続人間の信頼関係を守るために

借金の隠蔽は、遺産分割をめぐる相続人間の信頼を著しく損なう行為です。

そのような事態を防ぐためにも、以下のような事前対策を講じておくことをお勧めします:

  • 遺言書の作成(特に公正証書遺言)
     借金の存在を含めて財産の全体像を明記しておけば、相続開始後のトラブル予防に有効です。
  • 相続人間での情報共有の場の確保
     遺産分割協議の前に専門家を交えて「相続財産の棚卸し会」を開くなどの工夫が有効です。
  • 相続財産調査の外部委託
     行政書士等の専門家に財産調査を依頼することで、漏れのない情報整理ができます。

8. まとめ

借金を隠していた相続人がいる場合、遺産分割協議のやり直しや求償権の行使など、さまざまな対応策が可能です。ただし、これらはすべて事後的な対処であり、そもそもトラブルが起こらないような備えが何よりも重要です。

東京都江東区および沖縄県那覇市にお住まいで、相続手続や財産調査に不安を感じている方は、地域事情に詳しい行政書士へご相談いただくことをおすすめします。

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