
高齢化社会の進展に伴い、「認知症になっても財産の管理を続けたい」「自分の死後も家族のために財産を活かしてほしい」と考える方が増えています。そのようなニーズに対応する手段のひとつが家族信託です。
しかし、いざ家族信託を始めようとしても、「実際にはどんな契約書を作るのか」「どこまで内容を決めるのか」といった不安を抱える方も少なくありません。
今回は、実際の信託契約書の事例をもとに、その基本構成と注意すべきポイントを具体的に解説します。特に東京都江東区や沖縄県那覇市の方々に多い不動産の信託や親子間の信託契約に焦点を当て、実務で役立つ内容を整理しました。
1. 家族信託契約書の基本的な構成
まず、家族信託の契約書は、以下のような基本構成に従って作成されます。
- 前文(信託の趣旨・背景)
- 定義条項
- 信託の設定・目的
- 信託財産の内容
- 信託の開始および終了時期
- 受益者の指定
- 信託財産の管理・処分方法
- 帳簿の作成・報告義務
- 信託報酬と費用負担
- 受託者の変更・辞任・解任
- 信託終了後の残余財産の帰属先
- 補則・紛争処理方法
以下に、実際に多くのご家庭で使われる典型的な事例を紹介します。
2. 信託契約書の事例:自宅不動産の信託(親→子)
【背景】
・江東区に住む80歳の母Aさん
・不動産(自宅1件)を所有
・認知症の兆候が見られ始めたが、施設への入居は未定
・将来的に売却や賃貸、維持費の管理を長男Bさんに任せたい
【契約書の一部(条文抜粋)】
第1条(信託の設定)
委託者Aは、本信託契約の締結により、別紙記載の不動産(以下「信託不動産」という)を受託者Bに信託し、Bはこれを受託する。
第2条(信託の目的)
本信託は、委託者の生活の安定、医療・介護費用の確保、信託財産の円滑な管理・運用・処分および将来の承継を目的とする。
第3条(信託財産)
本信託の信託財産は、以下の不動産とする。
東京都江東区〇〇〇丁目〇番〇号
土地:〇〇㎡
建物:木造2階建 〇〇㎡
第4条(受益者の指定)
受益者は、委託者Aとする。
Aの死亡により、受益者の地位は次のとおりとする。
- 第一次受益者の死亡後、B(長男)を第二次受益者とする。
第5条(信託の終了)
次のいずれかの事由が発生したとき、本信託は終了する。
- 受益者全員が死亡したとき
- 委託者が信託終了を希望したとき(但し、意思能力がある場合に限る)
第6条(信託財産の管理・処分)
- 受託者は、信託財産である不動産の修繕・賃貸・売却を行うことができる。
- 売却代金は信託口口座に入金し、受益者の生活費、医療・介護費用等に充当する。
第7条(残余財産の帰属先)
信託終了時に残る財産は、長男Bに帰属するものとする。
第8条(受託者の義務)
受託者は、信託帳簿を作成し、少なくとも年1回、受益者またはその家族に報告しなければならない。
第9条(報酬および費用)
本信託に関する受託者の報酬は無償とする。ただし、実費については信託財産から支出できる。
3. 実務での注意点とアドバイス
(1)不動産登記の変更が必要
信託契約が成立しても、不動産の名義変更(信託登記)をしなければ対外的には信託の効力を主張できません。司法書士と連携し、信託登記を速やかに済ませましょう。
(2)信託口口座の開設に苦労するケースも
信託財産に預貯金が含まれる場合、「信託口口座」(信託専用口座)の開設が必要です。銀行によって対応に差があり、支店長決裁などを要する場合もあるため、事前に相談することが重要です。
(3)「終了後の受益者」や「残余財産帰属先」を明確に
家族信託は長期的な設計が可能な反面、受益者が死亡した場合にどうするか、その後の帰属先を明確にしないと相続と同様の争いが生じるリスクがあります。将来的な世代交代を想定した信託設計が重要です。
(4)信託監督人の設置も検討
信託の内容が複雑であったり、受託者と他の親族間で不信感がある場合、「信託監督人」を設けることで、受託者の行動を監視する第三者機関として機能させることができます。
4. 家族信託契約はオーダーメイド
信託契約書は、画一的なひな型では対応できないケースが多く、家族の状況や財産の性質、委託者の希望に応じて一件一件オーダーメイドで設計する必要があります。
たとえば那覇市では、複数の土地を保有しているご家庭が多く、土地活用の観点から「不動産信託+賃貸運用+孫世代への継承」といった設計が求められることもあります。
一方、江東区のようにマンションや投資物件が多い地域では、賃貸収入を活用した生活費確保や、複数の相続人間での公平な分配が求められることもあります。
5. まとめ 実例から見えてくる家族信託の有用性
実際の契約書を見ることで、家族信託が単なる「形式的な制度」ではなく、現実的な資産管理と承継の手段として極めて柔軟な制度であることが理解いただけたかと思います。
遺言では対応できない「生前からの財産管理」や「長期にわたる財産承継」を実現できる点は、特に今後の超高齢社会を生きる上で重要な選択肢です。
家族の将来を見据えた財産の活用・承継について、制度を知ることは第一歩です。家族の希望に合った設計を行い、安心した老後と円満な相続を実現するために、専門家とともに具体的な契約内容を設計してみてはいかがでしょうか。