建設業許可「知事許可から大臣許可への変更」―複数都道府県で営業するときの手続きと注意点

建設業を営むうえで、「営業所を新たに他の都道府県に設けたい」「東京と沖縄の両方で事業展開したい」と考える事業者は少なくありません。
しかし、このように複数の都道府県に営業所を設ける場合、建設業許可の扱いが変わることをご存じでしょうか。

これまで東京都や沖縄県といった単一の都道府県内だけで営業していた場合は「知事許可」ですが、
他県にも営業所を設置した段階で「国土交通大臣許可」に変更しなければなりません。

この記事では、知事許可から大臣許可に切り替える際の手続きの流れ、提出先、必要書類、そして実務上の注意点を詳しく解説します。
東京都江東区および沖縄県那覇市で事業を展開する建設業者の方は、今後の事業拡大の際に必ず押さえておきたい内容です。

目次

1. 知事許可と大臣許可の違いを正しく理解する

建設業許可は、営業エリアに応じて「知事許可」と「大臣許可」に分かれます。

  • 知事許可:営業所が1つの都道府県内にのみある場合
  • 大臣許可:2つ以上の都道府県に営業所がある場合

たとえば、江東区に本店があり、東京23区内でのみ営業している場合は東京都知事許可で問題ありません。
しかし、沖縄県那覇市に新たに営業所を設けた場合、営業拠点が東京都と沖縄県の2か所になります。
この時点で、「都道府県の枠を超えて営業している」とみなされ、国土交通大臣許可に変更する必要があります。

2. 「知事許可から大臣許可」への変更は「新規申請」

ここで注意したいのは、「変更」という表現ではありますが、
実務上は新規の建設業許可申請として扱われる点です。

つまり、これまでの「東京都知事許可(または沖縄県知事許可)」は廃止し、
新たに「国土交通大臣許可」を取得することになります。

このため、許可番号も引き継がれるわけではなく、
新しい番号が付与されることになります。

イメージとしては、
「知事許可をいったん終了させ、大臣許可として再スタートする」という流れです。

3. 大臣許可への変更手続きの流れ

手続きの基本的な流れは、以下のようになります。

(1) 廃業届の提出(知事許可の終了)

現在受けている知事許可を一度「全部廃業」という形で終了させます。
廃業届は、これまでの許可を受けていた都道府県(東京都または沖縄県)に提出します。

なお、この段階では事業自体をやめるわけではなく、「許可を返上して新しい区分に移行する」ための事務手続きです。

(2) 大臣許可申請書の作成

新たに国土交通大臣許可を申請します。
これは、知事許可のときとほぼ同じ構成の書類ですが、複数都道府県に営業所があるため、すべての営業所情報を記載しなければなりません。

主な提出書類は次の通りです。

  • 建設業許可申請書(大臣許可用)
  • 役員の住民票・登記されていないことの証明書
  • 法人の履歴事項全部証明書(発行後3か月以内)
  • 経営業務管理責任者に関する証明書
  • 専任技術者に関する証明書
  • 直前2年分の決算書・納税証明書
  • 営業所ごとの写真・平面図・賃貸契約書写し
  • 使用人名簿(各営業所ごと)

このほか、各地方整備局によって細部の指定が異なるため、本店所在地の都道府県担当課を経由して、事前確認を行うことが重要です。

4. 提出先と経由先

大臣許可の申請は、本店所在地を管轄する地方整備局に提出します。
ただし、直接送付するのではなく、本店所在地の都道府県庁を経由して提出するのが原則です。

たとえば次のようになります。

  • 本店が東京都江東区 → 東京都都市整備局を経由して関東地方整備局へ提出
  • 本店が沖縄県那覇市 → 沖縄県土木建築部 技術・建設業課を経由して沖縄総合事務局へ提出

提出の際には、都道府県での確認印を受けたうえで、整備局へ正式に申請する流れとなります。

この「経由提出」は単なる形式ではなく、都道府県での事前確認を経ることで書類の不備を防ぐ重要な工程です。

5. 営業所の要件 ―「営業所」とみなされるために必要な条件

大臣許可が必要になるかどうかの判断基準となる「営業所」とは、
単なる倉庫や現場事務所ではなく、実際に建設業の営業活動を行う拠点を指します。

営業所と認められるためには、次のような要件を満たしている必要があります。

  1. 常勤の従業員が配置されている
  2. 契約締結・見積書発行などの営業行為が行われている
  3. 独立した事務設備(机・電話・パソコンなど)が備えられている
  4. 他の事務所と明確に区分されている

単に「倉庫を借りた」「看板を掲げた」だけでは営業所とはみなされません。
この要件を満たさずに申請した場合、虚偽申請と判断されるおそれがあります。

6. 大臣許可への変更に伴う実務的注意点

(1) 許可業種はすべて再申請が必要

これまで知事許可で取得していた業種が複数ある場合、
大臣許可でもそのすべてについて再度審査を受ける必要があります。
一部業種のみを継続することも可能ですが、その場合は「一部廃業届」も併せて提出します。

(2) 許可の有効期間はリセットされる

大臣許可を新規に取得するため、許可の有効期間(5年)は新たにカウントされます。
知事許可時代の残り期間を引き継ぐことはできません。

(3) 経営業務管理責任者の要件確認

営業所を複数設ける場合、経営業務管理責任者が常勤しているかどうかが重要です。
本店に配置するのが原則ですが、実際に経営判断を行える立場であることが求められます。

(4) 専任技術者の配置

各営業所ごとに専任技術者を配置する必要があります。
東京と沖縄に営業所を設ける場合、それぞれの拠点に技術者が常駐している体制を示す必要があります。

7. 審査期間とスケジュール感

大臣許可の審査期間は、おおむね2〜3か月が目安です。
ただし、書類不備や営業所確認の必要がある場合には、さらに時間がかかることもあります。

また、知事許可からの切替時には、「廃業届提出 → 新規申請 → 審査完了」までの間に空白期間が生じる可能性があります。
そのため、申請タイミングを慎重に調整することが重要です。

通常は、知事許可の有効期間内に大臣許可を取得できるよう、
2〜3か月前から準備を始めるのが望ましいでしょう。

8. 申請時の相談窓口

東京都・沖縄県では、それぞれの所管課が建設業許可の窓口となっています。
実務上の細かい要件は地域によって若干異なるため、事前相談をしてから申請準備を始めるのがおすすめです。

  • 東京都江東区の事業者の場合
     東京都都市整備局 建設業課
     (新宿区西新宿二丁目8番1号 東京都庁第二本庁舎)
  • 沖縄県那覇市の事業者の場合
     沖縄県土木建築部 技術・建設業課
     (那覇市泉崎一丁目2番2号 県庁行政棟)

両庁とも、事前予約制や郵送受付に対応している場合があります。
また、国土交通省の各地方整備局ホームページでは、最新の申請様式や記載例が公開されています。

9. まとめ ― 複数都道府県での事業展開には「大臣許可」が不可欠

建設業の発展に伴い、東京・沖縄など複数地域での営業を検討する事業者が増えています。
その際には、知事許可から大臣許可への切替えという大きな手続きが避けられません。

  • 営業所が複数の都道府県にあると「大臣許可」が必要
  • 手続きは「新規申請」として扱われ、番号も新たに発行される
  • 本店所在地の都道府県を経由して地方整備局に申請
  • 営業所の実体・技術者配置など、知事許可より審査が厳格

この切替えは一見煩雑ですが、事業拡大の大きな一歩でもあります。
許可の整理を確実に行うことで、公共工事の受注範囲や信用力の向上にもつながります。

東京都江東区や沖縄県那覇市で事業を拡大しようとする建設業者の皆さまにとって、
大臣許可への移行は今後の成長を支える重要なステップとなるでしょう。

建設業許可申請に精通した行政書士見山事務所までお気軽にご相談下さい。

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