
相続が開始されたとき、被相続人にプラスの財産(預貯金や不動産など)だけでなく、借金や未払い金といったマイナスの財産が含まれていることは珍しくありません。こうした場合に、「相続放棄」や「限定承認」という制度をどう使うかが重要になります。今回は、そのうちの「限定承認」について、制度の概要だけでなく、実際に清算手続がどのように進むのかを、実務の流れに沿って詳しく解説します。東京都江東区や沖縄県那覇市にお住まいの方にも役立つよう、現実的な注意点を交えて説明します。
1 限定承認の基本的な考え方
限定承認とは、被相続人から相続した財産の範囲内でのみ借金などの債務を弁済することを認める制度です。相続人が自らの財産で被相続人の借金を負うことはなく、「相続によって得た財産の限度で責任を負う」という仕組みです。
たとえば、相続財産が1,000万円、不動産評価額が1,000万円、借金が1,500万円あった場合、限定承認を行えば、相続人は1,000万円の範囲で債務を弁済すればよく、残りの500万円については支払う義務がありません。
限定承認は、家庭裁判所に申立てを行って認められる手続きです。重要なのは、相続人全員が共同で申立てを行う必要があるという点です。一人でも同意しない相続人がいる場合、限定承認はできません。
2 限定承認の申立ての流れ
限定承認を行うには、相続の開始を知った日から3か月以内(熟慮期間)に、家庭裁判所に「限定承認申述書」を提出します。
申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
江東区の場合は「東京家庭裁判所」、那覇市の場合は「那覇家庭裁判所」が管轄となります。
申立てには、次のような書類を添付します。
- 限定承認申述書
- 被相続人の戸籍謄本一式
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の財産目録
- 申立人の住民票
- 申立手数料(収入印紙800円程度)および郵便切手
申立てが受理されると、家庭裁判所から「限定承認申述受理通知書」が発行されます。ここから、実際の清算手続が始まります。
3 公告と債権者への通知
限定承認の申立てが受理されると、相続人(または代表者)は、官報に公告を行います。これは「被相続人に対して債権を有する者は、一定期間内にその債権を申し出てください」という告知です。
公告期間は2か月です。債権者が多数に及ぶこともあるため、相続人が自ら公告を行うのではなく、実務上は弁護士など専門家を通して手続きを行うケースが多いです。
公告後、債権者が申し出た債権内容をもとに、「相続財産の目録」と照らし合わせ、支払順位や弁済額を整理していきます。
4 相続財産の換価と債務の弁済
限定承認手続では、相続財産を現金化し、その中から債務を支払うという流れを取ります。
具体的には次のような手順です。
- 相続財産に不動産がある場合、売却や競売などで換価します。
- 現金・預金・売却代金などをまとめて「清算財産」とします。
- 申し出のあった債権者に対し、法律上の優先順位に従って弁済を行います。
- 税金などの公租公課
- 労働債権
- 一般債権 などの順に処理します。
債務の全額を支払えない場合でも、相続財産の範囲内で弁済すれば足ります。これにより、相続人が自分の財産から補填する必要はありません。
5 残余財産の帰属と分配
全ての債務の清算が終わり、なお財産が残った場合は、残余財産を相続人で分割します。
このとき、残余財産は限定承認の効果を受けた後の財産として、通常の相続と同様に分割協議を行うことが可能です。
一方、債務が多く、全財産を清算しても債権者への弁済で尽きる場合、相続人に戻る財産はありません。限定承認は「負債を超えた責任を負わない」という意味での安全装置であるため、プラスの財産が残らないこともあり得ます。
6 実務上の注意点
限定承認は法的には明確な制度ですが、実務上は非常に複雑です。特に以下の点に注意が必要です。
- 相続人全員の同意が必要
相続人の一人でも反対すると限定承認は成立しません。関係者間の意思統一を早めに行うことが大切です。 - 熟慮期間内の判断
3か月を過ぎてしまうと自動的に「単純承認」とみなされます。期限管理が極めて重要です。 - 財産目録の作成が難しい
不動産、預貯金、保険、株式、借金などを正確に把握する必要があり、専門的知識が求められます。 - 公告や債権者対応に専門性が必要
官報公告や債権整理には法的知識が不可欠です。相続人自身で対応するのは負担が大きいため、専門家への依頼が望まれます。
7 東京都江東区・沖縄県那覇市での限定承認手続の特徴
東京都江東区では、家庭裁判所への申立てのほか、複数の不動産や債権者が存在するケースが多く、手続の煩雑さが目立ちます。一方、沖縄県那覇市では、相続財産に土地や建物が多く、登記関係や換価手続の手間がかかる場合があります。
いずれの場合も、早期に相続財産の全体像を把握し、熟慮期間内に方向性を決定することが最も重要です。
8 まとめ
限定承認は、「相続財産の範囲でのみ責任を負う」という安全な制度ですが、申立てから清算完了までには多くの手続と時間がかかります。官報公告、債権調査、財産換価、債務弁済、残余財産の分配と、段階的に処理しなければなりません。
相続放棄のように単純ではなく、専門的な判断や書類作成が求められるため、実際の運用にあたっては行政書士や弁護士など専門家の支援を受けることが重要です。
東京都江東区や沖縄県那覇市にお住まいで、「負債があるが放棄はしたくない」「不動産を残しつつ責任を限定したい」とお考えの方は、早めに専門家へ相談し、最適な方法を選ぶことをおすすめします。
終活・生前相談、遺言作成、相続手続に精通した行政書士見山事務所はお気軽にご相談下さい。

