
相続や遺言のご相談を受けていると、「遺贈(いぞう)」と「贈与(ぞうよ)」の違いについて質問されることがよくあります。どちらも財産を他人に譲る行為ではありますが、法律上は明確に区別されています。手続きの方法や税金の取り扱いも異なりますので、誤解したまま進めてしまうと、後々トラブルや税負担に繋がるおそれもあります。
今回は、東京都江東区および沖縄県那覇市にお住まいの方々に向けて、遺贈と贈与の違い、各手続きの注意点についてわかりやすく解説していきます。
1.遺贈とは
遺贈とは、遺言によって自分の財産を相続人以外の誰かに無償で与える行為です。つまり、「自分が亡くなった後に、ある財産を誰かに譲る」という行為になります。
●遺贈の対象者(受遺者)
遺贈は、相続人でない第三者にも行うことができます。もちろん、相続人に対しても遺贈という形で財産を渡すことは可能ですが、法律上は「相続」と区別されることになります。
また、受遺者には個人だけでなく、法人(たとえばNPO法人や自治体など)を指定することも可能です。
●遺贈の種類
遺贈には大きく分けて以下の2種類があります。
- 包括遺贈
たとえば「全財産の3分の1を○○さんに遺贈する」といったように、割合や全体からの一部を指定するものです。この場合、受遺者は相続人と同じように相続財産の一部を承継する立場になります。 - 特定遺贈
たとえば「○○市の土地を△△さんに遺贈する」といったように、特定の財産を指定して譲る方法です。
2.贈与とは
贈与とは、生きているうちに財産を無償で他人に与える契約行為です。法律上は、当事者同士の意思表示によって成立する契約であり、「贈与契約」と呼ばれます。
たとえば、「子どもに100万円を生前に渡す」「友人に不動産をあげる」などが贈与にあたります。
●贈与の種類
贈与にもいくつか種類があります。
- 単純贈与(一般贈与)
特に契約書などを作らずに行う贈与です。ただし、税務上の問題があるため、高額な贈与をする場合には後述の贈与契約書を作ることが望ましいです。 - 負担付き贈与
受贈者に何らかの義務(例:住宅ローンの引継ぎ)を課す形の贈与です。 - 死因贈与
「自分が死んだら財産をあげる」という生前契約の一種で、遺贈に似ています。ただし、これはあくまで「生前に契約した贈与」なので、遺贈とは扱いが異なります。
3.遺贈と贈与の主な違い
項目 | 遺贈 | 贈与 |
タイミング | 死後に効力が発生する | 生前に効力が発生する |
法的性質 | 遺言に基づく単独行為 | 双方の意思による契約 |
手続き | 遺言書の作成・検認が必要 | 贈与契約書の作成が望ましい(口頭でも可) |
税金 | 相続税が課税されることが多い | 贈与税が課税される(基礎控除110万円あり) |
取り消し・撤回 | 生前ならいつでも可能 | 一度成立すると一方的には原則撤回できない |
4.遺贈と贈与、それぞれの注意点
●遺贈の注意点
- 遺言書の形式が整っていないと無効にされることがある
自筆証書遺言の場合、日付・署名・押印が抜けているだけで無効になることがあります。形式に不備がないよう、専門家の助言を得ることをおすすめします。 - 遺留分に注意する
相続人には遺留分という最低限の取り分が法律で保障されています。たとえば、「全財産を愛人に遺贈する」と遺言しても、相続人(配偶者や子など)から遺留分侵害額請求をされる可能性があります。 - 受遺者の同意が必要
遺贈を受けた人は、それを承諾するかどうか自由に決められます。必ずしも受け取る義務はありません。
●贈与の注意点
- 贈与税に注意
1年間に110万円を超える贈与がある場合は、贈与税の申告が必要です。高額な財産の贈与は、税務署から調査を受けることもあります。 - 契約書を残すことが重要
口頭の贈与は成立するものの、後から「もらっていない」「そんな約束はしていない」と争いになるケースがあります。金額が大きくなるほど、贈与契約書の作成が重要になります。 - 不動産の贈与には登記が必要
不動産を贈与する場合は、所有権移転登記を行う必要があります。登録免許税や不動産取得税なども発生するため、事前に費用の確認をしておきましょう。
5.生前贈与と遺贈、どちらを選ぶべきか?
これはケースバイケースですが、以下のような基準で考えることができます。
- 生前に財産を確実に渡したい/節税を考えたい → 贈与が有利
- 死後に財産を渡したい/遺産全体の調整を考えたい → 遺贈が有利
たとえば、長年面倒を見てくれた相続人以外の方(義理の娘や長年の友人など)に感謝の気持ちを伝えるなら遺贈が適しています。一方、生前から計画的に子や孫に財産を移していきたいと考えるなら、生前贈与が選択肢になります。
6.まとめ
遺贈と贈与は、どちらも自分の財産を他人に譲る手段ではありますが、法的な性質・発効時期・税金など、さまざまな点で異なります。どちらを選ぶかによって必要な手続きや負担する費用も変わってきますので、目的や相手、財産の内容などに応じて慎重に検討する必要があります。
ご自身の意思を確実に実現し、無用なトラブルを防ぐためにも、遺贈や贈与を検討されている方は、専門家に相談のうえ、正しい手続きを踏んでいくことをおすすめします。